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ともだちの魔法使い  作者: 楠羽毛
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ともだち

「ともだちが帰ってきたの。」

 美羽はそういって、子猫のような笑みをこぼした。

「あらそう。だれが?」

 菜月がそうたずねると、かえってきたのは、死者の名だった。



 美羽は、今年中学に入ったばかり。ぱっちりした目、小顔。きれいな肌をした女の子。

 いつも短髪、私服は春先から秋口まで半袖半ズボン。少年のような格好がよく似合う。今日も、まだ5月だというのに、トリハダがたちそうな薄着で。

 菜月は、体の線のでない長丈のワンピースに、薄手のカーディガン。かすかにそばかすの残る、地味な目鼻立ち。中学時代から変わらない、アンダーリムの黒ぶち眼鏡をかけて、学習机の左脇に。

 ふたりは、6つ年の離れた従姉妹。母方の。

「……それ、どういう意味?」

 菜月がききかえすと、美羽は、がたがたと貧乏ゆすりを続けながら、

「だから、帰ってきたの。」

 といった。

「だって……、」


 美羽が口にした名は、莉子。羽島莉子。

 たしか2年前、嵐の日に亡くなった、美羽の同級生だ。当時、新聞にも載った。地元では大きな騒ぎになったので、菜月もよく覚えている。


「帰ってきたって、どういうこと?」

「生きてたの。このあいだ、学校の裏山で。」

「へえ……、」

 菜月はこめかみをとんとんと叩いて、眉をしかめた。

 どう受け取ったものか。たぶん、裏山というのは、中学校の敷地内にある、観察学習用の池となにかの石碑がある、小さな丘のことだろう。

「……どうして、あんた裏山にいたの?」

「えー、いいじゃんそれは。」

 わざとらしく目をそらして、唇をせわしなく動かして。

「ま、いいけど。」

 美羽がたびたび授業を抜け出して外に出てしまうということは、菜月も聞いている。

「それじゃ、次、いこうか。」

「休憩! 休憩きゅうけいきゅうーけい」

 美羽はがたがたと椅子をゆらして、抵抗した。さっきからしきりに足を揺すっているところを見るに、もう限界らしい。

「しゃあないな、じゃ──」

 5分だけ、と言おうとした瞬間、


 大きな音をたてて、美羽が、椅子ごと床にひっくりかえった。

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