58 欲しい物はこれじゃない!
所変わって、先ほどみた中年男性事マルニタがサウザンだけに頭をヘコヘコ下げて挨拶してきた。
場所は、お城の一室で私に剣を譲ってくれると紹介された商人だ。
部屋には私、アンナ、第二王子のサウザン。商人のマルニタ、メイド服で奴隷のアーニャの五名。護衛の兵士と聖女様は訓練場に向かったので今はいない。
「これは殿下。こちらのお嬢さんが剣をっていう事でしたな。わたしはマルニタという小さい商人ですな。おいっ! アーニャっ!」
マルニタが褐色のメイドに怒鳴りつけると、アーニャと呼ばれたメイドは頭を下げて部屋の奥から細長い箱を持って歩いてくる。
そのアーニャの頭をマルニタが強い力で引っぱたく。
「遅い、殿下を待たせるな! いやはやすみませんね。躾の出来ない奴隷で」
サウザンが大げさに顔に手をあてため息をついた。
「さぞお困りだろう。マルニタどうだろうか? この奴隷をわが城に預けてみないか? 立派なメイドにして送り返すが」
「なっ!」
マルニタの言葉がちょっと詰まった。
そりゃそうでしょう、仕事で来た城であんな事を…………キャッキャウフフをしようとするぐらいの中だし。
てか、サウザンも判っていてからかってるわね。
「め、滅相もございません! この馬鹿女に殿下の手を借りるなど。それによく言うでしょう。馬鹿な奴ほど可愛いと」
「なるほど……良かったなアーニャ。主人のマルニタはアーニャの事が好きらしい」
「殿下、べ、べつに私は好きとかではなくて、主人としての」
慌てるマルニタに、アーニャが頭を下げるだけで何も言わない。
結構、しっかりしてるのね。
こういう場所で奴隷が口を開いたら大変だもんね。
「さて商売だ。調査団からの依頼で女性に贈るに相応しい剣を持って来たと、あいにく調査団は仕事中で自分が代わりにその品を見よう」
「今回はイチオシのを持ってきました! アーニャ!」
頭を上げたメイド服奴隷のアーニャは縦長の箱を持って来た。
私達の前に持っていくとその箱を開ける。
肝が据わっているというか、こっちのほうが堂々としてるわね。
ええっと、箱の中身はっと。……そこには細身の剣が綺麗に入っていた。
問題は柄の部分である、キラキラキラキラキラと宝石がまぶしいぐらいに付いてる。
「これは?」
思わず私の声がでると、マルニタが説明しはじめる。
「英雄譚で出てくる炎の剣士アンジェリカが使っていた剣のレプリカです。柄の部分には宝石と魔石をちりばめ、暗闇でも刀身が光るようになっています!」
「刀身が光るって魔よけとか?」
「特にないですな、光るだけです」
マルニタに真顔で言われた。
「…………他に何か無いの?」
光るだけならランタンを持つわよ。
ってか夜の戦いで刀身が光っていたらバレバレじゃないの。
「その切れ味とかは……? 岩ぐらい斬りたいんだけど」
「馬鹿いってはいけません。斬ったら刃こぼれしますし岩なんて斬ったら折れます。そうですねぇスライムぐらいは切れると思いますが。儀式用の剣に実用性を求めるのは間違いです。この宝石一つ一つが値打ち物で、この一番大きい宝石は……そうですな。東方の若返りの薬と同じぐらいの値段がしますな」
自信満々で答えれて、私がこまる。
いや、そんな切れない剣もらってもいらないし。
「他には剣は無いのかしら?」
「他ですか……? いい剣なんですけどねぇ。では、アーニャくずくずするな!」
今回は叩きはしないけど、そのかわりメイド服を着た褐色奴隷のアーニャを怒鳴りつける。
まぁなんだろう、裏の顔を知ったからあんまり威厳が見えない。
「かの有名な獅子王アーリーが使っていた短剣でございます。こちらは殿下にと思って持ってきたのですけど」
