まるポン
翌日──
菜月は、午前中まるまるを、部屋からでずに過ごした。ダースは喋らなかった。まるで、あたりまえのぬいぐるみのように、動かずにいた。
午後になって、菜月は家族に聞いてまわった。『ダース』がいつから家にいたのか、自分ではどうしても思いだせない。
昼食を食べながら、母にきく。
「知らない。ゲームセンターかなんかで取ってきたんじゃない?」
大学へゆく電車のなかで、メッセンジャーアプリを使って、妹に。
『あれ、プライズでしょ』
『気がついたら家にあったような。自分でとったんじゃないの?』
『それか、美羽ちゃんかハル姉か』
もうずっと会ってない叔母の名前がでるに至って、出どころの追求はいったん諦めた。そのかわり、大学のコンピュータ室で、タグの文字から検索をかけてみる。
あった。
メーカーのウェブサイトに、写真入りで。
”まるポン。ちょっとお茶目な、たぬきの女の子です。”
「……あらいぐまじゃないんだ」
菜月は、おもわず声をあげて呟いた。
(ていうか、女の子だったんだ。)
そっちのほうが、幾分かショックかもしれない。
*
スマートフォンの通知音。
このあいだ登録しておいたSNSだ。
写真をアップしてすぐ、何件もくだらないメッセージが来ていたが、放置していた。なんとなくメッセージボックスを開いてみてすぐ、いま来たばかりの通知が目にとまる。
──○○市の大学生です。友達になりませんか?
それから、長文の自己紹介。さらさらっと目を通して、プロフィール欄に飛んでみる。アイコンはアニメの美少女キャラクター。SNSの投稿欄は、日ごろの愚痴や、バイト先のお店のこと、読んだ漫画のことなんかで埋まっている。
『あ~彼女ほしい。卒業したい!』
三日前の投稿に、そうあった。
菜月はため息をついて、コンピュータ室をでた。今日はもう授業はない。ぐるぐると悩みながら歩いて、電車にのり、自宅の最寄り駅につくところで、ようやく、
菜月は決心して、返信した。
──いいですよ。一度会いませんか?
*
その日の夜は、ずっとSNSのメッセージをやりとりして過ごした。




