95 教会vs教会
頭に氷袋を乗せたアンネリーゼとクロエはソファーに座り、私とマリーはその反対側へとすわる。
さっきの戦いなんて嘘のように笑顔でアンネリーゼがまず謝罪の言葉を言ってきた。
「申し訳ありませんわ。クリスさんがこんなに強いとは……」
「クリスおねーさんはつよいです!」
ふふんと嬉しそうなマリーの頭をなでてて、出された高級ケーキを食べる。
生クリームがとても美味しい。収納ボックスにいれて持ち歩きたいぐらいだ。
「美味しいケーキをどうも」
「銀貨五枚の高級ケーキデース」
クロエの言葉が場違いなほど明るい。
「そもそも話し合いましょうデースって、場を仕切ったのはクロエなんだしどうするのよこの空気」
「おーウチのトップがどうもすみませんデースデースデース」
「私からももう一度謝りますわ」
こっちは命を取られそうなのに謝られてもなぁ。
あとクロエのデースが反響して脳に響く。
「断るわ」
「そうですよね。申し上げにくいんですけど、精霊使途の指輪が白金貨三十枚ほどの価値なんです」
テーブルに二つに切られた指輪をそっと出す。
保障しろって事? そんな大金実家にもあるか怪しいし……。
「私が悪いわけじゃないわよね」
「ええ。…………でも白金貨三十枚です」
場が静かになる。
マリーも思わず美味しいって言っていたケーキを食べる手が止まってオロオロしはじめた。
「ふふ…………クリスさんは力が強くてもオツムが、失礼。外交が得意じゃないようですね。さすがF級冒険者って所でしょうか」
「おークロエと一緒デース」
「クロエ、黙ってなさい」
そりゃ、そうよ。
誰々が何をしてるから、派閥はこっちとか。あの人とあの人は婚約破棄したらあっちの子をけしかけろ。とか。そういう話は貴族時代に散々聞いてきたけど、ねちっこい。
私から言わせると馬鹿みたいだし、魔物退治していたほうがよっぽど面白い。
それでも、私だってそこまで馬鹿じゃなく、二十年も好き勝手育ててくれた恩として王子と婚約したんだし。
「払わないわよ」
「ええ…………当然です。誤解があるとはいえサンドリア教会ラビリンス支部のアンネリーゼと勘違いで戦闘になっただけですので。
ですが精霊使途の指輪が壊れたのは事実ですし、壊した相手を込みで記録にするだけで、クリスさんには全く負い目に感じる事はありません」
ぐうううううう。
こいつはっ! 話を変えないと……ええっと。そうよ根本的な事聞いてないし。
「で! 説明してくれんでしょうね。私を襲った理由など納得いかなかったら帰るわよ」
「はい、それはもちろん。そこのマリーさんは聖女なのです」
「え?」
私はマリーの顔をみた。
今食べていたケーキのクリームが口の周りについている。
私はハンカチを取り出しぎゅっぎゅと口の周りを拭いてあげた。
「マリーがせいじょ……さまですか?」
マリーが驚いて小さい声を出すと、アンネリーゼが興奮気味に顔を近づける。
「そうです! 修行さえすれば蘇生魔法も使えます!」
「ちょっと、鼻息が荒いわよ」
ドン引きよ。
「回復魔法って良くわからないけど誰でも使えるわけじゃないんでしょ?」
「貴女は黙っていてください!」
アンネリーゼは白い腕をだしてそっとなぞる。
小さく呪文を唱えたのか腕に綺麗な切り傷が出来て血がにじみ出て来た。
こっちは美味しくケーキ食べてるのに本気でやめて欲しい、なんで血を見ながら食べなくてはいかないのか。
「さぁマリーさん。傷を治るように祈るのです!」
「く、クリスおねーさん……ええと……どう」
「強引すぎるわよね。マリー、一応祈ってみて、治らなくてもポーションぐらい。いいえ他の回復魔法使える人もいるでしょうし」
「ひゃい」
マリーは目をつぶると両手を合わせ握りしめる。
まさに神に祈るポーズで手の中心が光った、アンネリーゼの傷が治っていく。
「お、すごい」
「さすがです! ごうせ……………………ごほん。訓練もしないのにこの傷を治すとは」
