53 F級冒険者の一日!
雪月花の洞窟事件からはや十日以上。
やっと落ち付いて来たらしいのでそろそろ重たい腰を上げるべきか。
安宿のベッドで天井を見ながら最近の事を思い出す。
と言うものもグラッツの首都に戻って来て、どこぞの帝国調査団と別れた。
ミッケルやアンナが、ジョンに対して連絡先交換しましょう。とか言っていたけど、ジョンは特に交換せずに終わったのを覚えてる。
ヘタレ目。
私はそういう相手には別に手を出さない。いやだって、私が連絡先交換しましょ? って言ったら私が惚れてるみたいじゃないの。
ジョンも私に惚れたのなら一歩踏み込んできなさいよ! ……いやそれもそれで困るというか……。
あー考えがまとまらない! とりあえず置いておこう。
ええっとそれで聖女様は、私が聖女様って言ってるだけで認知はされてないので、帝国で預かる事になるらしい。
そのせいで、理由をしらないミラクルジョンの三人が、なぜか帝国と王国で使者が行ったり来たりしていると、教えてくれた。
「クリスお嬢様、ただいま戻りました」
「おっかえりー」
そういうのはギルドに行っていたメイド服のアンナである。
私と再会してから、いや再会する前からメイド服以外見た事ない。
「込んでた?」
「ええ、雪月花のダンジョンは暫くは進入禁止。雪月花の花は上限知らずで高くなってきてます。しかし、ギルド員ミィさんの話では数ヶ月から数年もすれば雪月花のダンジョンは再生すると上が言っているみたいですね」
「へえ」
「核となるボスが倒されて無いとかなんとか。ですが、いまはまだ通常の依頼も受けるのは難しそうです」
「仕方がないか……こっちはまだ蓄えはあるけど」
アンナは気づいたように話しかけてくる。
「ギルドマスターのケラ様が困窮している冒険者達に貸付もおこなっていると聞いていますので、大丈夫でしょう」
「やさしいー」
私はまたベッドの上に転がる。
だってする事が無いんだもん。
「これじゃ貴族やってる時も変わらない生活ねぇ」
「クリスお嬢様は貴族の中でも、いいえ……コーネリア家が特殊なだけかとお思います」
アンナの貴族講座が始まった。
朝起きてまずは昨夜起こった事の確認、朝食、他の貴族との情報交換、昼食、市場の相場確認、晩餐会、他の貴族との交流。
「めんっど、情報収集ばっかりじゃないの」
「普通の貴族はそうかと思いますけど……そして、それは冒険者もそうですね」
「…………おっかしいな、私は冒険者になって自堕落に暮らすはずが」
「ふふクリスお嬢様はじっとしてられない性格ですらね」
どういう意味だ。
トントントンと、部屋がノックされた。
来客の予定はない。
一応警戒しつつ返事をすると聞いた事のある声が聞こえてきた。
「僕だB級冒険者のアルベルトだ」
「あら、どうぞ」
私の声でアンナが扉を開けた。
アルベルトだけが立っていて、まず最初に部屋の中をぐるっと見回してきた。
「ちょっと、乙女の部屋物色しないでくれる?」
「そんなつもりはない、なんにせよ君たちの協力があってB級になれたからね、何か足りない物でもあれば送ろうかと思って部屋を見た所だよ」
「別にいいわよ、ちゃんと雪月花の花採って帰ったとかちゃっかりしてるわよね」
「いやー……」
アンナは客用のイスを出してアルベルトはちゃっかりすわる。
ってか、寝室もかねてる女性の部屋に普通に座るアルベルトも中々だ。
「で、用件はそれだけ?」
「いや、お礼と仕事の用事。紅の白狼の皆とも和解できてね、おかけで今朝から腰が少し痛い」
「それを言われた私はどういう顔をしていいのか……低俗すぎて、殴っていい?」
「殴られる前に帰るとするか、本題はこれ。ギルドからと城からと二通の手紙を預かってる。受け取った証明書を欲しい、これも仕事だからね」
アルベルトが二つの筒を私に向けてきた。どちらも一般の手紙より高級な筒に入っている。手紙かぁ……確かギルドにも荷物の運搬ってあったわね。
「手紙もランクが高いほど重要な手紙を運搬すると聞いています」
「受け取り拒否は?」
「してもいいけど、B級冒険者である僕の名の元に届け人は受け取り拒否しました。って伝えるだけだけど」
「クリスお嬢様……」
はいはい。受け取りますよー!
豪華な筒と一緒にアルベルトが持ってきた紙に名前を書いて母印を押す。
一応はこれで受け取った事になるのだ。
アルベルトは言うだけ言うとすぐに帰って行った。
残された手紙を開ける事にした、特殊な蝋が塗っており他人が開けたらわかるようになっている、もちろん未開封だ。
ポンっと筒のふたを取り中味を取り出す。
「ええっと、なになに。帝国城で黒獅子率いる帝国調査団を助けた物として褒美を授与する。帝国城にきたれし」
アンナがパチパチパチパチと拍手してくる。
「素晴らしいです、クリスお嬢様! 帝国の愚民共がやっとクリスお嬢様を認めるだなんて、遅すぎるぐらいです」
「いやいやいやいや、愚民って」
「誇張した結果です」
さて、もう一つはギルドからだったわね。
なんだろ、昇進とかかしら。
私は筒をポンッと、音を立ててあけ中の手紙を読む。
「ええっと、こっちは……ギルドというか王国の手紙ね。アーカル・グラッツが貴殿の追放を取りやめ婚約をする事に決定した、戻られし。王フルーレ・グラッツ、及びグラッツ王国政務官」
…………。
いやいやいやいやいや。
口に出して読んでみたけど、なんじゃこりゃー!
「いやいやいや、いやよ。そもそもその王子に振られて追放されたんだって、いくら王様の命令でも、いや王様の命令は絶対よ。それはわかるんだけど……」
「クリスお嬢様落ち着いてください」
「はいっ!」
元気よく返事をするとアンナが、いいですか? と、私に向き直る。
「わたくしアンナも、クリスお嬢様も王国を出た身。しかもクリスお嬢様にいたっては追放されていますので命令を聞く必要も無いと思われます」
「そ、そうよね。ええっとうん、そうしましょう」
手紙を筒に戻して荷物の端に置く。
「とりあえず、どうしよう?」
「…………ミッケル様に相談しましょう」
「えー…………」
嫌がる私の手をアンナは手を握り立ち上がった。
お読みくださりありがとうございます!




