70 クリス、説明おじさんから説明を受ける
結局世の中金である。
あれだけいたチンピラ……じゃなく冒険者や鉱山で働く人もミッケルが金を出したら喜んで帰っていった。骨の二、三本折っても良かったかもしれない。
ミッケルが、戻りましょう。と言って、シーディス様の屋敷に戻ってきた。
まるで自分の家のようにミッケルは勝手に進んで、部屋をセッティングしだす。
椅子が五個並べられていて、私、アンナ、ジョン、ミッケル。そして縄でぐるぐる巻きにされたリアが座った。
だれも突っ込まないので、私もリアの恰好には突っ込まない。
「そういえば、ミッケルの家ってどこにあるのよ? ジョンと幼馴染とか誰かか聞いた事あるような?」
「わたしですか? この街には無いですよ。引っ越しましたので。
さて……わたしの事は置いておいて、まずはリアの話からした方がいいでしょう。
答えから言います、リアは予知夢が出来るのです」
「予知夢って夢の中の事が本当になる事?」
「少し違いますね、夢の中の事が本当になる場合もある事です」
どっちも同じような事よね。
リアが縛られたまま、はいはいはーい! と、声をだす。
「そうなんです! この街が魔物に飲まれるのを見たんです!」
「いつ見たのよ」
「はい! お使いに行って眠くなったので寝ていたら見たのです!」
つまりはサボっていたわけだ。
なかなかに堂々としている。
「夢って毎日みるんだしそれが予知夢とは関係ないんじゃないの?」
「さすがクリスさん!」
「もちろんです。大体月に二回ほど見るんですけど、予知夢の時は空が違うんです、空には赤い星が光っていてその時の夢はほぼ当たっているんです!」
「と、いうわけでして。過去にも何度か当てていましてね。
その能力をどうしたものかと、相談を受けまして、方向音痴ですぐ寝るし、剣の腕もないし、魔法が強いわけでも計算が得意なわけでも、あるとすれば愛嬌って所でしょうか。仕方がなく調査隊に編入です」
凄い言われようである。
もっと凄いのは、言われたリアは平然としてる、度胸と天然スキルも追加してもよさそうだ。
「城の人は誰も信じてくれないんですよーひどいと思いませんかっ!」
「過去にあてた予知夢は?」
「知りたいですかー?」
リアが含みを持たせて言ってくるので、ちょっとだけイラっとする。
「別にいいわ」
「ふええ、言わせてください隣国の大臣のカツラや、抜き打ち検査の日、訓練所の試験内容や、ランゼルの大火災などですー」
「はっ!? ランゼルの大火災って数年前に起こったやつじゃない、死者は出なかった奴よね」
ミッケルがため息交じりに入ってくる。
「ええ。上層部もまったく信じてませんでしたけど、サウザン第二皇子が耳を傾けてくれてましてね。事前に準備した物資や迅速な救援で大惨事にはならなかったです」
それは凄い。
その大火災の話は王国にまで伝わってきているから。
私が黙っているとアンナが手を挙げて発言をする。
「と、いう事はスタンピードは確実に起こるという事でしょうか?」
「恐らくは……もしくはそれに近い何か。問題はそれを信じる人間がほぼ居ないという事です。そもそも鉱山の魔物も予知夢からでしたからね。
現在はギルドには鉱山に魔物の発生あり。と、いう事で止めています」
「他の人には?」
「シーディス様にも先ほど伝えておりますが、最後まで街に残る。と」
貴族なのに偉いわね。
王国で同じ事起きたら何人が残るのかしら。
「そこは帝国でも一緒ですよ」
「なっ心を読んだ!?」
「そう思っただけです。さて……ジョン」
ミッケルはジョンに話を振った。
ジョンは、そうだな。と、いって私とアンナを見る。
「この街から出ろ」
「…………は? どういう意味よ」
「そのままの意味だ」
ジョンがぶっきらぼうに命令してくると、ミッケルが間に入ってくる。
「まぁまぁまぁ実は、クリスさんたちにはシーディス様の移送をお願いしたいんですよ」
「本人が嫌がってるのに?」
「時と場合があります」
私は無意識に頭をかく。
どうしたものか、私としては残りたい。
別に死にたいわけじゃなくて、理由を知った今は少しでも出来る事をしたいし、スタンピードなんて経験したくても、予約したって経験出来ない事である。
とはいえ、一人でも多く街から遠ざけるのも重要な事だ。
「行きませんよ、げっふ」
突然の声で振り向くと、ちょっと薄着のシーディス様が立っていた。
「母上っ! なぜここに」
「ここは私の家ですよ、どこにいようが勝手です」
うん、そりゃそうね。
「……話を聞いていたなら早い。街からでろ」
「いやだ。と、言っているんです……そもそもここは私が旦那から貰った家です。出てくのはゲフッラインハルトそっちです」
おーすごい、親子喧嘩って奴かしら。
こういう時の空気っていたたまれないわよね。アンナをみるとアンナも視線を外している。こっそり逃げたい。
はっ! リアをみるとロープしかなく既に逃げている。
「まぁまぁまぁ」
「あんたは黙ってなさい!」
おっふ仲裁に入ったミッケルが一撃で倒された。
私が怒られているわけじゃないのに、この空気はつらい。
これだったらさっさとスタンピードが起きてくれたほうがまだ楽だ。
部屋の扉が開かれた。
見知った調査隊の人が私達を見て、ジョンとミッケルやシーディス様を見る。
当然言葉が詰まった。そりゃそうよね、この空気ですもん。
「かまいません、報告を」
「副隊長! 魔物の群れが!」
「やった!」
思わず出た言葉に、何とも言えない視線が私に突きささった気がした。
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