86 可愛い可愛い女の子
ジョンは魔物などの死体を片付けて私は寝ている女の子を抱き寄せ、壊れた馬車から出した。
歳は十歳前後にみえ、髪はウエーブがかかっており色が薄めのオレンジ色、長さは腰ぐらいかしら。肌は白く手足も可愛い。
服装は子供用ドレスを着ていて……ちょっとスカートを捲し上げてみた。
「……何してるんだ何を」
「うひゃ! ジョ、ジョン。いつからそこにってか見た!?」
「子供のスカートを覗く変態女なら見た」
「確認よ確認! 万が一男の子だったら対応に困るでしょ!」
「で、男だったのか?」
黙って首を振る。うん見た目も中身も完全に女の子だ。
ペチペチとほっぺを叩くも起きる様子はない。
「起きないわね」
「魔法か……?」
「なるほど、そういう考えもあるのね」
ジョンが言うには、騒がないように眠らせた。のではないかと教えてくれた。
いや眠らせるのは良いんだけど、周りが全滅していたらダメよね。
勝てると思って眠らせたのかしら? いやそうか勝てると思ってか……。
考えても仕方がないので抱き上げたまま周りを見回す。
私達の馬はもう無い。
荷物はあるけど、これはまぁ私のアイテムボックスに入れていくとして徒歩かぁ。
それにこの子に説明しないといけないのよね。
ジョンが死体から獲ったロープを引っ張り出す。
私に近づくと至近距離で、取り合えず縛るぞ。と、言ってきた。
「え、そんな趣味! 縛られたくないわよっ、それとも無理やりが好きなの?」
「…………そっちの子供だ」
「えええええええええ、あんたねぇ……大人でも縛って興奮するのはどうかと思うけど、こんな小さい子を縛って興奮するわけ? やだ、あーだからネクラなのね。
そりゃ人の趣味は色々だし、変態でも構わないけど……助けた小さい子にそういう事考えるってどうなのよ。
もしかして帝国貴族ってそういう店に通うが当たり前なの? あっもしかして私をちょいちょい見てる時も脳内で縛っていたとか? いやいやいや簡便してもらたい…………わ…………あの、いきなり剣を向けるのはフェアじゃないわよね」
女の子を縛って喜ぶ変態は、私に剣を向けると黙ってこっちを見ている。
「その子供が目が覚めた時に危険人物だった時の対処だ」
「なんで?」
「…………万が一魔物だったらどうする。眠らされてる理由を考えていた」
「いや騒ぐからでしょ」
私の意見に、こんどはジョンが、なるほど。と頷いた。
「と、いう事で変な縄はいらないわよ」
「……そうか」
ジョンはその縄を自分の道具袋にしまう。
ジョンに街の場所わかる? と聞くと、短くわかる。と、返ってきたのでジョンに道案内を頼む。
私は小さい女の子おんぶだ。
懐かしいわね、弟のランディをおんぶしてたっけ、でもなぜか途中からアンナに止められたのよね。
高い高いしただけなのに……絶対に落とさない自身あったんだけどなぁ。
暫く歩いても街は見えてこない。
「ってか、何気にやばくない? 日が暮れて始めてるんだけど」
「……馬を使って移動する道だからな、途中で野宿になる」
「早く言いなさいよ!」
野宿できる場所を二人で探す。
街道なんだし、もっと人とすれ違ってもいいだろうに誰一人すれ違わない。
ジョンに言ったら、夜になるからだろう。と真面目に言われた。
ちょっとした広場を見つけアイテムボックスから食器や干し肉、野菜などをだして簡単なスープを作る。
たき火を挟んで調理したスープがコトコトと煮え始めた頃、私の横に寝かせていた女の子の体が動く。
包んでいた毛布から体を起こして女の子はきょとんとしていた。
「ここどこ……?」
私は頭を上げた女の子を見る。
「大丈夫痛いと」「……名前を言え」
私の言葉にかぶせるようにジョンが割って入る。
だからモテないのよ。
「だれ?」
「ほらほらそんな顔で子供を怖がらせないの」
「ママ? かおがこわい……」
え? ママ?? いやまって、私はまだ二十歳よ。
百歩譲って周りが暗いからとしよう、でもまだまだ肌だって水をはじく、そんな子供がいるような歳ではない。
「おねーさん、まだ若いんだけど」
「くっくっくっく……顔が老けてるんだろう」
珍しくジョンがお腹を押さえて笑っている。
「勝手に納得しないで貰えますー!?」
「ごめんなさい、ママじゃない……?」
「いいのよ、でも笑った奴はお仕置きね」
近くにあったフォークをジョンの顔めがけて投げると、見事にキャッチする。
「刺さったらどうするつもりだ」
「一応ポーションあるし」
うん、まぁキャッチするだろうなって思ってたわよ。
そんなに全力で投げてないし。
「パパ凄い凄い!」
女の子が喜んで声を出した。
いやそれよりも、ジョンの事をパパと呼ぶ事は……結論は一つだ。
「え…………ジョンの隠し子」
「待て! なぜ俺の時だけそうなる。おいっ子供! 取り消せ」
「パパでもない?」
「そうね」「他人だ」
女の子の顔がきょとんとして、表情が見えない。
悲しむのでもなく笑うわけでもない。
「お名前は?」
「わかんない…………」
私はちらっとジョンを見ると、ジョンが渋々記憶喪失だろう。と、説明してくれる。
「いや、それぐらい私でもわかるわよ」
「……だったら説明させるな」
ジョンを無視して女の子に向き直る。
何か覚えていればと質問をしてみた。
「ええっと……なんで馬車に? その思い出したくないだろうけど……」
「わかんない……」
女の子は申し訳なさそうに謝る。
イライラした態度のジョンが女の子に話し出す。
「あれもこれもわからないじゃ話にならん」
「しょうがないじゃないの!」
立ち上がったジョンに対して私も立ち上がる。
スープを煮てるたき火の前でジョンと顔を近づけると、私の手は引っ張らさった。
「…………けんかはイヤ……」
女の子が私とジョンの手を引っ張っているのがわかる。
「「…………」」
「……落ちついたほうがいいな」
「そうね」
アイテムボックスから三個ほど器を出してそれぞれにスープを入れる。
一個はジョンに渡して、もう一つは私、最後のは女の子だ。
「食べながら話そうか。食べ方はわかる? 嫌いな物とかは?」
「食べ方はわかる…………他はわかんない……」
「そっ、じゃぁ美味しくないって思ったのあったら、こっちの皿に」
名前つけなきゃねぇ。
それよりも頭よさそう、ちゃんと服を汚さないように食べてるし。
私達の言ってる事もちゃんと理解してる。
少し不安そうにスープを飲んでいるのが痛々しい。ええっと何かあったかなぁ。
「あっ名前戻るまでマリーでいいかしら」
「マリー……私のなまえ……?」
「そ、オレンジ色の髪でしょ、同じ色の可愛い花があるのよ」
私の提案にマリーは嬉しそうにほほ笑んだ。
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