72 鉱山街アイザックの攻防 七日目
比較的すいている小広場で手ごろな木材へと座る。
周りは資材が置いてあり人もあまりいないはずなのに、遠くから私めがけて歩いてくる男がいる。
「お疲れ様ですクリスさん」
「何所にでも現れるわね」
「説明しましょうか?」
ミッケルに私は黙って首を振って答える。
何でもない日常ですら説明されたくない、最近はミッケルも説明好きを否定しなくなってきた。
むしろ、喜んで説明してる?。
「魔物数も減ったわね」
「通る道も変わりましたからね」
私は半分になった街を細目で眺める。
やはり魔物は強かった。って所かしら。
「あれから七日目ですか……」
「七日目ね」
あれ。というのは勿論スタンピード。
最初の日から数えての七日目だ。
再び街を眺める。削り切られた壁……崩壊したあとは街は魔物の渦に飲まれた。
いくら私が担当した所が持ったとしても、他の場所がそうでもなかった。
一晩ですべてを飲み込む。と、いう話はあながち嘘じゃない。
「思ったよりは死者は出なかったですからね」
「あった事ないけどギルドマスターも亡くなったんでしょ?」
「二日目の夜に勇敢にも、戦いに行くのに全財産持って部下とともに亡くなってましたね」
ミッケルが、ちくちくちくと嫌味を言う。
アンナから聞いたけど、魔物の襲撃の薄い所を狙って自分の部下と仲間の商人達と逃亡中だったとかなんとか。
知っているのはごく一部で、おかけで冒険者ギルドの指揮系統がめちゃくちゃになった。
今は代理でミッケルや他の貴族達が指揮を出している。
「指揮といえば、そういうのはジョンに任せないの? アレのほうが偉いんでしょ」
私は通路で立ち止まっているジョンを見る。
手には小さい箱をもっていて、おいしそうなリンゴがちらちらと見えた。
こちらを見ているジョンを見ながら、ミッケルに話しかけた。
ミッケルも立ち止まっているジョンに気づいたのだろう、ジョンを見ながら私の質問に答える気だ。
「そうですね、ジョンに任せたら殲滅すればいい。ってなるだけですからね。
一度任せた事があるんですよ。
模擬戦で、本人戦わず指揮を執る練習です。結果は結局本人が前線にきて……彼の兄、エルマ様のシワが一本増えたとか」
「それはご愁傷様ね」
「クリスさんもそうですよね」
その質問にはノーコメントだ。
そもそも私は、そこまで偉くない、だから前線にいっても平気なのだ。
突然に私めがけて飛んできたリンゴをキャッチする。
ジョンが投げてきた美味しそうなリンゴでかじると、やっぱりおいしい。
ジョンがその後に歩いてきて私の横にあった壊れた壁に体重をかけた。
「…………本人に聞こえる場所で言うな」
「本人が居ない所で言われるほうが嫌じゃない?」
「聞こえないなら気にならん」
「確かにね」
私が納得すると、ジョンと反対横からミッケルが、納得しないでくださいよ。と、ネチネチと言ってくる。
「で、ミッケル。これからの予定は?」
「帝国の伝令が先ほど届きました」
「はっや」
私達でさえ、アイザックの街にくるのに十日ほどかかったのだ。
まだ発生して七日なのにこれるのは凄い。
「帝国も馬鹿じゃないですからね。途中でリアと出会いそのまま伝令を走らせて来たのでしょう。ほかの町の情報も入ってきましたけど、ここまで酷いのは無さそうですね。
とはいえ、他の町まで救援にこれるか? というと微妙そうですけど。
ですから、鉱山を様子見に行かないとなんですけど……」
なるほど!
「私の「俺の「「出番」」ね」
私とジョンの声がかぶると、ミッケルはとてもとても嫌そうな顔をしている。
「なんで嫌そうなのよ」
「……問題があるのか?」
「あの、お二人とも立場ってわかってます?」
「あーこっちは周りに隠しているとはいえ皇子だもんね。いやー残念ねジョン、今回は私だけが行くわ」
「あなたもです、クリスさん……」
「はっ? なんで」
私は別に皇子でもなんでもない。
ちょっと剣が得意な普通な女の子……いや女性だ。
「曲がり曲がっても貴族ですし、ジョンが好きな人ですからね」
「っ!」
引きつった声を出すジョンを見て、もう一度ミッケルを見る。
「その話まだ続いていたの?」
「いいじゃありませんか、ジョンと結婚したら遊び放題ですよ」
その代わり城に閉じ込められるってわけね。
「毎日毎日、大臣とかの顔色うかがいながら、女性らしさとは、あーでもない、こーでもないって文句言われるんでしょう?」
そもそも女性らしいって何よ。
そういう奴には、私なりの女性らしさを剣で教えてきた。
「まぁ……文句を言ってもクリスさんに頼む事になりそうですが、ジョン……貴方はだめですからね。まだ内密ですけど、帝国から非公式で皇帝が来ます」
私は驚いてミッケルを二度見した。
「それって、誰か責任問題で誰かを処刑にとか?」
「しませんよ」
「こんな、ボロボロの街に皇帝が来てどうするのよ……」
「シーディス様の様子を見にです、追加の薬も持ってくると思います」
「あーそれね。最近ちょっと無理してそうな顔だもんね」
貴族も平民も同じ! 休む暇はありません。と、シーディス様は言い切ると屋敷の内外で活動してる。最近は顔色がちょっとよくない。
幸い、アンナが気を聞かせて手伝いをしているがちょっとは休んでほしい。
「と、こんな話ですかね。あと数日まって魔物が大丈夫そうならお願いします。言いたくないですけどクリスさんレベルの人が見当たらないですからね」
「了解」
話のきりがよくなった所で、回復魔法を使う髭モジャが木材を背負いながら私達をみている。
「なんだ、副隊長達に姉御、暇そうだな」
これじゃ、私達がサボってるみたいじゃないの。
「別に暇じゃないわよ。変な事は言わないでもらえますー? これでもさっきまで戦っていたんだし」
「いや、責めてるわけじゃねえよ。向こうでメイドの嬢ちゃんと、シーディス様が探していたぜ」
「あっ本当? じゃっ私は行くわ」
残った二人に手を振って私は歩き出した。
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