52 第一部 プロボーズとその答え
本当にプロポーズなんだろうか? ジョンは聞いた事を否定してこない。
黙っているとジョンが話し出した。
「…………この状態で言うのも卑怯と思っているが、クリスお前は……師ザック・コーネリアの想像通りだった」
おお、ジョンにしては珍しく長文だ。
前にも同じ事突っ込んだら怒られたのでだまっおく。にしても……。
「そりゃどうも……なんで祖父の名が」
「クリス・コーネリア。俺では不服だろうか?」
不服もなにも、これってやっぱりプロポーズよね。
いや、私だってモテたわよ? 腐っても貴族だったし女性だし、顔はまぁアンナには負けるけどいいほうと思う。
でも、私の性格や剣術、すぐその…………腕力に人よりちょっと強いだけで恋人候補が出ない。
そんな性格でもいいよ。って言ってくれた人いたけど、その人も結局は、剣をやめよ。とか、女の癖に剣を握ってって後から言い出して来たので試合でぶちのめした。
そんな話を知ってるのか知らないのか、コイツは…………ジョンは私に死ぬ間際にプロポーズをしてきたのだ。
頭がそのなんていうか、おかしい。
「…………返事はいい」
「は? 返事はいいって何よそれ。そういうのを臆病者っていうのよ!」
別に返事したくないわけじゃない! 一方的に告白してきて返事はいらないってだったら黙っとけ! と思う。
「う…………そう。そうだな。俺は……名すら」
「いや、そのガチでへこまなくても、私もそういう時あるし」
気づけばジョンを慰めていた。
……ジョンは怯える子犬のような目で返事をまってるし。
まぁなんていえば言いか。
別に嫌いではないし、だからといって、うーん。
「そのまぁ出会いは切りつけられたけど剣筋もいいし、友人からなら、その考えてもいいかな~なんて、そのねぇ」
「わかった、その気持ちで感謝する」
納得したのかしら。
ジョンは満足げだ、私としては死ぬ前にもやもやが残っただけであるが……まぁそれもしょうがないとして納得しよう。
最後の最後まで生き残る努力はするけどね。
「あの岩の下にはいればちょっとは可能性ない?」
「どうでしょうね。所でお二人とも申し訳ない、時間切れですね。ジョンに対しては及第点って所でしょうか。お二人とも上を」
ミッケルが言うと大きな天井が落ちてきた。
――。
――――。
あ、終わった……人生ってあっけない。
後数十秒で私達は死ぬ。
そう思ったときにミッケルののほほんとした口調が聞こえてきた。
「さて、では死にたくないので脱出しましょうか」
「はい?」「なんだ……と?」
私と不機嫌なジョンの声が被ると地面の魔方陣が虹色に輝く。次の瞬間私は草原にいた。
黄昏時というのか、日が沈みかけ空はオレンジ色になっている。
「ここは……?」
「おそらくクリスさんが最初に帝国に来た場所でしょうね」
「「………………」」
「さて、半日もすればつくでしょう、よっこらせっと」
ミッケルは聖女様を担ぐと、歩き出そうとしている。
「「ちょっと」」まて!」
「おや、なんでしょう?」
「どういうことかしら?」
私が代表してミッケルに詰め寄る。
「おやおや、お二人とも怖い顔で。いいですか? あそこに合ったのは古い転移の魔方陣でしたよ。もっとも魔力も無く壊れてましたけど。
そこに魔石の魔力を分散させ無理やり起動させました。
無理やりなので外に出るぐらいしかできませんでしたけどね。
この辺はダンジョンに設置しているクリスタルの応用といいますが、こっちが最初なんですけど、難しい話はお二人には理解出来ないとして、置いておきます。
そもそも私は結界がやぶれないって言いましたけど、帰れないって一言も言ってませんけど……」
私が結界に鼻をぶつけて、ジョンが破れないかを聞いた。
ミッケルは確かに破れませんとしか言ってない。
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ。
「とまぁ、そういうわけでして」
「…………殺す」
ん? ジョンが剣を抜くとミッケルに本気で切りかかっていた。
私はすぐに折れた剣で間に入った。
「いやはや、助かりました」
「どけ! 斬る!」
「まぁまぁまぁまぁ、ジョンもとりあえず告白したわけですし」
「あ、そういえばそうなるわね」
ジョンと私の眼が会うと、ちょっと恥ずかしい。
そうかそうよね、コイツに告白されて、私もその友人からって言ったんだっけ。
冷静に考えれば私も恥ずかしい思いをしたかもしれない。
背後でミッケルが喋ると、ジョンの力が無くなっていった。
地面に座り込み下を向く。
ジョンは剣を逆手にもつと、まっすぐに自身のお腹を……ちょっとまて! 自戒するつもりだコイツ!
私はジョンの背後に回ってその腕を掴む、必死で剣を奪ってはじきとばした。
「死なせてくれ……」
「でっきるわけないでしょ! 助かったんだし、その…………恥ずかしかったのは私も一緒なんだしー!」
景気つけるためにジョンの背中をバンバンと叩くも反撃も無く死にそうな顔である。
案外、精神が弱いのね。
「あ、迎えの馬車も見えてきました。クリスさん先に行ってますね。聖女様を寝かさないとなので」
「了解」
ミッケルはひょこひょこと馬車に向かって歩き出す。
なんていうか用意周到だこと。
私はジョンの腕を引っ張ってみるも、根が張り付いたように動かない。
担ぐ?
いやそれぐらいは出来るけどさー、私も無駄な力は使いたくないぐらいに疲れている。
コイツ……ジョンは私の事好きなのよね。たぶん。
ふむ。
私は落ち込むジョンの横にしゃがむ。
ジョンは相変わらず死んだ眼をしていて、その頬はすきだらけである。
そのほほに軽く唇をつけてあげた。
うう、土臭い。
「なっ! 馬鹿がお前!」
至近距離のジョンがこっちに向いた。
さっきより元気そうである。
「お、元気になった。疲れているんだしさっさと馬車にいくわよ。ほらアンナも手振ってるし」
「いや、しかし、そのな。お前の答えは友人だ、その友人同士だな……」
「あら、知らないの? 友人同士でもするときはするのよ?」
返答が面倒なので私も適当である。
そりゃね、恋愛感情なしでもする人はするだろうし、そういう商売もあるって話には聞いた事あるし、案外頭固いわね。
とりあえず、迷宮がつぶれたとか、聖女様を保護したとか、魔石を破壊したとか、色々問題はありそうだけど、そういうのは全部上に任せましょうか。
私は自由な冒険者なんだしー、ほんっと追放されて良かったわ。
ほら、アンナがニヤニヤした顔で走って…………う、見られたか…………。
fin 第一部完
第一部完ですー!
二部は現在真っ白なのもあり、作中の日数もリアルの日数も数日は開くと思います




