48 二度会うことは三度会う
突っ込みに疲れたのか、聖女様は壁によりかかり静かに深呼吸をし始める。
だいぶ落ちついたらしいのが見てとれた。
「魔石すみません……」
「いや、いいんだけど。魔石持ってると落ち着くの?」
「はい……新しい魔力の吸収ができるので」
「魔力って吸収できるの!? それに、私があったときはもっとキャピキャピ系だったのに大人しいわね」
はっ! 心の声が漏れた。
「えっとですね、吸収の仕方はその自然に覚えたというか、無意識に近く。あとこっちが素と…………ごほ。あのこれを見てください」
聖女様が上半身の衣服を脱ごうとしてる。
いつの間にか近くに寄ってきたクラインが、聖女様の服を脱がそうとするので、縛り上げて目隠しさせておいた。
「ボ、ボス! これじゃ何もみえねえ。後生だ! おっぱっげっほ」
聖女様の大きな胸が二つ揺れている。
「えっと、私は大きいから見てくれって?」
とんだ痴女である。
「あの、ちがうんです。この下の部分を」
聖女様が片方を持ち上げると青白い石が体からむき出しになっている。
「何これ?」
「わかりません、魔石と思います。気づけば自分の心が自分じゃなくなくなるんです。
すべてを壊せと願い始め、知らぬ間に人さえも……。
王子が私の手のひらで命令をだす、面白いと思いませんか?」
「面白いっていわれても」
聖女様が突然青ざめる。
「ち、ちがうんです。こういう風にセーラ自身が思ってもない事を……それが怖くなった私は……」
「触ってもいい?」
「どうぞ」
私は聖女様の体を触る。
聖女様が怪しげな声をだすが無視。柔らかい肌から突然硬い石になっておりつなぎ目もわからない。
苦しいのか聖女様は私の首に手をまわして体を固定ッ――――!
うぐ!
やられた! 首を突然絞められた。
「に、逃げて……そして死んで♪」
言葉と台詞があってないっていうのっ!
聖女様の力が一向に緩む事なく首が折れそうで痛い。
無理やり立ち上がると、私は聖女様の背中を岩肌にぶつけた、手の力が緩んだ所で振りほどきゴロゴロと回る。
「げっほ、げほげほ。何するっのっよ!」
人を不快にさせるような笑みを浮かべた聖女様は、背中から青い血をだして私を見ている。思わず腰にある剣に手をかける。
「ヒッヒッヒッヒ残念♪」
「…………こわっ」
「ころ……して……」
聖女様の目に光がもどると、私を見つめてくる。
いや、うーん…………別に殺してと言われても、と言った所だ。
命の重い軽いじゃなくて。
私がためらっていると、聖女様は芋虫のように魔方陣の真ん中へと進みだした。
「ボスー! ボスー何が起こってるボスー!! もしかして秘密の花園してるのかー! ボスー俺も混ぜてくゲッホ!」
背後のクラインは煩いので蹴り飛ばした。
正直たぶん邪魔になるから。
聖女様の背中からあふれた青い血がゆらゆらと空気を振るわせる、半透明に太くなり巨大なヘビとなっていく。
その大きさは増してきて、三階建てのギルドよりも大きく、ちょっとした砦ぐらい大きさで止まった。
半透明な分部が黒い皮膚になり胴体の真ん中に聖女様の半身が埋まった黒大蛇へと変化した。
不謹慎かもしれないけど、聖女様の部分の一部がちょうどぷるんぷるんと動いてイラっとした。
ええ、どうせ私はあんなに動きませんよ! って。
「って、そんな事よりも、ってかアレは何よ……」
「アレはですね、クロイスの石の元となった魔神でしょうかね。黒ヘビというか大蛇だったんでしょうね」
「あれを倒せってこと?」
「そうですね。暴れまわるとダンジョンが崩落するでしょう、現在このダンジョンにはわかっているだけで六十人前後って所でしょうかね」
………………。
……………………なんでミッケルと会話してるのかしら?。
「いつからいるのよっ! 何でいるのよっ!」
「先ほどですよ、そりゃ回収予定の魔石の反応があれば来ますけど。あっクレアさんっ攻撃がきます!」
「ちっ!」
私が前を向くと黒大蛇の尻尾が雪月花の花をなぎ倒しながら攻撃が飛んできた。
とっさに剣で防ぐと、固い皮膚が滑っていく。
私はその黒大蛇の尻尾を蹴り弾き飛ばした。
「ミッケルがいるって事は、ジョンはどこよっ!」
「…………大声をだすな」
私の真上からジョンの声が聞こえた。
壁を蹴って黒大蛇へと突進していった。
「よし、馬鹿が突っ込んだわね、説明おじさん説明して!」
「わかりました説明お兄さんミッケルが説明しましょう。というかですね、魔石鏡面れーだー見てください」
ミッケルが真顔で説明するので、ポーチから魔石鏡面をだす。
私が青色で、重なるように大きな赤色の光が点滅しまくっていた。
「どういうことよ?」
「ケラ様に簡易版ですがもう一枚作ってもらってですね、この通り」
ミッケルは私に大きな点が光っているのを見せてくる。
「で、擬態でしたっけ? これはもう可能性としては魔石を使うのではなく、魔石に乗っ取られたって所でしょうね。先ほど体のあちこちを怪我した男性を保護して聞いた所、聖女様とかなんとか、その辺は詳しくは知りませんけど……」
はっ! 蹴飛ばしたクラインが見当たらない。
黒大蛇の尻尾へジョンが連続で攻撃をしている音が聞こえてきた。
まるで金属と金属を叩いてる音だ。
あっ吹っ飛ばされた。
ジョンは反動をつけて私達の所に戻ってくる。
「一応聞いておく、殺して良いんだな?」
「え? いや、えーっと…………ダーメー♪」
「……ヤギの真似か?」
「っ! 違うわよっ! 語尾に色気つけてダメって言ったのに、おのれヤギの真似とか蹴り飛ばすわよ!」
「冗談を聞いている場合じゃないんでな。クリス! 左側を頼む。ミッケルあの黒大蛇から女を助ける方法を探せ。いくぞ!」
「あっちょっと!」
言うだけ言うとジョンはまた跳躍をつけて突進していく。
私はミッケルへと振り返ると、ミッケルは困りましたねー。と、ののほんと呟く。
「助けられるの?」
「時間を稼いでくれれば……それとあの女性がもっている魔石は誰のものですか?」
半裸の聖女様の胸の所に新しく増えた魔石を見た。
ファーフナーの魔石。その事をミッケルに伝える。
「なるほど…………古代竜の魔石ですね。あの下は壊れた魔方陣……わかりました、一か八かやってみましょう。時間稼ぎお願いします」
「…………まかされた!」




