従姉妹たち
「ナツちゃんが6歳くらいのころかなあ。誕生日にそれ買ってもらってからさ、流行語みたいに、だーす、だーすって。そんなふうだったから……、」
そのさきは、覚えている。いま、思い出した。
「……はるねえが、とってくれたんだよね。クレーンゲームで。」
「そう。なんて名前にしよう? って言ったら、すぐ、ダースって。」
遥はなつかしげに目線をさまわせた。
「うん、……」
細かく覚えているわけではない。ただ、その瞬間のうれしい気持ちは、胸に蘇ってきた。
「これを描いたのは、そのすぐ後だっけ。ぬいぐるみのダースで、毎日遊んでるうちに、お話ができてさ。……『にほんのて』って、わたしの手だよ。こうやって、ほら。」
遥は、五本の指をまるで生き物のように動かして、獣が首をもたげるように、人差し指を持ちあげてみせた。
「がおー!……ほら、こんなふうにね。」
年のわりにかさついた、皺の多い手を。長袖を、きたままの。
とたん、遥の脳裏になつかしい記憶が鮮明によみがえってきた。
わたしは、
「……この手が、好きだったんだ。」
そっと、掌をつかむ。遥はびくんと震えて、手をひこうとした。菜月は放さなかった。
長袖が、はらりとずり落ちた。幾重もの傷がある手首があらわになった。
菜月はかまわず、遥の体に身をあずけた。ベッドの上にいる遥の胸に頭をのせて、ちょうど抱きしめられるようなかたちになった。
「どうしたの?」
緊張をにじませながらもやさしい声で、遥はきいた。
「……なんでもないよ。」
*
それから、午後は妹もまじえて、3人で街へくりだした。電車の中では妹がいちばんはしゃいで、遥はずっと笑っていた。
ショッピングモールにはいり、3軒目の服屋を出たとき、遥の顔がちょっと青いのに気がついて、菜月は「だいじょうぶ?」とささやいた。
「うん、」と遥はつぶやいた。菜月は衝動的に、遥の手をとって引いた。遥はちょっと目をみひらいて、それから微笑んだ。
「ありがとう、」と、手を握り返しながら。
そのとき、菜月は決めたのだ。
*
東京へ帰る日、遥は、『ダースのだいぼうけん』の入った袋をそっと菜月にわたして、囁いた。
「……これ、わたしのお守りだったの。でも、返す。大事にしてね」
「いいの?」
「うん、……東京も大変だけど、なんとかやってくから。わたし、……まんがを描いてるの。そのうち、持ってくるから、読んでね」
それから、長袖をひらひらさせながら大きく手を振って、遥は帰っていった。




