62 クリスさんのパパ活(?
ゴクゴクゴクゴックンっと、アンナから手渡された高級ポーションを飲む。
聖女様から万が一にと、アンナに手渡された奴と、飲みながら聞いた。
高そうなのに、ここで使うとは。ってか高級ポーションが無かったら黒コゲよ!。
「無礼講で言わせてもらうけどっ私に恨みでもあるわけー!」
相手が皇子とかもう、そういう話じゃない。
エルマは相変わらずの眉間にシワをよせたままこっちを見ている。
「恨みはないが」
「無いが?」
「アイツが気になるのもわかるな」
「アイツって誰よ」
「さあな、さて鍵を取ってくる……」
「ちょ、もってないの!?」
エルマはやれやれ、そんな事もわからんのか? というような表情で私を見ては溜息をつく。
「訓練するのに一々宝物庫の鍵を持って移動するのか?」
「いやでも……貴重品でしょ」
「どこぞの人間は、たった数分間のうちに書類を落としていたな。貴重品だからといって常日頃から持ち歩かない」
「行ってらっしゃい! 私達は待ってるから」
どこぞの人間とは、どう聞いても私である。いやちゃんとポケットに入れたのよ? これは盗られたに違いない。うん、私悪くない。
「で、立って待ってろ? ってわけ?」
「そうか、そうだな…………待ってろ」
エルマは宝物庫の近くの部屋から、簡易ソファーを持ってきてくれた。
廊下で待て。という事だろう。
だったら、その部屋の中に居たほうがいいだろうに。と、言うのは口に出さなかった。
エルマなりの好意で運んできてくれたんでしょうから。
「くれぐれも逃げるなよ?」
「逃げないわよっ! それに犯罪者じゃないんだしっ!」
「ふむ、職業癖という奴だ。気をつけよう」
私は盗人かっ! と突っ込みをいれるとエルマは廊下を歩いていく。
アンナと私は廊下のソファーに座って体を休める。
「色々と忙しいですね」
「本当……金貨三十枚ぐらいもらって、さっさとバイバイすればよかったかも」
「今からでも交渉してきましょうか?」
「いや、ありがとうアンナ」
気を使ってくれるアンナにお礼を言う。
人が来ないような廊下なのに、エルマが離れていった反対側から人が歩いてきた。
汚れた茶色の布の服を着た農夫。
いや庭師の格好をしたオジサマ事、オジさんだ。
ちょっと前に美味しいケーキをご馳走になった。
「おや? お嬢さん」
「あ、どうも」
「…………ここで何を?」
「何ってエルマ……第一皇子待ち。剣をくれるらしんだけど、ここの鍵が無いらしく取にいくって」
流石に本人の前では呼び捨てでも良いかもだけど、本人がいないのに城で働く人に皇子を呼び捨てには出来ない。
「なるほどのう」
「クリスお嬢様こちらの方は?」
私はアンナに、庭師のオジさんを紹介する。
「クリスお嬢様がお世話になった、庭師の方ですか…………? 申し遅れました、クリスお嬢様のメイドをしています、わたくしアンナと、申します」
「これはご丁寧に……庭師をしているわけではないのだが……お嬢さんが勘違いしていてのう」
「えっ! そうなの!?」
そんな話は聞いていない。
あれ、でも確かに庭師と思ったのは私だけで、オジさんは庭師とは名乗ってなかったような。
「そうなんですか……? ケーキとても美味しかったです」
「それはよかった。若い女性に合う食べ物はわからなくてね。厨房に慌てて向かったよ。しかしまいったな…………」
私が何が? というとポケットから何かを取り出す。
手のひらにはオジさんは七色に光る小さい棒を見せてくれた。
「もしかして鍵?」
「ご名答、鍵はこの通りワシが持っている」
「あっわかった! オジさんって庭師じゃなくて掃除する人よね。だからあっちこっちで会うのね」
それなら納得だ。
隠し通路も知っているだろうし、ケーキも貰える。
今は宝物庫の掃除しに来たんだろう。
「………………クリスお嬢様」
アンナが呼ぶので私は振り向く、なんという事でしょうアンナが眉を顰めている、なんで?
「何?」
「…………流石にこれは」
私がアンナにどうかしたの? と聞こうとすると、反対側からエルマの姿見えてきた。
「あっおかえりー。災難だったわね、この庭師のオジさんが鍵もってるって」
「…………ここに居たのか」
「やだ、エルマ。オジさんの事を怒らないでよ」
不機嫌そうな顔は、私やオジさんをにらんでいる様に見えるからだ。
ちょっとサボったぐらいで怒る上司はどうなのよ。
「今日の仕事は終わったのか?」
そうたずねるとオジさんは、終わったよ。と、短く言う。
エルマが眉間にシワを寄せているのに、オジさんはにこやかな顔だ。
「もちろん。エルマこそ」
「あれ。随分と仲がいいわね……あれ、アンナはなんで落ち込んだ顔してるの?」
「これは流石に説明をしたほうが…………でも、故意に隠しているなら――――ええっと、クリスお嬢様……そのですね。絶対ではないんですけど……」
アンナにしては歯切れが悪い。
「何か勘違いしてるかもしれないな。俺達の父だ」
「へぇ。エルマの父親って掃除屋さんな……の……ね……?」
私の頭にハテナマークが出てきた。
あれ、エルマって第一皇子で、サウザンが第二皇子、まだ見ぬラインハルドが第三皇子って教わった。
その父親がなんで掃除屋さんを、普通皇子の父親って言ったら……。
「こ。こうもがもがもがもがもが」
私の口をエルマが手で強引にふさいだ。
「な、なにするのよ!」
「うるさい、叫ぶな。そうだ父でありファル・フランベル皇帝だ」
「ホッホッホ、何皇帝といってもお飾りだからな。メイドのお嬢さんも頭を上げて結構、先ほどの通り掃除屋に話すつもりでいい」
「いやいやいやいや……」
「ふむ、では命令だ。オジさんで結構」
ファル皇帝の目がきつくなる。
眼光というのか、いやー皇帝だわ……。
「命令であれば……失礼して。なんで、オジさんは庭師の格好してるのよ。それに今だって……」
「暇だからのう。それにワシが居なくても帝国は崩れない」
ピタっと言い切る言葉はさすが皇帝として力強さがある。
「俺からも言おう、父の考えは皇帝や俺達皇子は、飾りだ。戦争中はともかく平時にいてもいなくても代わらんからな。考えても見ろ俺は連隊長を勤めているが死んだ場合国が即座に滅ぶ事は無い」
「いや、そうなんだけど……」
「皇帝もそうだ。皇帝という人物がいなくても最悪国が消えるだけ、人々はすぐには消えない、もっとも新皇帝の悪政があれば住んでる人間も滅ぶがな」
「いやまぁ……そうなんだけど……」
私が頷くと、オジさんは宝物庫の扉をさっさと開けた。
いや、まだこっちの話終わって無いんですけどー! とは突っ込めない。
「さて、剣だったかな。お嬢さんに合う剣があればいいが」
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