75 布団が吹っ飛んだ……じゃなくて。クリスさんは混乱する。
思えば、思えばよあのミッケルが普通の冒険者を回してくるわけなかったわよね。
本当に弱いのであれば、街の警備のほうにでも回せばよかったんだし。
わざわざ、危険を伴う可能性のある鉱山探索に回したのだ。
「あのークリスさん?」
「なあに? コウリーダー? もう鉱山かしら?」
「い、いえまだです。お、怒ってますよね? ごめんなさい。剣の練習なのに魔法なんて……」
「怒ってないわよっ!」
「で、でもっ……」
「私が怒っているのは自分自身に、あれだけ大見え切っていたのに負けるとかっ!」
ちょっと前の自分を殴りたい。
あーもう、自分の顔をむにむにして表情をやわらげるように努める。
負けたのはもうしょうがない、私が見抜けなったんだし、魔法が禁止なら霧を発生させた時に注意すればよかっただけだし。
油断したのは私だ。
これが練習試合で本当に良かったと思う。
「さて、じゃぁ何をして欲しい?」
「えっあのっええっと……なんにしましょう?」
「私に聞かれても」
コウ君ならないとは思うけど、あまりにも変な命令なら『聴いてあげた』で済ませるつもりだ。
「まぁ任務終わるまでに考えておいてね、鉱山近いし」
「は、はいっ!」
元は小さい出入口だったのか、いまは大きな穴が開いている。
「いや、本当にここから来たのねって、ちょっとムメイ。さっさと中に入らないで! まったく……何のためのリーダーなのよ。で、コウ君どうする?」
ムメイが出入り口の所で足を止めた。
まったく協調性が無いというか、コウ君は地図を広げて空洞と地図を交互に見ている。
「入口はここだけのようですね。入りましょう、前はムメイさんに。真ん中は僕で、最後はクリスさんで、危なくなったら逃げてくださいね」
「はーい」
返事はするけど逃げる気はないけどね。
ここはコウ君のリーダーとしての顔を立てる。
物凄く空気が悪い中進んでいく……ってか鉱山のあちこちが穴空いているんだけど崩落とかないわよね? 下手したら生き埋めよ。
「崩れないか心配ですね……クリスさんどうしましょう?」
ホウレンソウが出来るとか偉い……驚いていると、顔が泣きそうになっていく。
「あの、どうしましょう……」
「ああ、ごめん聞いていたんだけど、しっかり相談ってえらいなぁって思って」
「クリスさん、あの僕子供じゃ……」
「ごめんごめん」
子供でしょう。と、いうのは抑えた。
年齢を聞いたら一四才だって。でも冒険者なんだし、子ども扱いしたらだめよね。
私だって四十すぎた冒険者に子供扱いされてもちょっとイラっとするだろうし。
そういえばミラクルジャンの三人は元気かなぁ。
「あのっ」
「ああ、ごめん考えていたのよ? そこの無口なムメイはどうしたらいいと思う?」
ムメイは紙にさらさらと文字を書くと私たちに見せる。
「ええっと……『遊びに来たのなら帰るぞ』。別に遊びに来たわけじゃないですけどねっ!」
「そうですよね……危険かもしれませんけど進みましょう。魔物が通ったんですし直ぐには崩れないと思います」
「そうよね」
しっかし、ムメイの行動と歩き方とか、知り合いに似てる。
でも今頃は、ミッケルに連れられて皇帝と会っているはずだし、違うわよね。
ムメイの後に私達は進んでいく。
押しつぶされた魔物や、壊れた工具などをよけながらだ。
しばらく進むと坑道というのに、奥から新鮮な空気が入ってくる。
「風……?」
「風ですね。鉱山の奥から風は普通はありえません……多分ダンジョンと繋がったと思います」
「スタンピードの原因ってわけね」
風が吹く方向へと歩いていく。
先ほどまでジメジメした空気が一新される。
「気持ちいいわね」
「新鮮な空気です」
私は剣を抜いて、影から襲い掛かってきたスケルトンを切り倒した。
スケルトンはそのまま倒れ、しばらく見ていると地面に消えていく。
「迷宮スケルトン?」
「そのようですね……見てください、ここから壁が違います」
「本当」
コウ君の背後から壁をみる。
触ってみるとわかるけど表面がつるつるして気持ちい。
「あ、あのっ」
「なに?」
壁と私に挟まれるようになったコウ君を見下ろす。
ああ、邪魔って意味ね。
「ごめんごめん、じゃまだったわよね」
「え、いえ、あの……大丈夫です」
「顔赤いけど大丈夫? あれ、ムメイは?」
「ダイジョウブです」
なぜ片言……私は壁とコウ君から離れてあたりを見回す。
先に進んでいたはずのムメイがいないからだ。
ムメイはダンジョンと切り替わった先を眺めている。さてさて……。
「あの、任務はここまでなんですけど、進んでみていいでしょうか?」
「一応理由は?」
「はい、スタンピードであった場合ボスがいると聞いた事があります。どんなボスなのかを解れば……ダンジョンには特有のパターンもあったりボスまで行かなくても少しでも情報があれば良いと思うんです」
「ほええ、偉い」
「そうでしょうか」
本当に偉い。
私はんて考えた事なかったわね。
でも、面白そうだからダンジョンに入りたかったのはある。
ムメイが近くによって紙を見せつける。
「ええっと『回復はどうする?』だって」
確かに、一応はポーションが支給されているけど前衛三人のパーティーだ。
何てバランスの悪い。
「基本回復なら僕が使えます」
「うわ、すごい」
「ありがとうございます。でもあの……魔力的に四回ぐらいが限界ですけど」
「ないよりは全然いいわよ」
と、いう事で準備はそろった。
私達二人と、何も言わないムメイの意見が揃った所での出発だ。
ムメイが一歩前に進んだ所で、突然にムメイが吹っ飛んだ。
その飛ぶ前の所には腕が取れていて……。
「えっ」
ムメイがゴロゴロと転がって、フードと仮面が取れる。
見知った黒髪の男が食いしばった顔で前を向いていた。
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