73 謎の仮面男とクリスさん
瓦礫の山となった門前に立つ。
もちろん鉱山を調べる一人としてだ。
私の前には三人の男性がいる。
冒険者が二名と、現状を説明するためのミッケルがいる。
一人は子供……何歳だろう。小ぶりの剣を腰にさして冒険者ごっこをしてるような感じだ。あまり強そうには見えないけど、見た目が子供でも強いやつは沢山いる、その中の一人かもしれない。
もう片方は、この暑いのにフードをかぶり、顔は仮面で隠している。
怪しさ百パーセント、なんだったら道中襲ってきそうで背中を任せたくない。
「ええっと……これだけ?」
私はミッケルに白い目を向ける。
「どうにもこうにも、行きたがらない人が多くてですね。冒険者といえども命あってのものですし…………」
「にしても少なすぎるでしょ」
「クリスさんちょっとこちらに」
ミッケルに呼ばれて集団から離れる。
残った二人と離れてからミッケルは私だけに話し出す。
「流石にもっといましたし、調査隊からも何人か派遣する予定でしたけど、特別任務が入ってしまいまして、先日言った王が今日にも来るのですよ。
そちらのほうに、冒険者のほうも残った魔物の処理に内密に頼みまして」
そんな話もしていたわね。
なるほど、警備のために人員が持っていかれたのね。
ミッケルは、大きな声で理由を言えなくてすみません。と、謝ってくる。
「あとは……ぶっちゃけるとクリスさん一人のほうが良いような気がしまして」
「馬鹿にしてるのか、褒めてるのかどっちよ」
「そこは言いません」
むー。まぁいいわ、私としても数十人で動くよりは戦いやすい。
「あの二人の身元は?」
「小さいほうが、コウ・ムラサキ。腕はまぁ御察しで」
弱いのか……。
「仮面のほうは?」
「ムメイ……と、アンナさんの紹介状を持っていまして、必要以上に検索しないように。と言われましたけど……」
ムメイか、それにしてもアンナの紹介って、あんな人どこから。
いやまってダジャレじゃないのよ。
「さて、私ども時間がないので……」
「え。はいはい警備頑張って、危なくなったら……」
「ええ、逃げてください。恐らく地下ダンジョンに繋がっていると思うので、そこまでの道の確保と様子見ですので、地図は三人に渡しましたので」
説明するだけすると、ミッケルはさっさと場を離れていった。
本当に忙しそうね。
さて、私は二人の前に戻って自己紹介をする。
「冒険者のクリスよ」
「知ってます! 僕大ファンです。冒険者レベルまだDランクのコウっていいます」
「あら、先輩じゃない。私Fよ」
「えええっ……えふなんですかっ!?」
私はコウに自身のカードを見せる。
なんだったら手渡してあげたら、日の光にすかしたり裏や表をじっくりと見ては触って、最後に返してくれた。
「あんなに強いのに……昇段しないんですか?」
「まだなったばっかりだし、そっちは?」
私はムメイに尋ねると、ムメイは一枚の紙を私達に見せる。
紙には『魔物との戦いで火傷と口がダメになった。治療費のためにメイドに頼んだ』
と、短く書かれている。
「あーそれで仮面を」
ムメイは小さくうなずく。
剣の腕はちっこいほうよりは強そうね。
「まっよろしく。ええっとじゃぁコウ君リーダーお願い」
「えええええええええええっぼ、僕ですかっ!?」
「そりゃ私よりランク上だし……」
「ムメイさん、ムメイさんはランクはいくつなんです?」
ムメイは小さい紙を取り出すと携帯用羽ペンでさらさらっと書いていく。
そこには『冒険者カードはない』と、書かれていた。
「じゃぁやっぱり、冒険者ギルドルールでコウ君がリーダーね。よろしくっ!」
「僕がリーダー……」
これで、道中なにがあっても責任は私にはない! 戦闘はちゃんと助けるし問題はなさそうね。こっちの仮面男に任せても良かったけど、しゃべれないのに押し付けるのもね。
◇◇◇ 73.5 アンナ、その日の裏側
「アンナさーん。これどうかしら? 変じゃない?」
わたくしアンナはシーディス様の笑顔を見てほほ笑む。
場所はシーティス様の部屋でわたくしアンナは、その着替えのお手伝いをさせてもらっている。後数刻で皇帝が非公式に来るというので、シーディス様はとても嬉しそうだ。
コンコン。
と少し遠慮がちのノックが聞こえてきた。
「あら。もう来たの!? アンナさん開けてくれるー?」
「はい」
わたくしアンナが空けるとミッケルさんが立っている。その表情は少し暗い。
「ミッケル、もしかして、その顔はダーリンが来れなくなったとか……?」
「いえ、あの。ファル皇帝は予定通り来ると思うんですか、ライを見ませんでしたか?」
「ラインハルト? 見てないわね。いてもいなくても良いじゃない。母親よりも剣を選んだ子よ。いつ死ぬかもしれないのに……それより着替えの邪魔ですよ」
ミッケルさんはシーディス様を見た後にわたくしアンナを見てくる。
「アンナさんは……知りませんよね?」
「ええ、知りません」
「そうですよね。あっ今朝紹介された男性なら仕事として鉱山調査に向かわせましたよ」
「ありがとうございます。縁のある知り合いでして、この街でどうしても仕事がしたいと。お手数をかけます」
「いえいえ、こちらこそ、シーディス様のお世話をっと、シーディス様。花瓶はいけません」
シーディス様がミッケルさんに花瓶を投げると、ミッケルさんは花瓶をキャッチして部屋から出て行った。
「男のおしゃべりは嫌ね。でも、アンナさん、本当お世話にごめんなさいね」
「いいんです。好きでやってますし」
「あらありがとう、アンナさんも嬉しそうね」
わたくしアンナは昨夜の事を思い出す。
どうしても父親と顔を会わせたくない。知恵を貸してくれと。頼み込んで来た男を一人救った。
しかも、クリスお嬢様の安全も守れるし、後にクリスお嬢様達をからかう事も出来る。
何てすばらしいんでしょう。
「ええ、シーディス様。今日は楽しい日になりそうですね」
「そうよね!」
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