おさなともだち
「これ、……」
「おぼえてない?」
菜月は、ぎゅっと眉根をよせて考えこんだ。なにかが、頭のなかにひっかかっている。
つたない文字は、色鉛筆かなにか。節操なく、赤と思えば青、黄色、桃色、黒に橙。ダースという単語は特にお気に入りらしく、一文字ごとに色をかえたり、ふちどりをして目立たせている。
子どもらしい、ばたばたとはねまわるような文字。
いっぽうで、あらいぐまや『にほんのて』の絵は、輪郭がしっかりしていて、同じ人間が描いたとは思えない。
「……もしかして、わたしが書いたの?」
「そう、挿絵はわたし」
遥は、ちいさな目をにいっとつりあげて、自慢げにいった。
「ぜんぜん覚えてない? まだ小さかったからね」
菜月は、目を閉じて考えこんだ。
ぱちんと、パズルのピースがはまったように、とはいかない。
それでも、思い当たるものがあった。
「……これ、『ダース』で書いたんだ」
小さく、拾い上げるようにそうつぶやくと、遥はうれしそうに手を打った。
「そう! 思い出した?」
「うん、……すこし。」
「ね、これ。持ってきたの。見てくれる?」
そういって、ふたたびキャリーバッグの奥から、ごそごそと何かを取り出す。こんどは、きれいにテープどめされた、書店の紙袋。
促されて、菜月が開封する。ふわりと街のにおいが鼻をさす。
新品の、色鉛筆の箱であった。十二色の。
ダース。箱に、大きくそう書いてある。商品名らしい。
「同じやつ、たまたま見つけてね。ナツちゃんにあげようと思って買ったんだ。前のは、使い切っちゃったでしょう?」
*
幼かった菜月は、ただ、ダースという『ことば』が好きだったのだ。
それが、始まりだった。




