67 ばれた
鉱山への道から街の中へ戻って北東区に向かう。もちろん今回の案内人はアンナだ。
元の案内人であるリアは、アンナのスカートをギュっと掴んでついて来てる。
北東の奥のほうへ歩いていくと、ちょっと大きめの屋敷が見えてきた。
屋敷を守る門番らしき人は見えないが、私の姿を見て一人の……制服を着こなした見知った顔が走って来た。
「やぁやぁやぁ、これはクリスさん。お久しぶりです」
「説明おぢさんおひさ」
私はミッケルに挨拶をする。
久々に顔合わせたけど相変わらず笑顔がまぶしい男だ。
「ミッケルです、せめてお兄さんでお願いします。年齢だってクリスさんと二年ぐらいしか違わないんですよ。という事で……リア、減俸です」
「ふえええええええっ!? ミ、ミッケル副隊長。な、なぜですかっ!」
アンナの背後に隠れるリアが大きな声を上げて驚いている。
甲高い声が頭に響きそう。
説明おじさん事ミッケルは溜息を出して肩をすくめる。
「鉱山夫達への事情説明任務にどれだけかかってるんですか……捜索隊を出す所でしたよ……無事で何よりです」
ミッケルが優しい笑顔でリアに説明する。
「ふえっ! あ…………申し訳ありません…………」
なるほど、怒ってるわけじゃなくて心配してたのね。
そりゃ減俸ぐらい言われるわ。ってかミッケルもいつも胡散臭い笑顔なんだけど、普通に優しい顔できるのか、もっと仮面被っているような奴と思っていたけど優しい所あるのね。
「クリスさん、何か変な事考えてません?」
「ぜんっぜん。それより」
「ええ。わかってますよ。ジョンの事ですよね」
ほわっ? なんでジョンの話が。
「いや違うけど……」
「え、告白された返事をしにきたのでは?」
「えっクリスお嬢様……いよいよ。安心してください初夜はわたくしアンナも着いて行きます」
「いやいやいやいやいや…………いやっ!」
最後は大きな声で否定する。
正直、そう正直告白されてたのは、忘れていた。
まぁいい友人というか、余りにも可哀想なのもあったから頬にキスをしただけで、恋愛? といわれると、どうだろう。
私自身としてはまだ冒険者を続けていたいし、自由が欲しい。
じゃぁ冒険者のままでいいから付き合ってくれってジョンに言われたら、その辺はうーん譲歩してもいいか。と思えるわね。
ってかね。
ジョンって私の事を知ってるくせに、私はジョンの事をあんまり知らないのよね。
「はっこれって、ストーカーって奴? ってあれ、皆いないんですけど……」
「お二人でしたら既に屋敷の中へ。わたくしアンナはここにいます」
「ありがと、とりあえず中に行きましょうか。って入っていいのよね?」
「はい、シーディス様へ薬を届けにと伝えております」
さすがアンナだ。
着かず離れず三歩どちらかにいるというか、もう結婚相手アンナでよくない?
「なんでしょうか?」
「ううん、なんでもない」
と思ったけど、アンナが私を好いてくれていたとしても、やっぱりアンナにも良い相手と付き合って欲しいわね。
「っと、また考え込む所だったわ。いきましょうか」
庭が余り広くなく、建物は三階建てであるけどこじんまりしている。
制服をきた調査隊の人が玄関前を守っていた。
「あら、見知った顔ね」
若い隊員は、お久しぶりです。と敬礼してくれる。
そんなに偉くなったわけじゃないのに、錯覚しそう。
開けてくれた扉を入ってたっているミッケルを見つける。
「では、早速こちらに。シーディス様がお待ちしておりますので」
「いきなりね……こういう時って薬が本当とか色々調べるんじゃないの?」
「普通はそうですね、説明しましょうか?」
くっ! 私が説明おじさんっていうのを逆手にとって嫌味を言って来た。嫌味よねこれ。
「手短にお願いするわ」
「では、信用における人物が持って来た薬ですので、信じます。何間違えていればわたしも、わたしの一家も……いえ、調査団の半分が死ぬだけですし」
「重い、めっちゃ責任が重いんですけど」
「偽者じゃないんですよね?」
「当たりじゃない!」
後ろに着いていたアンナが立ち止まる。
振り向くと、別な場所で待っていますと立ち去った。
なんで?
「ではわたしも、ここで。この先の扉にシーディス様がいるので」
「え? 一緒に来ないの」
「これでも忙しいんですよ……それに女性の寝室に男性が入るのは極力避けています。変な噂困りますからね。大丈夫ですちゃんと伝えておりますので」
なるほど。
この噂というのは何となくわかる。
シーディス様って人がミッケルと身分差の禁断の愛に目覚めたとか噂話がたったら困るってやつよね。
気さくな方なので大丈夫ですよ。とミッケルも案内だけして離れていった。
私の目の前には白い大きな扉がある。
一度大きな深呼吸をして、軽くノックをした。
短く、どうぞ。と、いう声がしっかりと聞こえたので扉を開けた。
白色の調度品に囲まれて天蓋付ベッドの上に黒髪の女性が上半身を上げてこちらを見ていた。
体の線は細く、着ているネグリジェも高級品なのがわかる。
「こんにちは」
「あっはい。こんにちは……クリスといいます。ええっと……冒険者ギルドの依頼? で薬のほうをお持ちしました」
「お疲れ様です。ごめんなさいね、こんな格好で」
軽く咳をしながらシーディス様は胸を押さえる。
私は直ぐに近寄って背中をさすった。
いい匂い……じゃなくてっ! 私は直ぐに薬を取り出す。水筒に入っていて中でちゃぽちゃぽ音がしている。
「これが薬です」
「これはご丁寧に」
ふたを開けるとシーディス様は腰に手をあてて豪快に飲む、飲んだ後にプハッーと気持ちよさそうに飲みきった。
ちょっと想像していたのと違って言葉を失ってしまった。
「げふ。苦いお薬、ご馳走様でした。どうなされました?」
「いえ、以外に豪快というか……」
「元は平民ですので、気を使わなくていいですよ」
「はぁ…………じゃなくて! ええっと……」
うん。薬を渡したら話す事が無くなった。
本当は道楽第三皇子の事でも聞きだして殴ってやろうかと思ったけどその気もうせた。
私が立ち上がると寝室の扉が勢いよく開く。
「母上、また倒れたと聞いたがっ!」
見知った男が、シーディス様に声をかけている。
私が座っている場所は死角になっているのが気づいていない。
あー告白の返事もしないと行けないと思うと会いたくなかったわね。
「来客中よ、もう大丈夫、冒険者さんに薬を届けてもらったから」
「そうか、礼を言う。俺は|ラインハルト・フランベルだ。後で報酬をし……は……ら……」
「は? 誰が何の事、言ってるのよ?」
言葉を最後まで言わないジョンに聞き返す。
ラインハルトと名乗ったジョンは言葉を失い、扉の外でミッケルがしゃがみ込み、あーあーって言っている。
「ラインハルト? どうしたの?」
変な空気の中シーディス様の優しそうな声が響いた。
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※次回更新予定日は23or24になります




