45 クリスと女性の予期せぬ再会
景色が戻ると、あたり一面が光っている。
ダンジョン特有の光で松明も無いのに天井から優しい光が照らされていた、背後を振り返るとクリスタルが三つ並んでいる。
「ああ、それ? 帰りもこのカードで帰れるんだけど、壊れたりしたらこまるからね予備と別の部屋にも数個置いてある」
「便利ね」
「冒険者ギルドだって冒険者を見殺しはないだろうからね、出来るだけサポートはするんじゃないかな。さて、B級昇格の試練の一つはパーティーを組み指定された物を持ってくる事、今回は雪月花の花」
「へえ。じゃっ案内よろしく!」
「任された。の前に敵だ」
アルベルトの言葉通りに前を向くと、巨大なスライムがふにふにと動いている。
「アンナ行ってみる? サポートはするわよ」
「わかりました。可愛いですが、ここはお任せを」
アンナが一歩前にでる。
冒険者となったアンナの右手にはチェーンウィップ、平たく言えばムチだ。
ムチの部分が特殊な素材で出来ているらしく、アンナがムチを振るたびにスライムを切り裂いていく。
「メイドにムチ、素晴らしい。っと、関心してる暇じゃないか。アンナさん中からでるコアを破壊するように」
「承知しました」
私が手伝うまもなくスライムは倒されていく。
コアを破壊されたスライムは水のように溶けては地面にしみこんで行った。
「あっけない……ってかアンナ強すぎ」
「ありがとうございます、クリスお嬢様」
「とはいえ魔物だ。油断は出来ないよ、怪我をしたら僕に言ってくれ簡単な回復魔法なら出来る」
「ほんっと、そつなくこなすわね。で、クラインはどこかしら」
「雪月花目的だった彼かー、実は雪月花はそこらに生えているんだけどね。ほらそこ」
アルベルトが指差すほうを見ると、手のひらより小さい白い花が咲いている。
抜いてみて、と言われたので一本引き抜くとひんやりと冷たい感触が手の平全体に広がる。
「中には氷属性の魔力があるらしくてね引き抜く時に気持ちいいだろ? ただ贈呈用となるともっと地下に行かないと駄目だろう、現在が地下六階。ギルドからの依頼も考えると、目指すは地下二十七階だ」
「遠いわね」
「そりゃ近かったら試験にならない」
正論が腹立つ。
ハイハイ、まったくその通りですよー! アンナは私を見て微笑むし。
「クリスお嬢様がすねてます、可愛いです」
「すねてまーせーんー!」
地下八階あたりから敵の種類が変わってきた。
ゴブリンウイザードやハイゴブリン。オークを倒していく。
アルベルトが特攻して、アンナがサポートに周り、私が止めを刺す。なんとまぁ戦いがいの無い。
「しかし、噂どおりの人だね」
「噂とは?」
「悪鬼のような女性新人冒険者が現れたってね、的確に首をはねて行く姿は戦女神そのものだ」
「前半はともかく後半は褒めるのが上手いわね……」
戦女神と悪い気はしない。
でも、上には上がいるからなぁ。ドラゴンであるサーディスさんには良いようにもてあそばれたし。
「所で、ここはダンジョンの景色変わらないのね」
「記録では地下四十層まではこんな感じだよ。その先はまだ階段も見つからなければダンジョンボスも見つかってない。そんなポンポン景色変わるようなダンジョンのほうが規格外だ。迷宮都市ならそれが普通かもしれないけど、今度一緒に行こう」
「…………ナンパ?」
「親睦を深めたいだけだよ?」
いやすごいわね。前のパーティーの女性たちがアルベルトを刺さなかった理由がちょっとわかるかもしれない。
こうさわやか系というか……さすがC級というべきなのかしら。
「さて、階段だ。ここからはサイクロプスがメインかな、前衛と先方は僕に任せて君達二人は後ろに下がって、あいつ等は力だけならB級パーティーでもつらい」
「サイクロプスって弱かった奴よね?」
「ん?」
「え?」
アルベルトが立ち止まり、私も止まる。
「サイクロプスと戦った事がある?」
「たぶん、身長は私の倍ぐらいで一つ目の魔物なら」
「たぶん勘違いだよ、サイクロプスは討伐するにはBクラスパーティーが推奨されている、命が惜しかったら僕のいう事を聞いてくれ」
アルベルトは真面目な顔で私に命令すると、背後にいたアンナが反発してきた。
「クリスお嬢様に命令など百年早いです」
「百年でも二百年でも、したがって欲しい」
「アンナも怒らない、パーティーに関してはアルベルトが上よ」
別に不機嫌にはならないし、アルベルトの言ってる事は本当だし。
ちょっと崖があったら落としてみようとか一切考えてない。
階段を下りると大きな空洞があり、サイクロプスがウロウロウロと歩いている、その数……四体!
って、やっぱり過去に私を吹き飛ばした奴とそっくりだ。なんだったらちょっと小さい。
「岩陰に隠れながら行けば問題ないよ。もし見つかったら僕が時間を稼ぐから上の階へ」
「了解」
私は壁に手をつけてアルベルトの後をついていく。
カチ…………。
ん? 触っていた壁が引っ込んだ。
アルベルトが振り返る。
「言い忘れていたけど、壁に手はつかない方がいい。
ランダムに罠があってねこのフロアは落とし穴が…………」
「さっさと言えええええええ!」
私を中心に足元が無くなった。
私の視界が一気にさがりはじめた、周りのサイクロプスと私の視線が合う。
「アルベルト! アンナをお願いっ!」
「任されたっ!」
落ちていく視界の中、アルベルトが私の名前を叫ぶアンナを抱きかかえジャンプしているのが見えた。良かった……二人に怪我はないみたいね。
で、どこまで落ちるのよこれ……。
天井の光が見えなくなっても落ち続けている。下手したら死ぬわね…………そう考えていると、足に衝撃が加わった。
クッションのような感覚を受け、そのまま膝を折り曲げてゴロゴロと体を回転させる。
少しでも体に負担が掛からないように受身を取った。
全身に草花が絡みつく、何度か回転させた所で私は大の字になって天井を見上げた。
「ふう、生きてる……」
頭を動かすと上の階と違って今度は床がほんのりと明るい、落ちた穴や天井が見えない場所へとついた。
顔を横にすると一面に膝の高さまである雪月花の花が生えていた。
「なるほど、これで助かったみたいね……合流は無理そうか。天井から上は見えないしと…………さてどうしたものか」
私が一歩歩き出そうとすると、男性の声が聞こえた。
「誰だ!」
「…………誰だ。といわれても。ええっと冒険者のクリス。そっちは? 顔も見えないんだけど」
近寄ると二人の人影が見えた。
一人は顔をうつむいている小柄な女性に、もう一人は肩などに模様をいれたチンピラの中のチンピラな男性。
「ボス!! 本物、いや偽者か!」
「本物も何も……ってクラインじゃないの!?」
「やっぱりボスだ……俺の人生はボスによって助けられる」
「いや、ボスって、クラインみたいなチンピラの子分なんていらないし隣の女性も大丈――――えええええええ! 貴方って聖女の人よね!?」
蒼白な顔で私を見つめるのは、私を追放した時にいた聖女様だった。




