41 北の情勢を高級レストランで聞く
アルベルトに連れられた場所は飲食通りから少し離れての場所。
表にテラスがあり店内に入るのに、白い制服を着た男性が私達を一礼する。
貴族御用達の店だ。
昼時というのに店内に人は殆ど無い。
さらに階段を上がり個室へと通された。
「おい、ねーちゃん! このワインがコップ一杯で銀貨五枚だぞ!?」
「味はそこまでかわりませんねぇ」
「わしは飲めればいい」
アルベルトは青筋を立てて文句を言った三人を指差す。
「なんでボンクラーズの三人が文句を言うんだ! そもそも君達に文句をいう資格はない! 君達だけ外で食べたっていいんだぞ!」
「ごめんなさい、アルベルト……私が再会を記念してと思って」
「アルベルトさん、私からも謝ります」
私達が謝るとアルベルトの鼻の下が伸びる。
まぁミラクルジャンと再会した時に、記念に一杯どうだ。って誘われて、アルベルトとの先約があるしー……と言いながら、アルベルトをチラチラみていたらこうなった。
私とアンナが懐の大きい男性って素敵よね。と言っただけなのに。
扱いやすくて便利だわー、とは思ってないからね。
私も貴族の端くれ、いや端くれだったのでこういうお店の値段はまぁまぁ知っているのでさほど驚かない。
ミラクルジャンの三人は野菜一つ食べては銀貨何枚だ。と騒いでは場を明るくする。
「先に食べるな! まずは再会に乾杯。乾杯だ」
アルベルトは冒険者の再会に乾杯。と、グラスを上げると私達五人もそれに続く。
「まったく、これで同じランクなのだから酷い話だ」
「あっ、そういえばアルベルトもおっさんずも同じC級なのよね」
「いまいましい事に、でも安心してください。僕は実力でCなので。僕ぐらいになると一人でハイオーガぐらい倒せます。今度ランクBの試験を受けるんですよ」
強さが良くわからない。
サイクロプスとどっちが強いのかしら、もしくはユニコーン。
とりあえず褒めておきましょう。
「へぇ凄いわね」
「所でねーちゃん、どこ行ってたんだ? ハンナの婆さんがお前さんを探していたぞ」
「え。本当っ!? あの馬鹿息子……っと」
アンナがゴホンと咳払いをする。
言葉使いが悪いですよっていう小さい注意だ。
「じゃなくて、あのちょっと品性が捻じ曲がったご子息さんは?」
「ぶっは、何だその言い方、腹がよじれるっ」
「いやだってアンナが注意して来たし」
「わたくしアンナは何も言いませんよ」
「クリスさんは、貴族なのか?」
アルベルトが私に質問してくる。
あーそういえば言ってないわね、別にいう事でもないんだけど…………ミラクルジャンの三人には一応元貴族とだけ伝えている。
私の名前を何回か小さく呟いていたからもしかしたら王国のクリスだって知ったのかもしれない。
「貴族ってほどでもないわよ。国に勘当された身」
「家からの勘当じゃないのか……では、アンナさんもっ?」
「わたくしアンナはクリスお嬢様のメイドですので」
答えにならない答えをいうアンナは静かに微笑む。笑顔が美しい。
「個人のメイド付きか……と、なると最近没落した貴族。いや貴族で冒険者もまずいないか……クリスさん、過去に魔法試験を受けた事は?」
「無いわよ?」
「クランツ家の隠し令嬢ではない……となると……アンナさんが特殊なのか」
「にーちゃん、その辺にしとけよ。旨い酒は旨いままでいい」
珍しく、ジャンが声を落として静かに言う。
年長者の言葉でアルベルドの顔が青ざめた。
「二人とも済まない……過去の詮索をしすぎた」
「おう。冒険者は色々なやつがいるからな、過去を語る奴にはいいとして、探る奴はいけねえ」
「なるほど。ジャンが言ったのはそういう事なのね。ジャンありがとう」
「そしてアルベルトも大丈夫よ、気にしないで…………高い料理食べさせてくれれば」
アルベルトが冷や汗をかきながら頷く。
よし! 場の空気を変えましょう。
私は手を叩き給仕の人を呼ぶ。メニュー表から、ドラゴンソテーのボイル焼き、精霊の涙、旬の果物フルコースを人数分注文した。
給仕は一礼して部屋から出て行く、手始めはこれぐらいね。
横でアルベルトが引きつった笑顔してるけど気にしない。
直ぐに料理は運ばれてきて、私は運んできた人に皆で使ってね。とチップを渡す。
若い給仕は丁寧にお礼をして出て行った。
「なっ、払うのかっ!?」
「え? ああチップの事ね。お店と長く付き合いたいなら損は無いわよ、長く使うと迷惑もかかるだろうし」
「そうか……払った事はなかった。だからか……たまに僕の料理にウエーブが掛かった毛が入っていたりするんだ」
冗談はやめて貰いたい。
私は皿を凝視する、よかった……私とアンナのには入ってない。
「ほう、ジャンには朗報ですね。毛が増えるかもしれませんよ」
「ぬかせっ! ミラお前だって薄いじゃねえか」「うまうまうま」
おっさんずは放置しておいて食事を楽しむ。
アルベルトが話しかけてきた。
「クリスさん達は何か予定はあるのかい? 良ければパーティーに入ってほしいんだ」
「オレ達は~」
「おっさん達には聞いてない! なんでむさ苦しい万年C級と僕が組まなきゃなんないんだ!」
「ふふ、ちょっと用事があってね、北のグラッツ王国に行こうとしてるから無理かなー」
「「北か」」
私の事場にジャンとアルベルトが真面目な声で反応した。
「止めておいたほうがいいな、あそこは今内戦中だ。帝国に兵を要求したりもしてるらしいぜ」
「…………本当? どこの馬鹿よ、そんな事起こす人って」
「第一王子アーカルだな」
「げっ」
「………………知り合いか?」
「ぜんっぜんっ!」
私が即答するとアルベルトも話に入ってくる。
「僕もその噂は聞いているな。よくある権力争いさ、王子は王を倒そうとし、王は王子を倒そうとする。幸い大きな衝突には成ってないらしいけどね。友好国である帝国に兵を出してくれと、兵を出すなと両方の書状が来てるとか。
なんにせよ、北のグラッツはこれから雪が降るだろ? 帝国側からは兵は出ないし冒険者ギルドでも特別な理由が無い限り入国はしないように、ギルドで責任はもたない。と通達があったよ」
むー、雲行きが怪しい。
「さすがC級冒険者様だこと、情報通で」
「いやーてれるな」
半分は嫌味も入っている。
愛国心はあったかというと見えなかったけどアーカル王子がそういう事しそうに無かったんだけどなぁ……。
王も謁見でしかあった事ないけど野心家とも聞いてないし。




