97 大けがを負うクリスさんと別荘と
痛みで全身が熱い。
アルベルトが駆け寄って私にポーションを何本もかける。
「無茶苦茶だ。くそ、出血が止まらない」
「止まってるわよ」
「まだにじんでるだろっ! クリスさんのポーションはっ?」
「両手がね……ちょっと動かせないかも、私はいいからマリーを見て頂戴」
アルベルトが腰から小瓶を取り出すとフタを開けて私に無理やり飲ませた。
甘い液体が喉を通ると目の前がチカチカと白く光って見える。
「何これ」
「声を小さく、エリクサー。半分はその子供に」
「ふぁっ!?」
クリスお嬢様、エリクサーは超高級アイテムです。
一般男性の体力を百としたらポーションは精々、十しか回復しないです。しかも二本飲んだら二十回復するわけじゃなく回復量も減るのです。
その点エリクサーなら三百は回復するアイテムなので手に入れたさいは大事に使うようにお願いします。
さてお値段の話です。先日お嬢様が買おうとした金貨三十枚……で売られてるのは偽者でしょうね。天井知らずです。クリスお嬢様なら四本はいるかもしれませんね……。
と、アンナから教えてもらった。
今思えば最後の一言は悪口だったのでは!?
「くっそ、やっぱり半分じゃだめか、クリスさんの生命力はゴリラ並み、いやドラゴン並みか――――」
「ちょっと……聞き捨て……」
気づけば部屋の中にいた。
「ならないわ……あれ」
上半身で起きており、服はガウンに近い服。
私はベッドの上にいるのを確認した、武器を探すと私の長剣は壁に立てかけられている。
「何時でも逃げれると……他には」
部屋の中は殺風景で、白色の壁、天井部分が青く塗られているのがわかる。
ガチャと音を立てて扉が開くと、白衣を着た褐色の女性は私の顔を見てニヤリと笑ってきた。
「クロエ?」
「オーシンデシマウトはザンネンデース」
「えっ私死んだの!?」
「ソウデース」
横に座ったクロエはリンゴを一口台に切ると一つくれた。
私は一つもらい口の中に入れる、シャリシャリと噛むと甘い果汁が美味しい。
「で、冗談はともかく、ここはどこよ」
「汗でも拭きながら聞くデース」
濡れたタオルも渡してくれたので、お言葉に甘えてそうする事にする。
上半身裸になり汗ばんだ所を拭く、部屋の扉が開くと、むすっとしたジョンと目があった。
ジョンは一度固まったあとに、そのまま部屋に入ってくる。
空いた椅子に座ると、久しぶりだな。と、声をかけてきた。
「少しは驚くデース」
「変に驚かれるよりいいわよ。面倒だし」
「…………だ、そうだ」
「変なカップルデスネー」
「カップルではない」
「そうなのデスかー?」
クロエが聞いてきたので、私は上半身のガウンをもう一度羽織る。
「それより何で二人ともここに。あれからどうなってるのよ」
別に質問に答えたくないからとかではなく、面倒だからだ。
「………………」
「デースデースデースデース」
私は思わず頭を抱える。
アンナ。いやアルベルト、このさいミッケルでもいいから、まともに説明できる人が欲しい。無口男にデスデス女じゃまったく情報が入ってこない。
「……説明も何も、俺は迷宮から呼ばれたばかりだ」
「ほえ、そうなの?」
ジョンに聞くとジョンは頷く。
「じゃぁクロエは?」
「私も今来たばかりデース」
やっぱり誰も説明できないじゃない。
この状況を地獄というのでしょうか。
思わず貴族喋りになると、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼するよ。おや随分と人が多いね。ジョンさんでいいかのかな、お久しぶりだ。B級冒険者のアルベルト、隣の女性は…………ええっと今はサンドリア教会のクロエさんでいいのかな?」
「デース」
「…………」
「やっとまともな人が来たわ」
「一時間ぐらい前に出たと聞いてマース。遅かったデース。何してましたカー」
「部屋番号がわからなくてね、ちょっと聞いていたんだ」
クロエは鼻をスンスンスンと言わせるとアルベルトの前で必死に匂いを嗅いでいる。
「精霊よ風を起こすデース!」
クロエがつぶやくと部屋の中に暴風が吹き荒れて窓が開く。
部屋の空気が飛んでいき新しい空気が入れ替わるのがわかった。
「これで女性の匂い消えたデース」
「さて……話をしようか」
一切悪びれないアルベルトは話を続けはじめた。
そりゃ私も大人だしー、野暮な事には突っ込まないわよ。
その、この部屋に来る前に女性と何話していたか知らないけどーよくもまぁ普通に話せるわね。
「あれから二日って所。マリーさんはまだ昏睡のまま、症状は魔力欠乏症に近い。
急激に弱っていくというやつだね、魔力回復ポーションなども飲ませてはいるけど、正直焼け石に水状態。
ジョンさんはマリーさんが目覚めた時に安心させるために戻ってきてもらった。
サンドリア教会からは、マリーさんが目覚めるのにはサンドリア教会が正しい。とクリスさんとマリーさんを寄こせと来たので、協議会騎士団の隊長であるカタリナさんの別荘を借りて非難した所」
「ハーイ、クロエは監視デース」
こんなところかな。と、アルベルトは説明してくれた。
なるほど……。
「マリーは大丈夫なのね」
「今の所は……魔力の消費を抑えるために本能的に睡眠してると思う」
「それだけ知っていればいいわ。カタリナは?」
「最近子供を狙った行方不明が多くてね、その施設が判明した」
それって…………私はアイコンタクトでアルベルトと視線を合わせると小さくだけと頷く。
聖女製造施設の事だろう。
「私の出番ってわけね」
ベッドから起き上がろうとすると足元がふらついた。
ジョンが私の体を支えてくれる。
「寝てろ」
「寝てるわけには行かないでしょ」
「……事情はよくわからんが、お前の体力は完璧ではないのだろ」
見破られたか。
起きた時から感じていたけどちょっと体がフワっとしてるのよね。
地面に足がついてない感じがする。
「血が沢山流れたからね。魔力が落ちているんだろう」
「私魔力無いわよ」
「…………この世界で生まれた物は全員持ってる者だよ。ゴリ……ドラゴン並みのクリスさんが倒れたのはマリーさんが周りの魔力を一気に吸収したせいでもある」
「そうデース! クロエも今知りましたデース!」
「あなたは知ってなさいよ……教会の人なんでしょ?」
とにかく! とアルベルトがちょっと声を強くして言う。
「向かうのは僕とカタリナさん。ジョンさんは協議会員マルコスの息子、フルコス氏を捕まえる準備を。クロエさんは、クリスさんの見張りをお願いします」
「見張りって子供じゃないんだから……」
ジョンとアルベルトの視線が何かを言っている。
プイっと横をみて寝転がる事にした。
「いいですよー、どうせ私は仲間外れなんですしー」
仲間はずれですもーん。
お読みくださりありがとうございます!




