78 クリス今更アイテムBOXを手に入れる
外に出るとすっかり夕方である。
予定としては近くの小屋で一泊する事となっていた。
「ほう、星がみえるのう」
「そりゃそうでしょう」
私が言うと、サツキは首だけを動かして私を見つめてくる。
「クリスさんでしたのう、なんですの、わらわに文句でもあるのかのう?」
「…………特にないですけど、街に行っても暴れないようにお願いしますね」
「暴れたらどうするんのう?」
「不本意ですか押さえつけます」
「ふふふ、怖い怖い。ねーコウ君」
サツキはコウ君に抱き着くと、コウ君が赤い顔になって必死に逃げようとしている、でも、サツキがそれを逃がさないようにしっかりと押さえつけてるのがわかる。
はぁ……まったく、絶対に普通の人間じゃないわよね。
小屋は直ぐ近くにあり、幸いスタンピードの道から外れていて無傷に近い。
私は気を落ち着かせるために、近くの湧き水から水を飲む。
「結局貴様は何者だ?」
「げっほげほげほ、ちょっとっジョン!」
誰もが思っていたけど絶対に口に出さないようにしていたのを唐突に質問しだす、思いっきりむせた。
「しつこい男だのう。人間って決めたんじゃないのう、コウ君も納得してるしのう」
「俺は納得してない。あまりにも不自然すぎる、地下のダンジョンから助けて貰った事は礼を言う。しかし魔物であれば、帝国調査隊の名にかけて街に行く事を止める」
サツキは気怠そうな顔を私に向けて来た。
いや、わかるわよ。その気持ち……一人だけ熱血というか空気が読めないというか。でもその顔を私に向けてくるのは完全にとばっちりよ!
「傷まで治してこの始末、ほんっにい、ぶち殺したいのう」
「だ、ダメですよ! あ、あのサツキさんは人間なんですよねっ!?」
コウ君が必至にサツキを説得してるが、もうそれコウ君もサツキが人間じゃないって言ってるようなもんよね。
「そもそも目的はなんだ」
「そうさのう、妹のメイを探しにって言ったらどうですのう?」
「え、妹が行方不明なのっ! 大変じゃないの特徴は? ダンジョンではぐれたのなら戻った方がいいわよね?」
「優しいですのう、もちろん冗談じゃのう」
…………真面目に聞いた私が馬鹿だった。
「そうさのう、気づけばダンジョンにいた。ってのが正確な答えですのう」
「本当なの?」
「それならば国などはどこだ……」
「記憶喪失って奴なんのう。覚えてるのは名前と術ぐらいだしのう、後は戦い方ぐらいになるかの」
そう言いつつ、コウ君を背後から逃がさないように首に手をかけている。
コウ君、背が小さいもんね。
満更でもない顔をしてるのがちょっとだけむかつく、コウ君さっきまで私にデートしよう。とか言ってなかった?
「ジョンも面倒だから信じてあげたら?」
「面倒ってのはなんだ、面倒ってのは……俺はだなっ」
ぶつぶつ言っているジョンは無視しよう。
小屋の扉を開けて部屋の中身をみる、簡単な毛布と二段ベッドが四つほどあり火を使う所は外にあるとか、話では小屋の後ろに干し肉があると教えてもらった。
「ええっと、嫌いな食べ物とかある?」
「特に何もないのう……納豆だけは嫌いじゃ」
「へぇ……聞いた事ない料理ね」
「僕聞いた事あります。豆を発酵させた奴なんですよね」
やだ、腐ってる食べ物とか。それは食べ物じゃないわよね。
「適当に炒めるのでいいわよね」
部屋から調理器具を手にもって外にでる。
ジョンは不機嫌ながら火おこしをしていて、駆け足で向かったコウ君がそこに簡易調理台を作っていく。
私の側にいたサツキが、不思議そうな顔で私に声をかけて来た。
「お主、収納ボックスはないのかの?」
「収納ボックス…………あれって創作の話でしょう?」
私も名前は知っている。
よく読んでいた娯楽小説の主人公が持っている無限アイテム袋の事。
人間以外ならその袋に入って新鮮なまま出し入れできるとか、私は読んで思った、死体をいれれば完全犯罪できるのでは? ってね。
「一つあげようかのう?」
「え、本当っ!?」
「ただし……ちょっとお願い事聞いてほしいのう」
「出来ない事はしないわよ」
「あそこのコウがいるじゃろ?」
「いるわね」
サツキがそっとささやき始める。
「中々いい男とおもわんかのう?」
「まぁ……まだ子供なのにいい子とは思うわよ」
「アレが欲しい」
「ほしいって……」
私が聞きなおすとサツキの目が細くなる。
「わらわの都合のよいように動く少年。その少年は大きくなってわらわを慕う。最高とおもわんかのう? 女のお主ならわかるとは思うのじゃが」
「…………あっちのジョンは?」
「あれは、歳が行き過ぎておる。二十はこえてるのみためじゃ、それにわらわに好意をもっておらん。ついでに言うと、あやつはお主に惚れてるじゃろ」
「なっ!」
に言うのよ! 私は無意識にフライパンで突っ込んでいた。
サツキはそれをしゃがんでかわすと、話を続けてくる。
「で、どうじゃ?」
「どうじゃって言われても……コウ君の意見はないのかしら」
「なに、拒絶されたらわらわだって諦める。ちょっとアレと一緒に洞窟に行ってくれればわらわは約束を守ろう。先渡しでいいぞい」
サツキは私に革袋を手渡してくれた。
見た目は革袋だ。
中身を開いても革袋で逆さに振っても何も出てこない。
「まだ何もいれてないからのう。そのフライパンをいれてみるのう」
「入らないでしょ……」
一応は入れるしぐさをすると、シュっと音を立ててフライパンが革袋に入っていった。
その光景にジョンもコウ君も目を点にして私を見ている。
「なっ入った……」
「嘘はいっとらんじゃろう? あとは手をいれて入れた物のイメージをするのじゃ」
空袋に手をいれてフライパンのイメージを浮かべる。
手にしっかりと持ち手の感触があり引っ張ると出て来た。
「すごい…………」
「細かい使い方は後でおしえるし、さっきの話どうじゃの?」
私は近寄ってくるコウ君の笑顔を見て罪悪感を顔に出さないようにする。
小さい声で、つい受けるわ。と、言ってしまった。
いやだってしょうがないじゃない。こんなアイテム一度体験したら手放しなんて無理よ無理。
「凄いアイテムですね! 迷宮産でしょうか……恐らくは市場には出ないと思います、サツキさんこれはどこで?」
「上に上がる途中に魔物から拾ったのじゃ、女同士親睦を深めようかとのう。わらわは持ってるしのう」
「さすがクリスさんです! 良かったですね!」
笑顔がまぶしい。
まぶしいわ……ジョンをちらっと見ると眉間にシワを寄せている。
そりゃ怪しいわよね。
「そこの兄さんも、地下にこれと同じ模様の剣が数本あったのう」
サツキは収納袋から短剣を取り出した。短剣にはドラゴンが羽ばたくマークが付けられている。
コウ君がそのマークを見て驚いた顔をしていた。
「うわ……古代帝国の模様……」
「ほう、古代か……。なんにせよ、帝国調査団でしたっけ? 同じような剣を上に献上すれば出世できるんじゃないかのう、場所おしえるさかい、この嬢ちゃんと取りにいったらどうですのう、嬢ちゃんにあげた袋なら運ぶのも楽だのうしのう」
「……俺は別に出世なんて……いや、献上か……兄や父には世話になっているな……」
あ、すごい。
ジョンも丸め込んだ。
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