39 一つの終わりと帰り道
村長達から手を振られて私達は出発する。
いつもの四人が先頭の馬車に乗り、いつもの名前の知らない調査隊の隊員さんが馬車を操る。
まてよ、確かミックとか言っていた気もしないでもない。
「にしても、まったくよ! あのエロ司祭! 堕女神っても、そういうプレイとか」
そう私が見つけた秘密の部屋は、堕女神を信仰するような部屋ではなく、そういう自分を叱ってくれる女性を呼んで、個人的にしょく罪する部屋だった。
のちにヒゲモジャが見つけた日記では、手持ちのお金も無くなり、その無くなった所でクロイスの石を回収しにいく。と帝国調査団からの手紙が来て慌てた様子が日記に書かれていた。
後はまぁ、全員の察しの通り、ダンジョンに潜り込んで毒薬を…………。
「クリスお嬢様声が大きいです」
「だって知らないわよ、あんな器具とか……ってか、ジョンも知っていたら早く教えなさいよっ」
私は寝転んでいるジョンに文句を言う。
ジョンは一度だけ顔をこっちに向けて、ため息と共に背中を見せた。
むかつくー!
「まぁまぁまぁ」
「それにしても、司祭も自ら……」
馬車の中の空気がちょっとしんみりとする。
「いかなる理由があろうとも。いいえ、正当な理由であれば特例もあります。
が、それを己の快楽のために売ったとかになると、調査団のほうでも教団のほうでも厳しい罰は免れないでしょう」
「逃げるとかは?」
「その辺は本人ではないので…………一応でありますが、彼は調査団と教団という二つの組織から毎月のお金は出ています。普通以上の生活は出来たのですけどねぇ。
さて暗い話もここまでにしましょう、大事な話があるとか」
昨夜は色々あって言いそびれた話だ。
内容はもちろん、アンナの願いであるクロイスの石を回収と破壊。
寝転がっていたジョンも起き上がり、私とアンナを見てくる。
「やはり、そうなりますか……アンナさんをダンジョンにつれて行っただけではだめと?
最初の取引条件はダンジョンに連れて行くことで完了した。と、思ってますが?」
珍しくミッケルの顔が真面目だ。
それに痛い所を突いてくる。別に石を回収して返せ! とは今回の取引にはない。
酷い話をすると、私達を村に置いて行く事も出来た取引だ。
私はアンナをみると、アンナも真面目な顔で話し出す。
「石が帝国領にあれば、どうにか探し出し破壊するのがクロイス家の最後の一人としてやるべき事と思っています」
「…………たかがメイド一人が本気で思っているのか?」
アンナの思いに、ジョンが低い声で聞いてくる。
暫くしてから、アンナが、いいえ。と、静かに口にした。
いつものミッケルの仲裁もなく、馬車の中の空気は良いとは言えない。
「どうでしょう、出来るとは思ってませんが出来ないとも思ってません」
アンナはしっかり言うとジョンをまっすぐに見た。
「あんたは…………強いんだな。ミッケル」
「わかりました」
ジョンがミッケルに何かの合図をすると、ミッケルは道具袋から小さい板を取り出した。
魔石鏡面だ。
「これをお二人に」
「えっ!」「これは……?」
私はアンナに魔石追尾するための道具よ。と、いう事を説明した。
青い点が動き、うっすらと赤い点が点滅している。
「いや、これ貰ったら二人はどうするのよ!」
「そうです、石の回収は……どうなさるおつもりで」
私とアンナが驚いていると、ジョンはミッケルに再び眼で合図する。
あ、この流れは……。
「はっはっは、クリスさん嫌な顔をしないでください。説明お兄さんの出番ですので」
「いや、べっつにー嫌な顔をしてないわよー」
ただちょっと、胡散くさいし長くて頭に入ってこないのよね。と最後まで言わない。
「我々は調査団ですからね。調査のほうは完了してます。
ただ、おそらく石の回収なども後日決まるかも知れませんが…………決まらないかもしれません。なので、お二人にその道具をお渡しします」
「いいの? 勝手に渡したとか、ラインハルト隊長だっけ? 知られたら大変なんじゃないの?」
「ええ。ライと相談したので大丈夫です」
ん?
「え、てっきりジョンと相談した。って言うのかと思ったけど、ライって誰?」
「…………おや、私はジョンと相談した。と言ったつもりでしたけど。ねぇジョンにアンナさんっ!」
「…………俺に聞くな」
「ぷっ、ヘタレですね。わたくしアンナ、ザック様に聞いた事があるんです帝国にいる黒髪の――――」
ジョンが突然床を叩いたので全員の言葉が止まる。
直ぐに馬車が大きく揺れた。
馬車を操縦してる人から、馬車の中で暴れるなっ! と怒鳴り声が聞こえてくる。
暫くすると馬車の動きも静かになりいつものようにカッポカッポと進んでいく。
「ど、どうしたのよ!?」
「…………いや、そのなんだ。試合をしないか?」
私はジョンの近くにいって、ジョンのおでこに手を当てる。
私のと比べても熱は無いようだ。
「何をするっ」
「何って熱あるか確認してるんだけど、突然大丈夫?」
手を払いのけれられた。少し顔が赤いけど熱は無いようね。
あと、払いのけるとは生意気な。
「…………その、なんだ。ダンジョンでも中途半端におわった、帝都に送り届ける前に訓練でもという気遣いだ」
「あっ本当!? それは嬉しい。そういえば全裸みたお礼もまだしてないんだっけ」
ブッフォ。と、アンナの奇怪な声も聞こえてくる。
「クククク、クリス、クリスお嬢様!? まさかジョンさんとそのような仲に!?」
「え、なにが? ちょっとアンナ顔が怖いわよ」
「いえ、あの、将来的には、クリスお嬢様の伴侶を称えるつもりですけど」
この空気の意味がわからないので、説明ミッケルの顔を見た。
ごほんとミッケルが咳をする。
「ですから、そのクリスさんとジョンは男女の仲になったのか? とアンナさんは仰っていて」
男女? 男女、男女。
…………。
「………………アンナっ!」
「ひ、ひゃい!」
「なるわけ無いじゃない。裸を見られたってのも事故だし、助けてもらった時にたまたまよ。何でもかんでも変なふうに考えないでよっ」
「クリスお嬢様……お顔が少し赤いです」
「いやー良かったですねジョン」
直後にまたジョンが床を叩き馬車が揺れる羽目になった。




