66 誠意ある健全な話合いがあれば物事は大抵解決するものよ
私が拳ぐらいの石を持った事で周りの職人風おじさん達の顔色が変る。
ぽんぽんっと空中に軽く投げキャッチして遊ぶ。
「おい、お前冒険者の癖に一般人に手を上げるのか? 冒険者の規則わかってるのかっ!?」
規則、規則ねぇ。
そういえばハンナさんの馬鹿孫もそんな事言っていたっけ。
余りに酷いと冒険者資格も剥奪されるとかなんとか。
「その石で何をするつもりだ、殴るのか?」
私は顎に手を置く、確かに石で殴ってもいいんだけど……私が見せたいのはそうじゃない。
「ちょっとだけ訓練に付き合って欲しいの」
「はぁ?」
「いいからこれ持って」
私は袖なしの服を着た男に石を手渡す。
「その中心部分をちょっと見つめるだけでいいのよ。それで私の用事はお終い。あとは、その女の子を誘拐するなりなんなりすればいいわよ」
「いや、別に誘拐はなぁ……」
周りの男達も私の言葉にドン引きの様子だ。なんで?
「とりあえず、中心見ればいいのか?」
袖なしの服を着た男が顔の前まで石を持って来た瞬間。
私は剣を引き抜いた。
「なっ」
私がふう、と息を吐き終わると、男のもっている石は半分になり地面に落ちる。
「…………あっぶねえじゃねか! この女! 襲う気がっ!」
「冗談は言わないでよ、訓練よ訓練。訓練中の事故だったら違反にはならないわよね?」
「な……いや……ちっ!」
「私としては、もっと訓練してもいいんだけど?」
もっとも、私も訓練中の事故なら怪我させてもいいとか、そんなルールあるのかは知らない。
「帰るぞ! いいか、帝国のワンちゃんよ。俺達は腹が立ってるって事だけ覚えておけよ!」
袖なし服を着た男は他の男達と帰っていく。
地面に座り込んだ女性に手を差し伸べる。
改めて姿をみる、髪は赤オレンジ色で三つ編みにしている、顔はソバカスがちょっと残っていて大きな瞳も赤オレンジ色だ。
「大丈夫?」
「はーい、大丈夫です。ご迷惑かけてすみません」
「…………」
私にお尻を向けて、ごつごつした岩に頭を下げている。
「いや、こっちなんだけど…………」
「ごめんなさーい、あたしド近眼なんですー!」
少女は今度は近く狸の置物を触りだした。
なぜ狸の置物がここに……と、思っていると、飲むなら狸亭へと看板がついていた。
なるほど、宣伝の置物ね。
「随分と胸が硬いんですね、あっもしかして男性の方でしたか?」
「はぁ、こっちよ……」
「ふええ、すみませーん」
どうしたものかと周りをみると、アンナが分厚いレンズの眼鏡を持って来た。
「遠くに落ちてました」
そういうと、女性に眼鏡を手渡す。
「ありがとうございますぅ! はぁよくみえるー、失礼しました! 帝国調査団補給伝令部隊所属リア・マックラー! と申しますぅ」
綺麗な敬礼だ。
「敬礼は綺麗なのね」
「訓練しましたから、ふふん。ですが、市民の皆様に害を与えるのは問題ですぅー!」
「あっそう」
私はリアと名乗った女性の眼鏡を盗って狸の置物にかける。
「ふええっ!? か、返してくださいー」
リアは、また狸に話しかけている。
助けたのに文句を言われるとは……さて、どうしよう? アンナを見ると、クリスお嬢様にお任せします。と眼で語ってる。
どうせ行き先は同じなんだし連れて行ってもいいようなきはする。
なんだったら案内してもらおう。
ってか、この子一人で置いておいたらまた絡まれるわよね……でも、私は子守の先生じゃないというか。
「まぁいいか。先生になりましょうっ!」
「ふええ? 先生なんですか?」
「だから、そっちは狸の置物だっていうのっ! ほら眼鏡かけて」
眼鏡をかけさせると私を見てありがとうございます。と、頭を下げてくる。
調子が狂う。
とりあえずは私の名前とアンナの紹介、そしてシーディス様に薬を届けに来た事を知らせると、眼をぱちくりしていた。
「本当ですかっ!? シーディス様も喜ぶと思います! 冒険者のクリスさんですね。直ぐにお屋敷にお連れします!」
「お願いするわ」
◇◇◇
「…………で、ここどこよ!」
「ふええ、ど、どこなんでしょう?」
「恐らくは東地区からでた山の途中ですね、この先に天然鉱山があると、先ほど看板で見ました」
「ふえええ? こんな場所にリアを連れて来てどうするつもりですかーっ!」
「こっちが聞きたいわよ! 私は連れてこられたのっ!」
思わず大声が出ると、リアは小さくなって近くの物影に隠れようとしてる。
リアを殺しても楽しい事ないですよぅ。と半べそだ。
殺すわけないじゃないのっ。
「クリスお嬢様、深呼吸、深呼吸です」
「すーはーすーはーすーは」
そう短気はだめよね、アンナに言われるまま深呼吸をする。
少しだけ気分が落ち着いてきた。
「ご、ごめんなさぃー、リアよく方向音痴って言われるんですぅー」
「そ、そう……まぁいいわっ! アンナ、戻れる?」
「お任せください」
今度はアンナを先頭にして歩く。
「すみませんぅー」
「まぁいいわよ。所でシーディス様ってどんな人?」
「はい、とてもお優しい人です。休憩のたびにお菓子を用意してくれるんですよ」
「他には?」
「わかりませんっ!」
それじゃただのお菓子をくれる女性だ。
もう何ていうか、厳しい人なのか、どんな症状なのかとかそういうのを聞きたいのだ。
「病気とは?」
「わかりませんっ!」
「症状は?」
「わかりませんっ!」
「年齢は?」
「わっかりません!」
「何なら判るのよっ!」
リアが突然走り出して物影に隠れる。
「クリスお嬢様、そう怒鳴られては……ほら、リアさんお菓子ですよー甘いですよーちっちっちっちっ」
アンナがしゃがみこみ、メイド服からビスケットを取り出した。
私にも一枚くれるので口に運ぶ。ポケットに入っていたのにしけってなくサクサクして美味しい。
リアが周りを警戒しながら、そそくさとでるとアンナの持っているビスケットを盗って、すばやく岩陰に隠れた。
猫じゃないんだから……。
その岩陰の後ろからリアの声が聞こえてくる。
「あの、知らないからって殺さないでくださいー!」
「そんな事しないわよ!」
「そもそも、入ったばっかりのリアにそんな事わかりませんですぅ!」
だったら早く言って欲しいものよ。
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