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豪傑令嬢は追放されても落ちぶれない~聖女の立ち位置と王子は譲るんで自由をください~  作者: えん@雑記
一部

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44 クリスの二度目の依頼と未知のダンジョン

 引き続きハンナお婆ちゃんの家である。

 ファーフナーの魔石と聞いてアルベルトが床から立ち上がる。



「馬鹿なっ! ファーフナーの魔石って」

「知ってるの?」

「知らないほうがおかしい」



 知らなくてすいませんでしたねわねー! と言うとアルベルトはばつの悪そうな顔をして椅子に座った。



「いや、新米冒険者は当たり前か。ファーフナーは砂漠を越えた先にある廃都ファーフナーにいた魔物だ」

「いた?」

「そう、今から八十年前にファーフナーは突然姿を消している。その後も調査隊は入ったけどファーフナーはおらず、現在では国を持たない人間が住み始めてるはずだ。

 ただ危険性があるので周りの諸国も手は出せない。と聞いている」



 ハンナお婆ちゃんはにっこりと微笑むだけ。



「こう見えても城勤め前には冒険者をしていてね、その時に手に入れた奴なのよ」

「いや、しかし……討伐したのであればA級冒険者以上の…………」



 アルベルトがブツブツ言ってるのを無視して話を進める。



「会えない場合は? 大事そうな物だし……」

「その時はクリスちゃんにあげる」



 にっこりと私に微笑んでくれる。



「凄いじゃないかっ! ギルドに持っていけば金貨数百はいける…………本物であれば。いっつっ!」



 机の下でアルベルトのスネをもう一度蹴った。

 立ち上がったのにまた床でゴロゴロと転がりだす。一言多いのよ。



「仮でもそんな高価な物を貰うわけには」



 ハンナさんの手が私の手を包み込む。



「お先短いお婆ちゃんの願いと思って。ね」



 この流れは受けないと不味いわよね……私の初めての依頼者だし本当に優しい人だからなぁ。



「アンナ」

「はい、大丈夫です。ぜひ受けましょう」



 アンナも大きく頷く。



「わかりました、ハンナお婆ちゃん。その依頼受けますね」

「ありがとう、クリスちゃん。じゃぁ袋に戻すわね」



 早速ギルドにいきますね。とハンナお婆ちゃんの家を出た。

 ご機嫌なアルベルトが話しかけてくる。



「いやー良かった良かった。これで僕とパーティーを組める」

「組まないわよ」



 普通に意地悪をしてみただけだ。

 だって話を聞いたけど、一人でも入れるダンジョンってのがわかったからだ。

 アルベルトが気にしているのは試験のためにパーティーで入りたいだけ、一緒じゃなくてもいい。



「なっ……おかしいじゃないか、雪月花のダンジョンへ行くんだろ? それだったら僕の昇段試験も一緒に出来るし……」

「はいはい、しょうがないから付き合うわよ」

「ありがとう。お礼にマッサージでもどうだろう? こう見えても評判がいいんだ」



 アルベルトの白い歯がキラリと光る。

 いちいちイケメンである、その正体は女好き冒険者なんだけど、わかっていてもこれは騙される人でるわね。



「断りますー」「わたくしアンナもご遠慮しておきます」

「そうか、残念だ」

「ほら、それより装備を整えましょう」




 久々に冒険者ギルドに入った。

 相変わらず込んでいて、他の冒険者は私をちらりと見ては興味なさげにバラバラに動いていく。



「ふふ、ここではクリスお嬢様も注目されないんですね」

「お掛けで気が楽よ。ええっとハンナお婆ちゃんの依頼は……あったFのボードね」



 私はハンナお婆ちゃんが出した依頼書をもってカウンターへと歩く。

 少し並んで順番が回ってきた。



「やっほ。ミィ」



 亜人でウサギの耳が特徴的なミィへと挨拶する。



「お久しぶりですクリスさん。本日は……?」

「冒険者だからクエストの依頼それと……」



 アルベルトの昇段試験、アンナの冒険者登録、ハンナの依頼、あとパーティー登録などを一斉に行う。

 ミィは忙しそうに手続きをしていく。



「はい、すべて終わりました」

「悪いわね」

「いいえ、お仕事ですので! あの…………冒険者に過度な肩入れするのは禁止されているんですけど、無事に帰ってきてくださいね。どんなに強い人でも帰ってこなくなる人がいるので」



 かーーーーーー!

 健気。可愛い。もうあまりの嬉しさに抱き付きたくなる。



「あのっ苦しいですっ!」

「ああ、ごめん。無意識に抱きついていたわ」



 私がカウンター越しのミィを離すと肩を叩かれた。

 振り返るとアンナが両手を広げて待っている。そしてその後ろにアルベルトが並んでいた。

 いや、しないからね……ってか後ろのアルベルトにいたっては、なぜハグをして貰えるのかと思ったのだろうか。



「直ぐに出発しますか?」

「出発ってまだダンジョンの場所も聞いてないんだけど」

「一部のダンジョンでしたら、ギルドの地下から転移門があります」



 説明しましょう! ミッケルの声が聞こえた。

 私は立ち上がり周りを見る、首を高速で振ってもミッケルの姿は見えない。



「クリスお嬢様どうなされましたか?」

「…………いや、幻聴が聞こえたかもしれない」

「少し休みましょうか。ここ最近忙しかったですし」

「休むなら僕がいい宿を知っている」



 私は手をヒラヒラさせてどっちの意見も断った。

 アンナの提案にも乗りたいけど、アルベルトにいたっては変な宿に連れ込まれそうだし。



「すぐ行くわ」

「ではこちらの転移のカードをどうぞ。使い方は……」

「僕がわかる」


 

 アルベルトがカードを受け取ると、さぁ行こうと張り切りだした。

 地下に行くと人ぐらい大きいクリスタルが数個並んでいた。



「使い方は簡単だ。このカードをクリスタルにあてて【転移】と喋るだけで飛べる」

「へえ…………仕組みどうなってるのかしら」

「カードにあらかじめ組み込まれてる魔石と魔力、そして発動呪文。魔法のスクロールと同じ原理を応用して……と長くなるけど説明いるかい?」



 手短に打ち切ってくれるのがアルベルトらしい。

 手をパタパタとふった。



「いらない。簡単に飛べるならそれでいいわ」

「じゃぁ僕に抱きついてくれ」

「え。やだっ」

「仕方が無いだろ、【転移】するのにパーティーは繋がっていないといけない。だから早く抱きついてくれ」

「…………それって手を握ってるだけでもいいのよね?」

「もちろん」



 まったく悪びれないアルベルトが当然のように言うので怒る元気も無くなった。

 私は出されたアンナの手を握り、アンナはアルベルトの手を握った。


 アルベルトが転移と喋ると、視界が歪んでいく。

 二度目の転移を私は体感した。

 


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