96 秘密多い男と聖女の暴走
ホテルのスイートルーム。
部屋数はなんと四部屋ありホテルの最上階が全部貸し切りという豪華さだ。
部屋の鍵も魔法で、防音防水と完備だ。とアルベルトが自慢気に教えてくれた。
防音はともかく防水っていらないわよね?
マリーは昼間の疲れから寝室にある大きなベッドですでに寝ており、私とアルベルトは別の部屋でお互いに酒を飲んでいた。
手に取ったボトルを見て感心する、このお酒だって貴族時代に送られてきた酒で高い酒というのは覚えている。さすがスイートルームって所だろう。
「まずは再開に乾杯。よければシャワーなんてどうだい?」
私はちらっとシャワー室をみる。
全面ガラス張りであり外から見える作りになっていた。
「斬るわよ?」
「はっはっは、ここは防音だかなぁ悲鳴も聞こえないだろう。冗談だよ」
「色々聞きたい事あるんだけど、自慢の彼女たちは?」
アルベルトと言えば、複数人と付き合ってると何度も自慢された男だ。
声をかけて来た時も一人だったのでまずそこを聞いてみたのだ。
今度紹介するからと、全然紹介してもらった事ないし。
「…………ノーコメントを――――」
「え、振られたのっ!?」
「違う、その夜の誘いに体が追い付かなくてね……たまには開放的になりたいと思うじゃないか」
あっ。うん、この話題はやめておこう。
アルベルトの表情がちょっとキモ……いや怖くなってきたし。
「モテる男も困ったものね」
「全くだよ」
否定しない所がアルベルトらしい。
「んじゃ、次ね。私達を待ち伏せして何なのよ」
「流石にわかったか、どこから言った方がいいかな」
アルベルトにしては珍しく頭をかいて何を言おうか悩んでいる。
「先に言おう。あの子に殺害依頼が出てっげっふ、ま、待ってくれ」
私は無意識にアルベルトの胸倉を掴んでいた。
待ってくれ。と、言われて慌てて手を放す。
「逆に保護してくれとも依頼が出ている」
「どういう事よ……」
「人工聖女って知ってるかい?」
「聞いた事ないわね…………あっ」
口に出してみたもののの、思い出したことが一つある。
私の中での聖女様ことセーラだ。
あの子は聖女様とまつられて散々な人生を送ってきた、いまは帝国に保護されているけど、王国からのちょっかいがあるとかないとか。
「そう、あの魔石を埋められたセーラさんだね。早い話が聖女を作ろうって所があるみたいなんだ」
「作ってどうするのよ、そもそも聖女っそんな幸運アイテムじゃないでしょうに」
「普通はそう考えるんだけどね……そういう話を聞いたから伝えておこうと思って」
「まって! って事はマリーもっ!?」
「僕が調べた結果では恐らく……実はある依頼を受けていて善なら保護、魔なら斬れと」
お酒のビンが空になり、備え付けの冷蔵箱から新しいお酒を取りに行く。
寝室を覗くとマリーが泥のように眠っていて愛らしい。
「敵ってわけね」
「結論が早い……僕は味方だよ」
どうだか。
「さて、襲われたら困るからトコトン飲むわよ」
「僕はそこまで強くはないんだけどな……実はまだ話があってね――」
◇◇◇
朝になり、昨晩は最高の夜を。と、言うホテル関係者の言葉を愛想笑いで流して外にでる。寝不足で眼の下に若干クマがあるアルベルトふらふらになりながらホテルの前で手を差し伸べた。
情けないわねー女性より先にダウンするだなんて。
握手しろって事なのだろうけど、拒否したらどうなるのかと思って握手をしないで黙ってみる事にする。
「じゃ、僕の話は終わった」
「どうも」
私が返事するとマリーがアルベルトと握手する。
「アルベルトお兄ちゃんありがとうー」
「あっずるい!」
