同級生たち
翌日。
一限目の必修授業、なんとか間に合ってほっとしていると、つかつかと、同じグループの女が歩みよってきた。
ただでさえ背の高いところへ黒いパンプス、茶髪をきれいに巻いて、肩と首もとを露出したワンピース。アイメイクをばっちり決めたきつい目つきに、ちょっと高めの、投げつけるような声。苦手なタイプだ。
「高橋さん。……きょうの発表の準備、やってきた?」
「え、……。」
発表。先週のこの授業は、出席していたはずだが。何も覚えていない。
「まさか、やってないの!?」
早口の大声、同じグループの3人が、こっちをむく。
「……ごめん、でも、……忘れてたっていうか、」
「うそでしょ、先週、やるって言ってたじゃん!」
そういえば、そんなことがあったような気もする。先週の授業の記憶は、もう忘却の彼方だ。
わざとではない、などと言ったところでどうにもならない。ただ、黙っているしかなかった。連帯責任。そんな言葉がぐるぐるまわる。
「もういい。……私たちが、なんとかするから。」
叩きつけるようにそういって、女は席にもどり、ほかのメンバーと早口で相談をはじめた。
菜月は、ただ膝に手をかたくして、目を伏せて黙っているしかなかった。
*
会おう、といいだしたのは菜月だが、場所と時間を指定したのは男のほうだった。菜月が通学に使っている路線の、乗り換え駅のロータリー。待ち合わせスポットとして有名な時計塔がある。それが目印だった。
夕方。まずは会って、お茶でも。それから、よければ近くの映画館へ。
正直いって、あまり浮き立った気分ではなかった。ちょっとでも気を抜くと、考えなくてよいことが頭に入り込んできそうだ。
ハンドバッグを膝にのせて、人の多い車両の端の座席。目をつむって、こめかみを、とんとんと叩く。集中、集中。
もうすぐ、降りる駅だ。
目をあけた瞬間、知り合いの顔が目にとびこんできた。
黒いボブカットで、いつも目を細めたような、やさしげな顔をした同級生。
けさの必修授業で、同じグループだったメンバーのひとりだ。彼女にも迷惑をかけてしまっている。謝らなければと思ったつぎの瞬間、もうひとりの顔が目に入って、思わず目をそらす。今朝、文句を言ってきた女だ。そればかりではない。よく見ると、グループの全員が、連れ立って同じ車両にいる。
どこか浮き立ったような様子で、談笑しながら。
たまたま一緒になったというふうではない。菜月は考えるのをやめようと思ったが、できなかった。
ドアがひらく。むこうは、ドアのちかく。こっちに気づいてはいないようだ。
菜月は降りようとする人の動きにまぎれて、となりの車両につづくドアをくぐった。そのまま降りようと思ったが、足が震えて動かなかった。ドアに背中をもたせて、大きく息をつく。
ぐるぐると、いろんな思いが頭をかけめぐった。
ふいに、頭から血の気がなくなったような感じがして、座りこんでしまう。ぼろぼろと涙がこぼれる。貧血か。それとも。
ドアが閉まった。
涙をふきながらスマートフォンをつけて、SNSのアカウントを消した。なぜだか、そうしなければいけないような気がした。




