43 健気なハンナお婆ちゃんのお願い
ハンナお婆ちゃんの家に手土産を持って三人で向かう。
中身は高級菓子店で買ったシフォンケーキ、何人も女性が並ぶ中アルベルトが裏口から入って普通に買ってきた。
便利な男だけどアルベルトのパーティーを組むという誘いは、とりあえずは保留中にした。
町外れの一軒家、私が開拓した小さい畑には、まだ実はなっていない。
ノックをすると、ハンナおばあちゃんの声が聞こえてきたので扉を開ける。
「どうもー! 冒険者のクリスでーすー」
「あらあら、お久しぶりね。探していたのよ」
家に入ると綺麗に整頓されている。
以前来たときより家具が増えていたり壊れた物も少なくなってる。
「物増えましたね」
「そうかしら? あの人がよく来るようになってね……あらいやだ、あの人ってのはマイケルさんといってね――――」
ハンナさんはマイケルさんの事を丁寧に話してくれる。
前回来た時にハンナさんに寄り添っていた老人だろう、その人のおかけで私も牢から出る事が出来たし、感謝しなくては。
「で、ハンナさん。こちらが親友のアンナと…………なぜか付いてきている自称C級冒険者のアルベルト」
「よろしくねお願いします」
「自称ではなく本物です。美しいハンナさん、よろしくお願いします」
アルベルトは冒険者カードを見せた後に膝をついて、ハンナさんの手に軽くキスをする。
王子様がお姫様にするような軽いキスだ。
ハンナさんの顔がほんのりと赤くなる。
「やだわ、こんな老婆に……」
「美しい女性は年齢は関係ありません」
「ごほんっ!」
「な、なかに入ってね、いまお茶を出すわ」
ハンナさんが慌てて奥に行くので、アルベルトに小声で話す。
「何してるのよっ!」
「男として当たり前の事をしただけと思うが?」
「…………ハンナさんには良い人がいるんだから、かき回さないように」
「彼女も喜んでいただろうに。レディハンナ、僕も手伝おう」
アルベルトはさっさとハンナさんの横にいって手伝いを始めた。
いつか刺されるわよ。と心の中で注意しておこう。
アンナも手伝いに行って来ます。と私から離れるし、私一人が何もしない人になってしまった。
若干気まずい。と、いっても手伝える事ないからなぁ。
そこまで大きくない家で三人が動いていれば四人目の私は手伝おうにも邪魔である。
仕方が無く椅子に座って腕を組む。
アンナが手土産のシフォンケーキを四人分に切り分けて置く。そこにハンナお婆ちゃんが紅茶を置いてくれた。
アルベルトは何してるのかというと、ゴミを捨てたり食器を拭いている。
案外豆な男かもしれないし、もてるのもちょっとわかるかも。そのアルベルトが席に戻ってきた。
「レディハンナ、鍋などを片付けてきた」
「ありがとう、アルベルトちゃん」
「揃った所でハンナさん私に用事とか?」
「そうなのよ……クラインを探して来て欲しいの」
クライン? クライン……ああ。あの品性が捻じ曲がった孫の事よね。
そういえばアレから一度も見てない。
「ええっと、家出でもしたんですか? でも、いい年ですよね」
孫が数日いないだけで心配するハンナお婆ちゃんも問題と言えば問題なのかな? この辺は私の実家と違うから何も言えないけど。
「クリスちゃん、お婆ちゃんを過保護と思っているでしょう? でも、クラインはすっかり心を入れ替えてね。なんでも雪月花の水晶を取ってきてくれるっていってね」
その言葉でアルベルトが、小さく手を上げた。
「雪月花の水晶……本当にそういったのか?」
「アルベルトちゃん、ええそうよ?」
「何が問題でもあるの?」
難しい顔をするので私はアルベルトの話を聞いてみる。
「雪月花の水晶はB級昇格アイテムの一つで、花言葉は溶けぬ信頼。
市場の価格は金貨四十枚。なお自分で取ればゼロ枚だ。
市場に出てるのは加工する事は難しいけど、取ったばかりの花は加工しやすく自身の名を入れてプレゼントするのが主流だ」
「詳しいわね」
「当然だ。だからこそ取りに行きたい」
アルベルトの話が終わった所で微妙な間が空く。
アンナが紅茶を一口飲むとハンナお婆ちゃんに尋ねだした。
「その花を取りに行ったのですか?」
「そうらしいのよ、一つはこのお婆ちゃんとマイケルさんにね。もう一つは、人生を変えてくれたというクリスちゃんになの」
「げっ」
思わず即答で本音が出た。
あんな馬鹿孫からそんな花貰ってもぜんっぜん嬉しくない。
「流石はクリスお嬢様です! こんなにも一般市民に慕われるとはっ!」
「僕は噂を知っているからな……」
「あらあら、クリスちゃん人気者ね」
事情を知らないアンナと事情を何となく知ってるアルベルト、事情所が現場をみたのにおっとりしたハンナお婆ちゃんに私は見つめられる。
「ハンナお婆ちゃん、ええっと捜索とか出したの?」
「ええ、一応ギルドにね。でも誰も受けてくれないの」
「場所が場所だからな……花は上層でも取れる場合もあるが下層はパーティー推奨だ。
ハンナさん、僕らに任せてくれたまえ。お孫さんの骨は回収してくる」
私はテーブルの下からアルベルトのスネを蹴った。
アルベルトは椅子から転げ落ちて床をゴロゴロと動き出す。
「勝手に話を進めない! それと、縁起の悪い事言わないのっ! ねぇハンナお婆ちゃん……」
「そうねぇ、庭にあるお墓が一個増えるのかしら……」
相変わらず、おっとりというかハンナお婆ちゃんはゆったりだ。
「で、クリスちゃん。ダメかしら?」
アンナをみると、クリスお嬢様にお任せします。という顔だ。
アルベルトを見ると女性の願いを叶えるべきだ。と、いう顔になってる。
いや、別に探すのは良いんだけど…………面倒というか、アルベルトの話じゃないけど骨になっていたら最悪である。
だって健気なハンナお婆ちゃんに、孫のクラインを回収してきました! って腐った肉を手渡すとか最悪である。
「アルベルトちゃんが言った様に骨でもいいのよ。それに家に帰りたくないとか、クラインが街を出たいって言っているのなら代わりにコレを渡して欲しいの」
ハンナお婆ちゃんは立ち上がると棚から小さい袋をテーブルに載せた。
その袋から一つの石が出てくる。
虹色に光っていて室内が七色に光りだした。
「クロイスの石…………」
アンナの呟きが聞こえハンナお婆ちゃんは石を袋に戻す。
「可愛いメイドさん姿のアンナちゃんよね。これはファーフナーの魔石」




