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動かないぬいぐるみ
「なあんだろ、ねえ」
菜月は、喋らないぬいぐるみを両手で抱きあげて、かすれる声で。
「何やってんだろねー、わたし。」
ダースの、うごかない手を、ぎゅっと握りしめて。
「待ち合わせすっぽかしてサ。あやまりもしないで……もう、連絡もつかないんだけどさ。消しちゃったもん、ぜーんぶ」
よそいきの、少し派手なワンピース。勢いでベッドに倒れ込んだので、皺でぐちゃぐちゃになっている。構うもんか。
「会ってみればさ、たぶんいい人でさ。うまくいくんだよね、きっと。でもさァ…….。やっぱ、だめだよ、わたし」
ぱち、ぱち、とまばたき。涙がこぼれる。何度目をとじても、ダースの表情は変わらない。
「……ねえ、やっぱり、喋らないんだ。あんた……、」
前は、ちゃんと頷いてくれたのに。
そう、思いかけて、ふと気づく。 前っていつだ?
前、ずっと前……、ダースがここにくる前?
だれと?
*
次の日から、菜月は大学へ行けなくなった。




