74 クリスさんの新人育成、コウ君編
道中はいたって暇である。
街を離れるほど魔物の死体が残ったままであるが、雑魚魔物が一切でない。
「外の方が安全なんですね」
嬉しそうに話すのはコウ君だ。
「人から聞いたけど、弱い魔物は最初のスタンピードが起きた時に本能的に逃げるらしいわよ。それが戻ってきたら平和になっていくとか」
「クリスさんは物知りなんですね!」
目をキラキラさせてコウ君は私を見てくる。
いや、そんな物知りじゃないからね、それよりも魔物が戻ってきて平和になるって矛盾してるような。
「そういえば、私のファンって……なんなの?」
「ご、ごめんなさい。あのスタンピードの中、鉱山門を守った女性冒険者として噂されているんです」
「うーん、でもあれ私一人じゃないわよ?」
ここ数日そういう話を聞いたけど、そのたびに否定をする。
確かに魔物を半分ぐらい倒したのは私だけど、ジョンだって手伝っていたし、他の帝国調査隊の人達もいた。
私が来るまで冒険者も何人もいたし、街の兵士が無能といえばそうではなく、あの人達も最後まで残って門を閉めようと怪我をしながらも逃げずに全うした。
その辺をコウ君に教えると、私の事をさらにキラキラした目で見てくる。
「凄いです」
「いや、すごくないからね」
「すごいですよ。ムメイさんもそうおもいますよね!」
おふぅ、凄いわね。
絶対かかわりたくないようなオーラ出してるムメイに対して話しかける勇気。いや天然?。
ムメイは立ち止まり、小さく頷くとまた歩き出した。
「ほら、ムメイさんもすごいって言ってますよ!」
「嬉しんだけどね……でも、英雄というのはいないわよ。生き残れば英雄? じゃぁ死んだ人は英雄じゃないの?」
「あっ……そういうのは考えて……」
あっ、まってまってまって泣かすつもりはないのよ? 目に涙を浮かべないで。
「く、暗い話はおしまーい。そ、そうだ。実力をちょっとだけ知りたいかな? 次の休憩場所で確認していい?」
「は、はいっ!」
よかった泣きそうなのが止まった。
ここで泣かしたら私が悪者である。
「ムメイもそれでいい?」
私が問うと、ムメイはまたサラサラと紙に書いて見せる。
「なになに。『断る』」
…………あーそう。
「ムメイさん! クリスさんと練習ですよ! 名誉な事ですし手合わせできるってお互いの力を確認する大事な事と思うんです! そ、そうだリーダー命令です」
ムメイはもう一度『断る』と紙を見せた。
コウ君の前に立つとムメイはコウ君を見下ろす。
コウ君がびくびくしてる。
「別にしたくないならいいわよ。その代わり何があっても助けないわよ。実力知らないんだし」
ムメイは頷くと歩き出す。
私はコウ君にお手上げね。とポーズをするとコウ君は、リーダー失格だ……とつぶやき始めた。
「気にしないのっ」
「は、はい……」
「じゃぁあの辺で昼休憩でもしましょうか」
「はいっ!」
あの辺というのは小さい湧き水があふれている広場だ。
休憩スペースになっていて簡易的な手作りの椅子や工具などが置かれていた。
軽い昼食の後、私は剣を握った。
本当は訓練なんて真剣でやるもんじゃないけど、無いんだからしょうがない。
目の前にはガチガチに緊張したコウ君が剣を構えてる。
ムメイは椅子に座ったまま仮面越しにこっちをみているだけ、ほんっとう胡散臭いやつよね。
さて、話はもどしてこれじゃ、練習したって結果が見えてるし、どうにかして緊張をほぐしてあげたい。
「よし」
「ハイ!」
いや、ハイじゃなくて……。
「勝ったら私にできる事一つしてあげようか」
「えええええええええっうええっえええ」
「いや、そんなに驚かなくても……」
「な、なんでもですか?」
「出来る事ならね、といっても私も負けるつもりないけど」
私が冗談を言ってコウ君がうなずくと、コウ君の剣を握る表情が真面目になる。
数回深呼吸をすると緊張がほぐれたようだ。
「胸を借りますっ!」
「私の無い胸であれば」
どこからが石が飛んできた。私はそれをキャッチすると飛んできたほうをみた、フードと仮面をかぶったムメイが私に投げて来たのがわかった。
石は紙で包んでおり、その紙を広げると『下品だな』と短く書かれいる。
イラッ。
紙はポケットにしまって、コウ君をもう一度見る、私の行動に不思議に思っているんだろう。
「じゃ、この石が地面に落ちたらスタートって事で」
「はいっ!」
私は軽く石を投げる、その石が私とコウ君の中間に落ち私は意識を集中させた。
コウ君の構えは普通に剣を構えている、一気に先制攻撃をしてもいいけどそれでは面白くない、圧勝してもね。
ふと、祖父の、だからクリスは……と聞こえたきがした。
コウ君は気合の声とともにまっすぐに走ってきた。
大きくふりかぶる剣で私はそれを受け止める。
金属音とともに私の腕に力が加わった、筋はわるくない。
それを力で返すと、コウ君は悔しそうに後ろに下がった。
「まだ終わりじゃないわよね?」
「も、もちろんです」
「いいわね、そういう子すきよ」
赤くなったコウ君が私に攻撃を仕掛けてくる。その動きはなかなかに良くて私もびっくりだ。
でもまぁ、全部返すんだけどね。
これがジョンだったら私も気を抜けない、アイツあれで強いからなぁアレから何度か練習試合したけど六勝三敗って所だ。
「あれ?」
気づけば私の周りに霧がかっている。
「もしかしてコウ君の魔法?」
「はいっ! 全然大した事なくてですね、水辺がないとできないんですけど……そこの水場から借りました」
私に剣を向けたままコウ君が元気に答える。
いや十分凄いわよ。
相手の視界を奪う、やるじゃない。
コウ君の姿が段々と霧に飲まれていく。完全に消えてもらうと、やりずらいわね。
私は一気に間合いをつめるも、コウ君の姿見えなくなった。
「ちっ」
「ご、ごめんなさいっ!」
無意識にでた舌打ちに、背後からコウ君が謝る声がした。
「男なら謝るなっ!」
「はいっ!」
振り向くとコウ君の慌てた顔が見えた。
予想通り私の背後で剣を握るコウ君、私は間合いを詰めてコウ君の顔前に剣をまっすぐに突きつける。
「ふう、勝負ありって所ね」
「…………ごめんなさい」
コウ君がそうしゃべると、私が剣を突き付けているコウ君の姿が消えた。
「はい?」
周りの霧が晴れると、背後に気配がして私に剣を突き付けているコウ君が見えた。
「あの、それ幻です……」
「はいい?」
つまりだ、私が取ったと思ったコウ君は幻で、コウ君は最初から背後に移動してる事はなく……コウ君の後ろには椅子に座ったムメイが見えていて、紙に何かを書いている。
私に見えるように広げると『無様だな』と短くかかれていた。
くやしいいいいいいいいい。
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