61 宝物庫の防犯設備
使い放題なお湯をジャンジャンと豪快に体にかける。
「にしてもシャワー室とは、便利ね」
思わず呟くぐらいに便利だ。
場所は何所かというと、訓練所に備え付けられているシャワー室。
難しい原理はしらないけど、魔石に貯めた魔力を放出して水を温め、あとはポンプの原理で備え付けのノズルの先からお湯が出る。
アンナに言わせると、これだけの水を沸かす魔石を用意する事や水のくみ上げ、王国では考えられないですね。と言っていた。
あっちは貴族でもサウナやたまに湯船が多いからなぁ。
とりあえず使い放題と言われた石鹸を使い体も洗う。
「クリスお嬢様、タオルはここにおいておきますね。あと、再生のポーションの追加もこちらに」
「はいはい、ありがとうー」
シャワー室の脱衣所部分にはアンナが待っている。
こげた髪や皮膚は再生のポーションと聖女様のヒーリング魔法で回復した。なんだったら前より肌や髪質の調子がいい。
聖女様の回復魔法を売りに出したら、そっち関係で大もうけ出来そうなきがする。
髪についた泡を洗い流して、タオルで全体をふいた。
「クリスお嬢様……お待たせしました」
「それは?」
脱衣所に戻ってくると、手には小型の道具を持っている。
「ドライヤーという物らしいです。こちらに二種類の魔石を組み込みスイッチを押すと風と火の魔法が温風として出ます」
「ふえー凄いわね」
「はい……時間は十分ほどで効果がきれますが……」
「魔石の値段は?」
「冒険者ギルドで売られているのを見ると一個で金貨八枚はするかと」
シャワーを一回するだけで金貨が三十枚ぐらいは飛びそうだ。
アンナがちょっと青ざめてる。
「って事で私は開いたから、次はアンナの番よ」
「…………辞退させてもらうとうのは」
「せっかく二人で使ってくれって言われたんだし使ったほうがいいわよ」
「ですよね……では、失礼させてもらいます」
アンナも衣服を脱ぐとシャワー室の個室に入っていく。
私はその間に綺麗に洗濯された衣服を着る。
これもそれも、エルマが手配してくれた。
「ねーアンナ、エルマって呼び捨てでいいわよね?」
シャワーを使うアンナが振り向き喋ってくれる。
「公の場以外は、そうしてくれという話でしたので……」
「了解」
私が着替え終わると、アンナもシャワーから出てきた。
濡れた体から水が滴り、色っぽい。
ドライヤーを手渡すと、じっと見た後に使い出す。
「で、着替えるのはメイド服なのね」
「当然です! わたくしアンナは生涯メイド服を――」
「そんな生涯やめたほうがいいわよ……」
私が文句を言うと、脱衣所部分の扉が大きく開かれた。
開いた扉を見るとナツである。
「やだ、覗き?」
「覗きなわけないだろ! 隊長が様子見て来いって言うからなぁ! とっと用意しろクソ女!」
「じゃぁ隊長が様子見に来ればいいじゃない」
「なっななななっ、おま、おまえ本気かっ! シャワー室では裸だぞ! はだ……わかったぞ! お前クソ女じゃなくて痴女だな!」
「あーのーねー冗談ってわかる?」
まぁ本当に来たら張り倒すけど。
アンナのほうを見ると、丁度シャワーを終えた所だ。後は髪を乾かしている。
ナツが文句でも言うのかと思ったら、そこは言わないのね。私だけって事ー? 嫌われたもんね。
「よし、ナツ撫でててあげるわよ」
「なっい、いるかっ!」
「では、クリスお嬢様わたくしアンナを……」
アンナが私の横に立ち、頭を下げるのでとりあえず撫でた。
忘れ物を無いか確認してシャワー室を出た。
エルマが既に待ち構えていて、野次馬をしていた兵士達は訓練に戻っている。
聖女様の周りには怪我をした兵士が列を組んでいるのが見えた。
もっとも、本当に怪我をしてそうな兵士は見当たらない。
「待たせたわね」
「俺は待ってない……ナツがシャワー室で二人が倒れていたら大変といってな」
私はナツを見ると、ナツは赤い顔をして、あーだの、うーだの言い出した。
「た、隊長! ナツはそんな事いってませんっ!」
「そうか、そういう事にしておこう」
エルマが淡々と話すので、どっちの嘘かわからない。
たんにエルマがナツに矛先を向けたような感じもするし。
「さて、いくぞ。ナツ後は頼んだ」
「はっ!」
綺麗な敬礼を返すとナツは私達から離れていく。
「一緒に行かないの?」
「副隊長だからな、兵士の管理もある。それに宝物庫に連れて行くわけにはいかない」
「なるほど」
エルマがさっさと歩くので私もついて行く。
「あの、わたくしアンナが一緒でも良いのでしょうか?」
「かまわん」
中庭から城の本館というのだろうか。そちらのほうに戻ってきた。
宝物庫とか、すっごいワクワクする。
途中から螺旋階段を登りさらに別の廊下へと歩く。
正直迷いそうだ。
何の変哲も無い扉の前で止まると、エルマは振り返る。
「この扉の先だ」
「普通の扉なんだけど?」
扉の材質は木材で鍵穴すら見当たらない。
「鍵が掛かってる……開けてみろ、開けたらもう一本やる」
「本当!?」
嘘みたいな話だ。
こんな扉の先に宝とか、でもまぁ開けたらくれるって言うなら……ドアノブを掴む。カチャっと右に回しても開かない。
じゃぁ左。
こちらも開かない。
わかった、押すんじゃなくて引くのね!
「よく気づいたな、この扉は開く時は引く」
「では……」
私はドアノブを持ったまま壁に足をつける。
なるほど、片足じゃ足りないか。
両足を壁につけてドアノブを引っ張る。
「うおおおおおおおおおお!!!」
「…………クリスお嬢様……」
アンナが呆れた声出すけど、それでも引っ張る。
その瞬間体全体が強烈に痺れた。痛い視界がチカチカして口から変な声がでる。
「アガガガガガガガガガガガガ」
「クリスお嬢様!!」
「このように魔法がかけれており、無理にあけようとすると雷の魔法が悪人を懲らしめる」
私はショックで床に落ちた。両足を広げた姿勢のままエルマを見上げる。
エルマが鼻先でフンと笑う。
こ。こいつは…………。
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