54 城に誘われ迷って覗き
そうと決まったら安宿を出るよういをする。
って言っても、私もアンナも特に荷物はない、なんだったら剣もない。
これは一応理由があって、アルベルトの持っていた名剣を折っちゃったし、彼に預けていた剣を返せってのもねぇ。
あんな王国の安物の剣なんて売っても二束三文だろうし、アルベルトは返そうとしてくれたけど、私も受け取るわけには行かなかった。
弁償をこめてお金渡そうとしたけど、自慢じゃないがB級冒険者がF級冒険者、しかも女性に責任を押し付けるわけにいかないよ。って白い歯を見せて言われた。
結局、数時間の口論ののち、剣だけでも持って行って貰っのだ。
階段を下りて女将さんを見つける。
「女将さーん、ちょっと出かけてくるー」
「はーい、お土産宜しくね」
この会話も慣れたものだ。
先日は特売の肉を持っていったら大変喜ばれた。
「で。宿から出たのはいいけど、城のどこに行けばいいのよ」
「わたくしアンナにお任せを、一応今後のために聞いておりますので」
今後ってなんだ、今後って。
黙ってアンナの後をついていく。
周りから見ると、メイド姿のアンナについていく不振な女に見えなくても無い。
実際不振なんだけども…………アンナが突然に振り返ってきた。
「クリスお嬢様? どうなされましたか?」
「いや、別に。アンナは綺麗よねって思って」
「クリスお嬢様のほうが綺麗です、この球のような肌、光輝く金髪、柔らかい太ももに、その先にあるチャーミングなホクロ――」
「まったまったまったまった! 人が多い場所で変な事言わない! ってかなんでそんな場所を!?」
「それはもうたっぷりと。では……人気の無い所へ!」
アンナの顔面に軽くチョップすると、アンナの興奮が落ちついたらしい。
「すみばせん、すこし興奮してしまって」
「アンナこそいい人見つけなよ……」
「クリスお嬢様……世の中には性別が変えれる禁術というのがあるらしいのですが、こんど調べて――――」
「さ、アンナっ城に行きましょう! ほら案内して」
これ以上の会話は不味そうだ。
アンナなら本当に覚えそうだし、私が性別変っても、アンナが変っても嫌よ。
わかりました。とアンナも先に進みだす。
城に近くなるにつれて、町並みも変っていく。
お店で言えば高級店が増え、道もしっかりと舗装されていく、お金持ちそうな服を着た人もちらほらと……。
「とまぁ、城が見えてきたわけだ」
大きな橋があり、その向こうに城壁が見えている。
攻めこられる事も考えての作りだろう。
………………でも、こういう城って魔法打ち込まれたら終わりよね、もしくはこないだ戦った黒大蛇クラスの魔物来たらどうやって撃退するんだろう?
「クリスお嬢様?」
「ああ、ごめん考え事。で、そこの門兵に聞けばいいわよね」
城門前に立つ不動の兵士に声をかけた。
ものすっごく不審な顔で私達を見てくる。
「城の帝国調査隊に用があるんだけどー」
「…………証明書を」
私は手紙と他に冒険者カードを見せた。
兵士は私達のカードを見る。
「メイド服の従者にF級の二名か……調査隊の報告と同じとは……調査団の話す事だから嘘かと思ったら本当に来るとはな」
「あら、嘘と思ったの?」
「連絡は受けてる、第一の客間まで先導しよう」
「ありがとう」
お礼を言うと私達を城の中にまで連れて行ってくれた。
に、しても城って無駄に大きいわよね。
いっその事、三部屋ぐらいにならないかしら? 謁見の間、その後ろに居住スペース、最後に寝室。
これぐらいだったら警備する兵士だって五人ぐらいですむし、何かあったら逃げるのも楽そうだ。
「クリスお嬢様? あの、案内の人も帰りましたけど……」
「うおっと、失礼しましたわ」
「…………また考え事ですか。せめて考えている時は立ち止まる事をお勧めします」
「善処します。はい」
アンナの言うとおり周りを見ると部屋の中にいた。
何十人もはいれる部屋に大きなテーブルが三つ。腰掛けるソファーや暖炉まで完備されている。
「応接間って所かしら?」
「そのようです、飲み物や食べ物はご自由にどうぞ。と、との事で、先ほどの人は調査団の人を呼びにいかれました」
「なるほど」
私はワインのビンを掴むと手早くコルクを抜く。
グラス二つに注ぎ片方をアンナに向かって差し出す。
アンナはため息をつくと、私の差し出したワインをクイっと一口のむ、メイドにワイン。中々絵になるわね。
◇◇◇
イライライラ。
というか、やばい。
「遅い!」
「とはいっても、待ちましょう。さほど時間もたってませんけど……もじもじしている姿は、クリスお嬢様まさか」
「ええ、そのまさかよ!」
私の視線は開いたワインのビンの山を見る。
五本だ。
五本空けてもまだジョンとミッケル達は迎えに来ないのだ! その結果どうなるかと言えば……お腹の下辺りがそのねぇ、化粧直しに行きたいのだ。
「ここにグラスと空き瓶がありますのでどうぞ」
「どうぞって! あのねぇ」
「…………冗談です。わたくしアンナが部屋にいますので……クリスお嬢様はどうぞ化粧直しへ」
「うう、仕方が無い……ちょっと行ってくるわね」
本気っぽかったアンナを置いて部屋から出る、周りを見回すと少し遠くに兵士が直立不動で立っている。
警備とはいえ、ああいう人って何考えて立っているのかしら…………じゃなくて私は急いでメイドを探す。
もちろんアンナの事ではない。
流石に女性用のトイレを男性に聞くのは不味いだろう。
いや、これが冒険中なら別にいいわよ? でも一応は城だし、最低限の事は守ったほうがお互いにいいだろうし、よしあのメイドさんにしよう!
私が一目散にメイドに近づくと、メイドさんの顔は蒼白になっていった。ふえ?
小声で事情を説明すると、連れて行ってくれた。
「ふー…………」
全てが終わって一人になる。
ってかここは何所よ。
急いでついて行ったので現在の場所はわからない。さっきのメイドさんも既に帰したし……新しく人を探さないといけないわね。
ん? 私は思わず首をかしげる。
周りに人がいない廊下、さらに先に一人の男性が鍵穴を覗いている姿が見えるからだ。
好奇心が育つ。
「ちょっとぐらい帰るのが遅くなってもいいわよね? ………………うん、反対意見は無し、何見えるのかしら……聞いてみますかっ」
私はその怪しい男にそっと近づいた。
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