ん? なんだろいま一瞬へんな間があったわね。
「で、マリーが聖女として何があるの?」
アンネリーゼが両手をテーブルに叩きつけた。
潰れそうなケーキをクロエがさっと横に移動させてパクパクと食べ始める。
「聖女ですよ! 聖女! 国を……いえ人類を導く人間です。あの邪教なアルティア教会の偽聖女とは違うんですよ!」
アルティア教会といえば様々な聖女を伝説が残る教会で、私の国や帝国にも名前が届くぐらいに大きな教会だ。
奇跡と呼ばれる回復魔法のエキスパートを育てるの事にたけていて、冒険者ではない回復魔法を使う人間はアルティア教会の人間が多い。
私はクロエを見るとクリームのついた唇を拭いて間に入ってくれた。
「おーサンドリア教会とアルティア教会は仲悪いデース」
「…………もしかして、昼間襲ってきたのって」
「多分アルティア教会デース」
私は頭を抱える。
ようはク…………おっと馬鹿みたいな理由でマリーは狙われたのだ。
「はぁ……あっちのほうが有名だもんね。そもそもサンドリア教会ってこの都市で初めて知ったし……」
「っ! これでも! 本だって出しているんですっ待っていてください!」
アンゼリーゼは立ち上がると部屋を出て行った。
残された私達の間に微妙な空気が流れ始める。
「ええっと…………帰っていい?」
「よいデース」
「え!」
まさか良いと言われると思ってなくてクロエに聞き返す。
クロエは逆に私の顔を見てくる。
「連れて来いデースと、命令されましたけど、帰すなって命令は聞いてないデース」
「そ、そう? ええっとマリーどうする?」
「クリスおねーさんについていきます!」
答えになってないけど、信頼してくれるのは嬉しい。
「ええっと……じゃぁ、帰るわ…………変な争いに可愛いマリーを巻き込まれたくないし」
「はーい、また遊びに来てくださいデース」
「いや、来ないから……」
クロエに教会の玄関先まで見送られて私はサンドリア教会を後にする。
本当に帰っていいのよね? と念を押すと、いいんじゃないですかデース。と、元気な返事が帰ってきた。
外は既に薄暗い。
宿に行こうとすると、私の名前を呼ぶ声がして立ち止まった。振り返ると金髪の青年が決めポーズを決めていた。
「やぁ久しぶりだねクリスさん。B級冒険者のアルベルトと言ったらこの僕さ、美しい君に偶然出会って…………あっつちょっとまって無視はひどいと思うよ!」
私はマリーの手を取って足早に歩く。
偶然もなにもあるかっ! この広い迷宮都市で、しかもサンドリア教会前で偶然会うわけないじゃない。
「クリスおねーさんのしりあいですか?」
「ぜんっぜん知らない人だから」
「待ってくれたまえ、これでも高級ホテルのスイートルームを取ってある」
大声で言うものだから、通行人が立ち止まって私達を見始める。
「ここでは言えない君の好きな、いかがわしい薬ももちろん用意してある。まってくれ!」
ぶっ! 私は思わず咳き込んできびすを返した。
右てはマリーと繋いでるので、左手でアルベルトの服を引っ張る。
「私が何時何所でそんなのを使ったっていうのよ!」
アルベルトは私の腕をつかんで、白い歯を見せてきた。
あっこれって逆に捕まったって奴?
「ふう、やっと話を聞いてくれるようだね。小さいレディもこんばんわ。
僕の名はアルベルト、これでもB級冒険者でね。
クリスさんには負けるけどそこそこの腕はあるんだよ」
「こ、こんばんは。マリーといいましゅ!」
アルベルトは私の腕をつかんだままマリーと話し出す。
私はアルベルトの服を力を入れて引っ張るとこちらを向いてきた。
「話をききなさいっ!」
「この場合、話を聞くのはクリスさんじゃないかな?」
「ぐっ」
あーーーーもう。どいつもこいつも!
こう話術じゃなくて――命をかける力と力のぶつかり合いが欲しいのよ!
お読みくださりありがとうございます!
少し巻き巻きー!