「ずるいも何もクリスさんが握手をしなかったんだよね…………っとマリーさん。十年、いや五年後にお礼が欲しい」
「うん、わかったです!」
いやいやいや、私はマリーを抱き寄せてアルベルトをしっしと追い返す。
「コラコラコラコラ直ぐに忘れるように」
「酷い話と思わないかい? まぁいいやじゃ例のアイテムが手に入ったら連絡する」
「うん。お願い」
案外あっさりアルベルトは帰っていった。
私は直ぐにマリーの顔をみるとマリーは何ですか? と首をかしげて来た。
マリーの頭をなでててこれからの事を考える。
アルベルトが昨夜話した内容には続きがあって、人工聖女ならではの障害部分だ。
魔力の消費が激しい事。
体内の魔力が豊富なゆえ魔物に襲われやすい事。
今までの実験から魔力が不安定で数年の命しかない事。
せめて製造所でも見つかれば延命の仕方もわかるかもしれない。との事。
「さて…………軽く朝食でも食べましょうか」
「ひゃい!」
軽食が出来るお店でひとまず考える。
数年の命、これは何としても食い止めたい。
幸い私の知っている聖女様のセーラは暴走をうまく収めた、今ではピンピンしていて、残った魔力をうまく使いこなしている。
「むなくそ悪いわね」
「クリスおねーさん、口がわるいのはいけないです!」
「え? そ、そうね。マリーちゃんごめんねー」
席を移って反対側にいるマリーを抱き上げて腋腹をくすぐる。
抱きかかえてるから逃げれないマリーは身をよじって笑い出す。
「こらお店の中で暴れないのっ」
マリーが暴れ今入ってきたお客にぶつかる。
そのお客が振り向きざまに殴りかかってきた、当然私はそれを避ける。
「ちっこのフラコス様に体当たりとはぁどこの…………またお前かっ!」
「あら。マケイヌ」
「一文字もかぶってねええ! ふっふっふ聞いたぞ、お前の彼氏は捕まったってな……今頃は迷宮地下で死んで骨になってるかもなぁ」
名前が違う? そりゃそうよ、わざとだもん。
私に迷惑をかけたのですもの、それぐらい愚痴を言っても許されるはずだ。
「ふえっ! ジョンおにいさんが……」
マリーが抱きかかえた腕の中で悲しい声を出す。
ジョンに至ってそんな事は無いでしょう、いや、仮にそんな事になっていたら私も責任を取ってせめて原因を作ったこいつらをこの世から消そう。
「そうだ。クソチビのせいだっ! やーいお前のせいであの男は死刑だ死刑」
わざわざ首を切るジェスチャーを見せてくれるフラコス。
マリーにそんな事ないからねー。と、言おうとするとマリーが小さく泣き出す。
私の腕がとたんに重くなる。
思わずマリーを地面におろすと、マリーを中心に空気が見える。
いや、これって…………。
「魔力……」
同じ現象を聖女様の時見た。
その魔力の揺らめきは透明から黒く色ついていく。
やばいと思った時には無数の刃となって周りに飛んで行く。
「間に合えっ!!」
私は剣の鞘ごとフルコスにぶん投げる。
狙った所…………腹部に当たってフルコスは体を丸めた。先ほどまで首あった所に黒い刃が飛んでいく。私の服や腕があちこちが切れていく感触がする。
周りの椅子や壁、高級そうな窓ガラスが割れ外にも騒ぎは広がっていった。
「ダメ! マリー!!」
「クリスさんっ、睡眠薬だ!」
その声に首を振り向けるとアルベルトが割れた窓の外から小瓶を投げて来た。
小瓶の注入口は私の所に来る前に黒い刃で切り取られる。
私は血だらけの手でそれを受け取るとマリーの口に押し込んだ。
マリーの体から力が抜けると黒い刃の風も止まっていく。
怪我人は大勢いるが重傷者はいないみたいで少しほっとした。
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