63 伝説の剣を手に入れたぞ! 殺してでも―……新しい依頼
宝物庫の中は想像していたような部屋ではなく、剣が十数本。盾が数個、鎧も数個立てかけられていた。
棚には皮袋がいくつかあり、その横には本棚や、ポーションのような薬品が並べられている。
小さい頃本で読んだ金ぴかの部屋とは違って地味の一言。
「これはどうだろう?」
オジさんが一本の剣へと指さし教えてくれた。
刀身が青白く光っていて、それだけで魔法剣というのが無知な私でもわかる。
「綺麗……」
「リヴァイアサンの牙。太古の神獣の力が宿った剣で、真の力は一振りで滝を出すといわれている。小さい頃にエルマが一振りして、湖を作ったね。懐かしい記憶だ。
よし……これでいいなら譲ろう」
「そうだな……俺もこれで良いと思う」
エルマは壁から魔法剣を外すと、私に手渡してくる。
「わー、ありがとうっ! …………ってなるかーっ!」
私が大声を上げるとエルマとオジさんがビクっと体を震わせる。
「ふむ、お嬢さんの趣味にはあわないか」
「そうじゃなくて、一振りで滝や湖を出されても困ります。と、言うかもう少し力が抑え目なのを」
「そうかい? エルマ、あっちの剣はどうだろう?」
「ふむ、東方の国から献上されたヤマタの剣か」
また大層な名がついた剣である。
鞘から取り出すととても刀身は細く、片方しか刃がない。
「これは良い剣だ。岩をも斬るといわれてのう」
「変な水とか火はでない?」
「出ない。純粋なカタナと言われる魔剣だ……まぁお嬢さんなら平気か」
もう、魔剣って名前がついてる時点で嫌な予感しかしない。
それでも、岩を斬るというのなら気になってしまう。
「何が問題なの?」
「この剣の持ち主に成ると三年後に死ぬ。と、いわれてる。
だから宝物庫に眠っている。迷信と思うが、それゆえに使い手がいない」
エルマが説明してくれたのを頭の中でもう一度呟く。
三年、三年で――――。
「要りませんー! オジさんも綺麗な布で梱包しないでくださいっ。強い武器手に入れたって寿命が三年ってなによ!」
私の強い反論にエルマが意外そうな顔をしてくる。
「よく考えろ、三年は死なないって事だぞ。何処か戦争になったら俺は使うつもりだ」
「そういう意味なのかしら?」
「さぁな、しかし。注文の多い女だ……ラインハルトもこんな女に執着とは堕ちた者だ」
凄い言われようである。
「そのラインハルトって人と婚約者だったってのは、つい最近聞いたばっかりだし、解消されてるはずですけど。あと一回も会った事ないんですけど!」
「「「………………」」」
私が宣言すると、その場にいる三人が全員押し黙った。
なんで?
「まぁとにかく。どうして中間の剣がないのよ中間が! そこの転がっている剣も曰くつき?」
私は壁にかけられている剣ではなく、床に立てかけられている剣を指差した。。
「おや、あそこに剣なんてあったかな? エルマ知ってるかい?」
「ああ、あれか……知り合いが持って来た奴だな。無名の剣だったはず、ただ頑丈で切れ味がいいだけの冒険者向き奴だな。他者に贈るには粗悪品だ。伝説級の剣には程遠い……しかし、剣が駄目と成ると、こっちの盾はどうだ?」
エルマは無造作に持ち上げた剣を壁際に置くと、飾られている盾を手に取った。
「おや、それはアキレウスの盾だね。百人乗っても大丈夫な結界を発動させる。欠点があって使用者以外は弾き飛ばされるというが、お嬢さんなら――――」
頑丈で切れ味がいいだけの粗悪品? それよ!
「それが欲しいのよ!!」
私が大声を上げると、エルマもオジさんも説明の言葉を止めた。
「なるほど、では……」
エルマは説明中の盾を取り外し私に向けてくる。
いや、天然か?
「違うっていうの、その剣が欲しいのよ」
壁に立てかけられた地味な剣のことだ。
「こんな国宝以下の奴をか?」
「ええ、丈夫で切れるって言ったら冒険者にとって最高じゃないのっ」
「それはわかるが、白金貨十枚にも満たない安物だ、せいぜい三枚程度だろう」
十分高い。
白金貨三枚でも金貨三百枚分である。
「それでも高いんですけど……これがいいわ! そもそも国宝級の武器ってロクなのないじゃないの」
「国宝級だからな、切れるだけで丈夫なだけの剣を宝物庫に取って置いてどうする。そんな剣は兵舎に保管する」
そりゃそうである。
でも、なんだろ。眉間にシワをよせて正論を言われると、すっごい不満が残る。
「お嬢さん、本当にこれでいいのかい? ラインハルトやサウザンからの紹介であれば、もっと高い物を……」
「これでいいのっ!」
皇族二人が納得してないような顔をしてる。
「ふう仕方が無い、それで我慢しよう。後で文句は受けつけない」
「言うわけないじゃない」
なんで貰うほうが文句を言われるのか。
オジさんが両手で剣を手渡してくれる、私は膝をついて両手でその剣を受け取った。
エルマが横に立っていて高圧的な態度をとってくる。
「ふ、場所が場所だったら皇帝から直接、ありがたく受けとれ」
エルマが私に対する圧が凄いんだけど。
言ってる事は事実だ。
「そんなにかしこまる事もない。さて……これで全て終わったね」
「そうですね」
オジさんの話半分で聞き流す、私は装飾の少ない剣を腰につける。
一見、銅や鉄の剣に見えるが、軽い。羽のように軽いのは魔法でもかかってるのかしら。
斬りたい、何か斬る物ないかな……。
ここでエルマを斬りつけたらどういう反応するんだろ? ちらっとエルマを見ると一歩下がった。
はいはい、勘のいいやつだ。
「――――じゃ、そういう事で頼むよ」
「はい、わかりました。クリスお嬢様が宜しいのであればわたくしアンナもご一緒にします」
「そうかい? ではクロイスのお嬢さん。薬はギルドに届けさせるから頼んだよ」
「…………知っておられましたか……いいえ、当然でしょうね。このわたくしアンナ、承知しましたっ!」
アンナが静かに了解の声を出すと、宝物庫から出ましょう。って提案された。
直ぐに四人で宝物庫からでると、エルマとオジさんはそれぞれ行く場所があるからと離れていく。
「楽しみですね、クリスお嬢様。でもまさかクリスお嬢様が依頼を受けるとは思ってませんでした」
「……何の話?」
「ですから……シーディス様のお薬を届ける約束……さきほどはいはいと受けてましたよね」
「ふぁっ!?」
お読みくださりありがとうございます!