小ぶりの箱の中からは宝石が散りばめられた鞘にはいった短剣が出てきた。
「一応聞くけど切れ味は? その……魔力が乗ってドラゴンぐらいは斬れるかしら」
ドラゴンの皮膚は硬く、普通の剣では折れる。と、私は教わったし常識である。
「いいえ」
この女は何を言っているんだ? と、心の声が聞こえてきそうな顔をマルニタは私に向けてくる。
そっくりそのまま、その言葉を返してやりたい。
具体例を出してみるか……。
「迷宮都市からでた星斬りって剣知ってる? ああいうのが欲しいのよ」
「なっ! 帝国の皇帝から贈られる剣であるのにもかかわらず中古、しかも人殺しの剣を欲しいと!?」
「えっこれ私が悪いの!? って皇帝から貰うわけじゃないし……」
マルニタの驚きに私は思わず、アンナとサウザンを交互に見た。
小さい声で、だから斬れる剣にしろって言ったのに……と呟きが聞こえ、振り向くとアーニャが顔を背ける。
こっちの奴隷アーニャとは良いお酒が飲めそうだ。っじゃなくて。
「なるほど……どこかで手違いがあったようだね。弟は君に相応しい剣を。と、頼んだに違いない」
「私に相応しいって、このゴテゴテの剣でも磨いて家にでもこもってろ! って事? クッ――」
「クリスお嬢様っ! 言葉がっ」
「ごめんあそばせ」
乙女で令嬢である私が、ちょっと品のない言葉を出す所だった。
「で、でも祖父はそういう事ははっきり言えって……うう、ごめん」
「だから、手違いだろう。ミッケルから話を軽く聞いてはいるが君は冒険者なんだろう? 星斬りという剣がどれほどの物が自分は知らないが、それ相応の実践で使える物を、調査団は贈るつもりだったに違いない」
サウザンの言葉が終わると、マルニタが、
「それでは……」
と、震えた声で喋りだす。
「私が悪かったのでしょうか…………調査団から相手の性別を聞き、女性に贈る最高の剣をと頼まれていたのですが」
「んーどうかな女性冒険者も増えてきたといっても、帝都の部隊、それもラインハルトが率いる帝国調査隊が贈るのであれば、儀式用の剣と普通は思うだろう」
「そうでございますよね!」
マルニタが、少し安堵の声を出してきた。
はー……やっぱり美味しい話は早々無いわね。仕方が無い、ミラクルジャンの三人から安い武器屋を紹介してもらうか。
となれば、私は自然に組んでいた腕を振りほどく。
「では、辞退するわ。持ってきてもらっても家もないし、そんな高価な剣を宿に置いて置く事も出来ないでしょうに、貰って売るってのも流石に不味いわよね」
「今回の取引は失敗か……」
サウザンが失敗か……。と、言ったとたんにマルニタが大きな口をあけた。
忙しい人だ。
「そ、そこを何とか! 帝国との商談を失敗した商人として今後の事が!」
マルニタは突然土下座をして私やサウザンの靴を舐めるように頭をさげている。
メイド服を着ている褐色肌奴隷のアーニャもうんざりした顔を見せた後、マルニタの隣で土下座をしだした。
「いや、でもねぇ…………私が悪いの?」
「うーん…………わかった! 連絡ミスはこちらも同罪。その剣は自分が買い取ろう!」
サウザンが見事に男気をみせる。
「いいの?」
「ああ、心配しなくても大丈夫だ。それに他国の贈り物として使えるからね」
「じゃぁ、問題も解決したしジョンやミッケル達もいなければ、城にいる意味もなくなるし私達は帰るわね」
これで用は何も無くなった。
暇つぶしと、ケーキ貰ったし聖女様に会えたからよしとしようかしら。
「まったまった!」
サウザンが私を呼び止めた。
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