91 マリーはクリスに憧れる
鉄格子が荷台になっている馬車の中にジョンが座っている。
私はその姿をマリーと一緒見に行った、近くには案内してくれたカタリナが遠慮気味に話しかけてきた。その顔は疲れている。
「扉を壊して脱走容疑がかかってな……幸い怪我人はいないが、その結界も切れて目撃者が多い……」
簡単にいうと、カタリナの息のかかった人間がジョンを説得したけど、空気読めないジョンは賄賂と思ってブチ切れて、出れるもんならでてみろ。という買い言葉を本気に受け取り、じゃぁ出るわって結界を破って廊下に出た。と。
そこに他のカタリナの息のかかってない普通の協議会騎士が見かけて罪が重くなった。
「お前は、ソレが蹴られたというのに黙ってるのか?」
ジョンが私に話しかけてくる。
お前っていうのは、私の事で、ソレっていうのはマリーの事だろう。
「いやまぁその……空気読んでよ!」
「……? 俺は金を貰っても納得しない、そもそもだ出ろと言われて……」
「はいはいはい、もう言い訳は面倒だからおしまい」
「…………言い訳ではなくてな――――」
「保釈金だって足りないわよ」
今の宿が一泊で食費別で金貨一枚。
多少の貯えがあるといっても直ぐに出せる金貨は四十枚が限界。
「気にするな」
「気にするに決まってるでしょ!」
「…………怒りは周りを見えなくするぞ」
お前がいうなあああああああああ。
頭を両手でかきむしり、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる、ああ……叫びたい。
でも、マリーやカタリナ、他の人もいるので我慢する。ちらっとカタリナを見ると肩を震わせているのが見えた。笑いをこらえてるっぽい、はっずかしい。
「とにかく! その…………体とか気を付けてよね」
私はジョンの体を心配する。
九十枚分の罰金を稼ぐのに様々な仕事にいくらしい、冒険者カードがあるのでちょっと危険なダンジョンの先遣隊に配属されるだろう。と、カタリナが教えてくれた。
「わかった」
ジョンは短く返事をして私をみている。
本当にわかってるのかしら。
「ええっとカタリナさん、どれぐらいでジョンは出てこれそう?」
「カタリナで結構ですよ。冒険者ランクCとの事ですので二十日ぐらいでしょうか」
「わかった」
「結構かかるのね……」
「本来はもっとかかります」
カタリナが言い切った。と、いうことはこっそり便宜を図ってくれてるのだろう。
ジョンはその辺わかってるのかしら?
ちらっとみると、マリーにお前は弱いから私のそばを離れるな。夜になったら早く寝るようにしろ。など口うるさく言っている。
牢屋の中から言っているので私からはこっけいにみえて笑い出しそうになるのを我慢する。
マリーは可愛く、その一言一言に、はい! と頷く。
ああ、癒される。
協議会騎士団の他の人がこっちをみて困っている。
カタリナが小さく咳をして話しかけて来た。
「では出発させる」
「はーい」
「ジョンおにいさんぜったいにかえってきてねっ!」
ジョンは牢の中から親指を立てかっこつけてる。
いや十分かっこ悪いからね。
ぱっかぱっかとジョンを乗せた馬車が離れていった。
いつまでも手を振るマリーの頭をなでててカタリナのほうへ顔を向けた。
「その色々ありがとう」
「いや、こちらの部下の責任もある……くれぐれも変な事を風潮しないようにお願いします」
変な事ってのは、フルコスだっけかな、その集団の事だろう。
泳がせてるのにトラブルは起こすなよって事だ。
「あっちから来ない限り大丈夫!」
「…………頼みますね」
カタリナが門まで見送ります。と、いって私達二人を外にだす。
教会の鐘が聞こえ始めた。
って事は空を見る限りお昼すぎ、軽く何か食べますか。
近くにあったカフェで飲み物二つと肉や野菜を挟んだパンを頼む。
マリーが目を輝かせてパンをみているのでさっそく頂く。
「クリスおねーさんっ!」
「なーに?」
「食べ方がきれいです」
私は自分の皿とマリーの皿をみる、なるほど。確かにマリーのお皿にはソースや野菜が散らばっているけど私の皿は綺麗だ。
「ありがと、でも胃の中に入れば同じよ同じ」
「まりーもきれいた食べたいですっ!」
そういうマリーの口の横にはソースがついている。
うまあああああ、可愛い。
じゃなくて、私はマリーの口をハンカチで拭いてあげる、そのたびにむぎゅ、もぎゅと表情を変えてくる。
「まりーがんばってはたらきます!」
マリーが突然宣言したので、どうしたの? と聞いてみた。
「ジョンおにいさんがつかまったので、ほしゃくきんをかせぎます!」
「どこから覚えてくるんのよ……そんな心配は大丈夫」
カタリナも便宜はかってくれるようだし。
とは言っても、お金は稼ぎたい、数ヶ月はこの迷宮都市にいる予定だ。
「まっギルド行きましょうか」
「ひゃい!」
マリーが元気よく返事をする。
この子の道も考えなきゃね、いやー世の中の子供をもつ親って毎日こんな苦労してるのかしらね。
「クリスおねーさんっ」
マリーが私の服を小さく引っ張る。
何? と小さく返事をすると、まっすぐに指を道へと向けた。
その先には禿げてお腹も出て、なおかつ背も低そうな中年の男性がフードをかぶった人間達に囲まれているのが見える。
簡単にいえば、襲われている状態だ。
「ええっと、助けろって事?」
私一人なら絶対に? 助けない。
面倒な事起きそうだし、襲われてる方の中年肥満の顔がもういや、あれはお金もち特有の顔というか。
「あの人たち……まものですっ!」
「え?」
マリーがそう言い切ったと同時にフードの集団の姿が変わる。
人型から大きなスライムに変身した奴。
両手が蛇に変わった奴。
フードが溶けて全身の骨を現した奴と……。
「ちっマリー!」
「ひゃいっ!」
隠れてなさい! と言おうとしたら私の背中にマリーがしがみ付いてきた。
ちがう、そうじゃない! とも言えず、これはこれで隠れてもらうよりいいかもしれない。
「絶対落ちないように、腰ひもで縛って」
「ひゃい!」
マリーの二回目の返事を聞く前に私は剣を抜いて突進した。
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