89 くっころって何ですか?
冒険者が泊まるような安宿ではなく、旅行者が泊まるちょっとお値段の高い宿で朝を迎える。
大きなダブルベッドが一つあり私が起きると、一緒に寝ていたマリーも起きてしまった。
「あら、起こしちゃった?」
「ふぁいひょうぶれす」
何が大丈夫がわからないけど、大丈夫なら大丈夫なんでしょ。
朝の運動をしながら今日の事を考える。
まずは、安宿に泊まったジョンを回収しなければならない。
別に今更一緒の部屋でもいいのに、別部屋を取ったのだ。そもそもだ、ここまでに来るのに何泊が二人で泊ってるし二人で野宿もした。
にもかかわらず、どういうわけが襲って来ない、襲ってきても困る……困るのかしら? その時のムードによってはまぁ許すかもしれない、いや本当にいいのかな? 私の袖がクイクイと引っ張られる。マリーが引っ張っていたらしい。
「だいじょうふですか?」
「大丈夫よ、ちょっと考え事してただけ。さて馬鹿を回収しにいきましょうか」
マリーをつれて宿を後にする。
すぐ近くの飯屋でジョンと再会し適当に朝食を頼み、出て来た料理を食べながら今後の事を話す。
昨夜のうちに手紙は一応だした。
マリーを連れて帝国に帰るって案もあったけど、ほとぼり冷めるまで作戦では帰る事はダメだろうって事で終わった。
なんにせよ、何か冒険者ギルドで依頼を受けないとこの先いつかはお金が無くなる。
「と、いうわけで食べ終わったらギルドにいきましょうか」
「そうだな……」
「ひゃい!」
会計を済ませてギルドに向かう。
朝の道は込み合っていて、その混みようは帝都よりも多い。
私とマリーが手を繋いで歩いていると、突然マリーが小さい悲鳴を上げた。
握っている手に力が入り、慌ててそっちを見るとマリーが痛そうに腕を押さえている。
小さい手のひらから赤くなった腕が見えた。
誰かに蹴られたのだ。
離れるように悪びれもせず歩く男達の集団が見えた。
数は七人、数人が私達を見ては笑うしぐさをして、指を頭の部分でくるくると回しているのた見えた。
私は無言でかけより、相手の反応より先に足払いをかけて引っ張る。
「あんたら、今うちの子の腕蹴ったわよね?」
「ウゲッ! なっ」
男の胸元を足で踏み、起きないように力を込めた。
手にはアルコール瓶を持っており、顔は酔っているのか赤い。
他の取り巻きが私達三人を取り囲み始めた。
私のほうに二人、ジョンのほうに三人だ。
「答えなさいっ」
リーダー格らしき男……私とそんなに変わらない男ちょっと遠くから叫ぶ。
「けってねえよ! このブス、たまたま足があたったんじゃねえのっ?」
このっ! 当たった自覚あるなら余計に悪い。
男たち数人が私とジョン、それにジョンの足元で腕を押さえているマリーの周りに壁になる。男達の腰からは高そうな剣が吊られており全員が剣を抜いてきた。
はぁ……なんていうか……こっちは剣を抜くまでも無いわね。
足元に転がっている男の腹を蹴る。
酷い悲鳴が聞こえ、周りの男が下を向いたのを狙って、私は蹴り飛ばす。
これで二人。
ジョンのほうでも男の悲鳴が聞こえる。
あっけに取られているもう一人の腹を殴り、手から剣を奪った。
リーダー格の男の前まで間合いを詰めて、私は一回転した。
剣を逆手にもって地面に突き刺す。
「返すわよ」
リーダー格の男が悲鳴を上げ鼻を押さえ始めた、血がドバドバでてる。
「いてええええええええええ、いてええええ鼻が鼻がっ取れた」
やーねー取れてないわよ、ちょっと切っただけ。
雑魚は放置すして直ぐにマリーの元に戻る、マリーは腕を押さえて痛がっているからだ。
ジョンも雑魚を片付け終わりマリーの前でしゃがみ込み顔を見ている。
「傷は?」
「…………大丈夫そうだ、だか骨が折れてるかもしれん」
「わかった」
