65 やって来ました鉱山街アイザック
ゴロゴロゴロと馬車は足早に進む。
乗っているのは私とアンナのみ、しかもだ。
馬車は乗り合い馬車とは違い割りといい高級馬車。
ちょっとした地位の人が乗るような奴で中に備え付けられている椅子もふかふかだ。
「いったいいくらかかるのかしら……」
「さすが皇帝の依頼という所でしょうか、街から街までの直通便プラス宿泊場所も整ってます」
そんなに大事な薬なら、自分で届ければいいのに……。
「あっ!」
「クリスお嬢様っ!? もしかして薬を忘れたとかっ」
「違うわよ、もってますー。いやね后妃様って見なかったなって……」
后妃がいる手前、自分ではいけないって奴なのかな?。
そりゃそうよね、愛人に会いにいくから留守にしますって言ったら正室はいい顔しないわよね。
「そういえばそうでしたね…………いいえ、普通の冒険者が、貴族であっても皇帝や皇子などと会えるのがありえないのですけど。わたくしアンナもまだまだですね。感覚が麻痺しそうです」
「たしかに……で、アンナ何日ぐらいでつくのかしら?」
「そうですね、夕方までには街について翌朝に出発、繰り返せば十日ほどあれば」
「遠い! 遠すぎ! こう転移魔法とかないの?」
「わたくしアンナが聞いている限り無いですね。遠くの人間と会話できる魔法はあるらしいのですが、人となると。クリスお嬢様が使われた転移の門に関しても魔法陣の大きさや起動する魔力が凄かったと聞きます」
そういえば、私一人飛ばすのに魔法使い五人ぐらいいたわね。
「でも中級試験のダンジョンには直ぐ飛んだんでしょ」
「……でしょ? といわれましても。恐らくは根本的な技術が違うのかと」
ふーん。まぁアンナに文句を言ってもしょうがない。
「暇つぶしの本を途中で買うとして山賊でもでないからしねー」
「そういう冗談は言わないほうがいいかと……」
◇◇◇
ボロボロの馬車が帝国南方にある鉱山街アイザックへとついた。っと……。
私は殺風景な景色を見ながら関節を伸ばしたり縮めたりと運動する。
「やっとつきました……」
「あら、浮かない顔ね」
「ええ……クリスお嬢様が山賊でも出ないかなって、言ったとたんに出るわ出るわ、合計六回ですよ!」
「あれは楽しかった、剣の試し切りにもなるし。でも一人も殺して無いわよ」
「っそれは……ありがとうございます? わたくしアンナが礼を言うのも変な気がしますけど」
「最後の三日間は誰も襲ってこなかったわね」
「恐らく、あの馬車は襲うな。と、情報が出回ったのでしょう……」
まぁ正確には殺すほどの奴が居なかった。
途中からアンナの説明で気づいたけど護衛も居ない貴族馬車がカッポカッポと走っているんだ、いい餌である。
普通は護衛がいてもおかしくない。と言っていた。
襲ってきた山賊は殆どが中の客を脅して金をせびろうとした集団。
そういうのは懲らしめてロープで結んで放置していったし。たまに来た本職? の山賊は捕まえて次ぎの街へ引き渡した。
馬車とロープを結んでいるので、引きずられないように必死に走っていたわね。
まぁ馬車がボロボロなのはそのせいである。
御者だけ変更して馬車は帝都から一度も代わって無いからなぁ。
「でもほら、ついたわよ」
私は岩山に囲まれた街をもう一度みる。
大きな石壁があり、その向こうには黙々と煙が立ち上っているのが見えた。
「つきましたね。話では北東地区にいるらしいです」
「了解、あっちの滝が見えるほうでいいのかしら。じゃぁ御者の人もお疲れ様」
私が手を振るとやや若い御者も、手を振って別れる。
彼はこの町から馬で元の街まで帰る手はずになっていると途中で聞いた。
街を守る門兵に冒険者カード、王族の印が入った依頼書をみせる。
なんと、それだけで特に注意もされずに街に入れた。
「随分あっさりだったわね」
「冒険者カードには特殊な魔法がかかっており犯罪歴などもわかるんですよ。偽造防止もありますので一番安心できる証明書かと」
「へぇ……さて、ラインハルトって皇子を見つけて一発殴りましょうか」
「クリスお嬢様……目的が変ってます」
わかってるわよー。冗談よ冗談。
「勝手に婚約されて破棄されて、一度も部下の働きを見に来ない奴の顔が見てみたいだけよ」
アンナも私の冗談を判っているので、それ以上ツッコミはこない。
さてさて、町並みを見ると流石に帝都よりは人が少ない、街の人間は体格のいい人間が多く、工具をつけた人間を良く見かける。
「鉱山街ですので、ここの金属をつかった武具は良質と調べておきました」
「ほえー」
武器貰ったのは先走ったかしら? ここならもっといい武器も手に入りそうな? とりあえず北東地区にいけばいいのよね。
歩きながら街を観光する。
小さいながらも冒険者ギルドの看板も見えるし、酒場や飯屋が多く見える。
「おい! どうなってるんだ! 鉱山に立ち入り禁止ってよう!」
ん? 最初私に言われたのかと思ったら、そういう怒声が聞こえただけだった。
声のほうに顔を向けると数人の体格のいいおじさん達が、制服を着たヒョロっとした一人の女性を囲んでいる、その制服は見た事があって…………。
「クリスお嬢様、帝国調査団の制服を着た人ですね。…………顔は知らない方です、どうしますか?」
「まぁあの体系じゃ前衛は無理そうね。私も全員は知ってるわけじゃないけど見た事ないなぁ。話だけ聞いてみましょう」
私はその集団に近づいていく。
「はーい。おじさん達、一人の少女を囲んで何言い争いしてるの?」
「あん?」
男達の一人が私に振り向く。
身長は私と同じぐらいで背は高いほうね。腰には工具をいれた腰ベルトをしているから何かの職人だろう。
筋肉質でむっきむきである、袖なしの服に胸毛が見えているのが特徴と言えば特徴ね。
「なんだ?」
「なんだ、といわれても冒険者をやってるクリスって言うんだけど」
「しらねぇよ! 女、ガキは入ってくるんじゃねえ! 用があるのはこっちの女だけだ!」
まぁそう言うわよね。
男の一人は私の事を犬か猫を遠ざけるようにシッシと手首を振ってくる。
「いや、この制服の子ってちょっとした知り合いなのよ、それにこんな道の真ん中で帝国の調査団を脅していたら色々と問題あるんじゃないの?」
「おじょうちゃんな。理由もきかねえで一方的に俺達にいってるよな?」
袖なしの服から見える胸の筋肉をピクピクさせながら私に文句を言ってくる。
「あっちが悪いって事?」
私が調査団に振り向くと、調査団の若い女性隊員は首を横に振っている。
「違うらしいわよ?」
「あん? だったら早く坑道に入るなってのはどういうつもりだ!」
男の一人が女性調査隊の胸倉を掴む。
「きゃっ、あの、ですから――魔物が――」
「ちょっとちょっと!」
「うるせえっ! すっこんでろ!」
こうなると、私が出来る解決方法少ないんだよねー、うーん……祖父なら旨く仲裁するんだけどなー。
「アンナ」
「はい、クリスお嬢様。こちらを」
私がアンナの名前を呼ぶと、アンナが近くの石を持ってきた。
「ありがとう。はーい注目!」
おじさん達は半泣きの女性を乱暴に放した、女性隊員は尻餅をついて痛そうだ。
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