56 ダンディナ庭師と秘密の庭園inクリスさん
庭師のオジさんはちょっと下の様子を見てくる。と、言っていなくなる。
一人残された私は小さな庭を観察する事に、なった。
よく手入れされた庭だ。素人の私でもそれはわかる。
赤や白の花が適度な間隔をあけて咲いていた。
「なんとなく落ち着く」
「ほう、この花達は魔力をおびていてね。その影響だろう」
振り返るとオジさんが小さいテーブルを担いでいた。
「お嬢さん、下はまだ少し騒がしい。良かったら、ティータイムはどうだろう?」
「ありがとう。ええっと…………クリス。私の名はクリス、オジさんは?」
私が自己紹介をすると、オジさんは固まった。
すぐに笑顔を見せてくる、ん? 別に私は変な事は言ってないはずだ。
「ワシか、何……庭師に名前はないオジさんで結構だ」
「いや、庭師でも名前あるでしょうに……」
「追われているんだろ? なにお嬢さんの名前も忘れよう。ここは安全だ、そうだ部下の者に言ってお嬢さんの連れにも連絡を入れておこう」
「えっいいの!? ってかオジさんって部下持ち? 年季はいった庭師なのね」
「そうだな、では少し外すよ。持ってきたケーキは好きに食べなさい」
オジさんは再び消えていった。
よく見ると白い箱が置かれており、開くと高そうなケーキが置いてあった。
美味しそう……。
◇◇◇
オジさんが戻ってきた。
「おや、ケーキは嫌いだったかね? 厨房から貰ってきたのだが」
開けてない箱を見て驚いたのだろう。
「嫌いじゃないわよ。でも連れが待ってるのに私だけ食べてもなぁって、連れへのお土産にしようかと。まぁぶっちゃけると手土産あれば連れの怒りも下がるかなって」
「…………はっはっは、素直なお嬢さんだ。息子の嫁に欲しいぐらいだな」
「あら、私の旦那になるっていったら色々大変よ」
元貴族で王国から婚約破棄をうけて追放されて。
知らない間に帝国の王子と婚約と婚約破棄なっていて。
将来性のない無収入の冒険者をやっていて、現在は王国から婚約破棄を破棄したから戻って来い。とか訳わからない手紙を貰った所だ。
「案外似た者同士かもしれないよ、息子もあれでいて剣が好きだからなぁ……さて、下の騒ぎはもうそろそろ収まった。途中までになるが道案内しよう」
「おっと、悪いわね仕事中に」
私はケーキの入った白い箱をお土産に、庭師のオジさんの後をついて行く。
暫く歩くと何も無い壁の前に立たされた。
「ここは? 壁しか見えないんだけど」
「長年この仕事をしていると、ちょっとした抜け道を覚えてね。こっちから客室に抜ける事が出来るんだ。君の連れもいるだろう」
「本当っ!?」
オジさんは、ああ。というと微笑んでくれる。
こちらも自然に笑みになると、スイッチを押すから壁の前に立ちなさい。と言われた。
壁の前立つとカチっと近くから音がした。
床が半回転して周りの景色が変る。
「クリスお嬢様!?」
後ろを振り返るとアンナと聖女様が驚いた顔で私を見てきた。
「ただいま」
「…………いつから壁が出入り口になったんでしょう?」
「まぁそれは置いておいて……聖女様っ!」
聖女様はにっこりと微笑んで、
「お久しぶりです、クリスさん」
と眼に涙を溜めている。
「元気して…………よかった」
「死に損ねちゃいました」
そういう顔はちょっと笑顔である。
本当に良かった、助けてもまた自殺したい。っていう感じだったら手に負えない。
そこまで死にたいなら引導もって考えていたからだ。
「少なからず私のせいで命が亡くなった人がいます。その事をご相談した結果、生きるべきだと……膨大な魔力は失われましたが、私の中に二つの魔力があり現在は調べて貰っている所です。この間、切り落とされた腕を治療する事に成功したんだです!」
笑顔がまぶしい聖女様は自慢してくる。
うん、もう大丈夫そうね。あんなに暗そうな聖女様がこんなに……目頭が。
「クリスさん?」
「っと、ごめんヒナ鳥の親になった気分になったわ。よくわからないけどそれだけ凄い魔力あったら冒険者とかもいいんじゃないの?」
アンナが小さく咳払いをしてくる。
「それなのですが、力が大きすぎなので逆に直ぐには無理だろう。と言われた(文末意味がよくわかりません) 」
「あー確かに回復魔法だけ強くても役に立たない、いや立つんだけど騙されたり力に訴えられたら面倒よね」
そこで私はふと気づいた。
アンナはどうなんだろう……? よくもまぁ王国から帝国までメイド服一つで旅をしたものだ。
「クリスお嬢様?」
「いや、ごめん。アンナの事考えていた」
「それでしたら、わたくしアンナは、メイド服を着る事によりクリスお嬢様に守られていましたから。
それでもしつこい人たちには、熱意をもって対応させてもらいました」
「そ、そう……」
一応アンナも私と一緒に訓練受けたからなぁ。
とはいえ、絶対に一緒には戦わなかったし強さは不明だ。
さし当たってムチさばきが上手い事から実力はあるのかな?。
「まぁ、まぁいいわ。ところで調査隊は? まだ来ないわけ?
王国で気の短い貴族だったら、処刑だ! って騒いでるぐらい遅くない?」
半分冗談だ。
処刑だ! っていう貴族はいるが、何も本当にするわけじゃない。
昔だったら殺されても文句は言えないよね。っていう冗談。
たまに真に受けた新人兵士などが顔を青くする。
「クリスお嬢様、そのような冗談は……いえ、クリスお嬢様が言う冗談は素晴らしいです」「ごめん。そう妄信的にいわれると逆に引く、下らない冗談だったわね。で、本当に調査団はどうしたのよ? こっちは呼ばれたから来たのに」
私は手土産に貰ったケーキを三人分に分けながらアンナを見る。
「それでしたら、調査隊の皆様は仕事という事で城をでたそうです」
「呼びつけておいて許せん!」
「時間の指定も無かったですので…………後で代わりの者がくると」
アンナが説明し終わると、部屋がノックされた。
こちらの返事も待たずに扉が開かれると、豪華な衣服を着た男性と恐持ての兵士が入ってくる。
「またせたね、自分の名はサウザン・フランベル。弟の部隊が世話になったと…………」
「…………どうも」
金髪細目の男と私は何を話していいのか言葉に詰まった。
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