私は直ぐにアイテムボックスからポーションを引っ張りだす。
ジョンも同じく無言でポーションを出すとマリーの顔前に出す。
「飲んで」「飲め」
…………。
「ちょっとジョン私の飲ませるから閉まっていいわよ」
「…………一本で足りる、お前のは閉まっておけ」
「いや、ジョンのを閉まってよ」
「…………俺ので十分だ」
「あの、だ、大丈夫です。なおりました!」
私とジョンが真面目に話していると、マリーの声で現実に戻された。
見ると、腫れてはいない触ってみると骨もしっかりしてるしぷにぷにした腕が気持ちいい。くすぐったいのかマリーの身がよじってくる。
「本当ねぇ……一応半分ほど飲んでおいて」
私はビンのフタを開けてマリーに手渡す。
マリーが受け取ったのを見て、ジョンはため息をついてポーションを腰袋にしまい込んだ。
「さて、行きましょうか」
「そうだな」
私がマリーの手をつなごうとしたら、背後から、まてアバズレ。と、声かかった。
私はアバズレではないので待つ必要はない。
「お前らだ馬鹿野郎! ガキと女、それと男。俺様の事を心配しやがれ」
仕方がなく私は振り返って男達を見た。
リーダー格の男は鼻を押さえて手の隙間から血がぽたぽたと落ちている。
足元にはビンが転がっておりあっちもポーションを飲んだのだろう。
「何で?」
「この……俺は協議会のマルコスの息子、フラコスだぞ」
私は隣にいるジョンに顔を向けた。
「知ってる?」
「いいや」
「だそうよ」
「てめえもう一度いうぞ、俺の親父はマルコスなんだぞ!」
うるさっ。
こっちは朝から忙しんだし……。
「だから知らないって言ってるでしょ……そのマルコスが何か知らないけど、悪いのはアンタだし折角、鼻を切るだけで済ませようとおもったのだから喋らないで下さります?」
「蹴った、しょ、証拠がねえだろ!」
「あるわよ。私がそう思ったからそれが証拠よ」
私の横で小さくジョンが笑っている。
笑われる事してないわよ? そのジョンが真面目な顔になった。
「…………ポーションはもう一個ある。俺からの礼がまだだったな」
「…………なぁ、おい……まて、冗談だよな……」
ジョンが動く前に笛の音が聞こえた。
街中というのに馬が走る音だ、振り向くと長い金髪を風になびかせ白馬に乗った女性がジョンとフラコスの間に強引に割り込んでくる。
「双方、騒ぎ御法度だ。協議会騎士カタリナが場を預かる」
「誰? いかにも騎士って感じよね、くっころが似合いそう」
つい思った事を言った私の言葉に馬上の騎士、カタリナ? だっけかなキっとにらんで来た。
周りの野次馬から、カタリナだ。カタリナ様が来た。など声が上がっている。
「急に割り込んできて、にらまれる覚えないんですけど」
「にらんではいません。…………冒険者ですか? 小競り合いは許しても街中での暴力行為は認められない。あと…………くっころってなんです?」
…………そんな大声で聞く事っ!? ちらっと周りをみると、走ってきたらしい制服姿男性たちが私達を取り囲み始めた。
その中の数人は視線を合わせないようにして顔を赤くしてる。
「んなことより、カタリナ! こいつらが俺様をいきなり殴ってきたっ!」
説明しようか迷っているとフラスコが怒鳴り散らす。
「フラコス様…………またあなたですか。今度は何を」
「何もかもあるかっ! いきなり殴られた捕まえろ!」
私はジョンとマリーを顔を見合わせてカタリナを見る。
カタリナが馬から降りると、その部下らしき人達に命令を出し始める。
ここで言い争いしても無駄そうだし……おとなしくしますか。
「昼食ぐらいは出してもらえるかしら?」
「予算内ならですね、連れていってください!」
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