38 クリスとピンクのお部屋
引き続き部屋を物色、もとい調査中である。
ヒゲモジャは床を叩いたりして、私はアンナの指示で本棚を持ち上げた。
床を叩き終わったヒゲモジャは壁に耳を当てて音を聞いて、その間私は二個目の本棚を外に運び戻ってくる。
はて……女性の私がする力仕事なのだろうか?
持てるからと言っても、重たい物は重たい。
「どうしました、クリスお嬢様?」
「なんでもないわっ」
アンナにさせるわけには行かないわよね……本棚を戻してと。
「秘密の部屋ってのは何所よ、まったく」
「この部屋じゃないっぽいな……変な神様を信仰してるとしたら面倒だからな」
そういうヒゲモジャの顔はなぜか笑っている。
「本音は?」
「なに、見つければ教団を突っつく材料になって楽しいだろ」
「たしかに、それは楽しそう」
ゴホン。と小さくアンナが咳払いをした。
「じょ、冗談よ」
「メイドのじょうちゃん、そう怖い顔をするなってこっちも冗談。いやまぁ実際邪教といって人を生贄にする所もあるからな」
ヒゲモジャはちょっとだけ真面目な顔になる。
ん。
本気で探すか。
「アンナ、次はどれをどかせばいい?」
「そうですね、隣の資材置き場へ行きましょうか」
「了解」
「クワットさん、では隣の部屋に行ってきますので」
ヒゲモジャは片手を上げると、短くおう。と、返事をした。
隣の部屋のなかは大盾に教団の国旗、巨大な壷や保存食などが所せましと置いてある。
手前の物から外に運ぶと見知った顔が中庭に現れた。
「ジョンっ! とミッケルじゃない」
「やぁやぁこんにちは、すみませんね調査団の仕事をさせて」
「別にいいわよ」
私はお礼を言ってくるミッケルに笑顔で返事をする。
ジョンが何が言いたそうな顔でこっちを見てきた。
「ジョン何か?」
「…………黙って宿にいとけ」
「はぁ? そんな言い方し――」
「…………大体なんでも首突っ込んで……怪我したら危ないだろ」
「――――なくたって…………」
思わず無言になった。
そう真顔で心配されるとはおもわなかったからだ。
「おやおやおやおや。料理番にいって今夜は盛大にお祝いしましょう!」
「ミッケルさん、奇遇です。わたしくしアンナもそう提案しようと思ってました」
「「はぁ?」」
私とジョンが声を出すと、ミッケルとアンナはニマニマしだした。
「いや、そういう感じじゃないわよね! ねぇっジョンっ!」
「ッ…………そ、そうだな。コイツが怪我をすると治療費が取られると思っての発言だ」
「ほら見なさい!」
私は二人に指をつき立てる。
ん?
「って、慰謝料なんて請求しないわよ! そんなにガメツイって思ってるわけ?」
「…………違うのか?」
「違うわよっ!」
ミッケルがまぁまぁまぁと、私達の話の中に入ってくる。
「クワットに聞いたんですけど、秘密の部屋を探しているとかで」
「え。まぁそうよ、忘れそうだったけど……少しでも手伝えたらなーって、部屋で黙っているのも悪いし」
「こちらの部屋は、クワットと私、アンナさんと探しますので。
ジョンとクリスさんは……礼拝堂のほうをお願いします」
「なんで、ジョンと!?」
「あちらのほうが重たい物が多いので、私やアンナさんでは長椅子や教壇を持ち上げたり出来ないですし。クワットはまだ部屋の中にいますので」
あ。なるほど。
ミッケルに真顔で説明された。
「…………仕方が無い」
「まぁそういう事なら」
私とジョンが歩き出すと、背後でミッケルが、丁寧に探してくださいねー。と、大声で叫んでくる。
そんな適当に探さないって言うのっ!
人をガサツが何かと思ってるのかもしれない。
中庭を再び抜けて礼拝堂に戻ってきた。
女神アルティアの像が飾ってある。
「さてと、じゃぁ私は右の椅子調べるから、ジョンは左ね」
「…………命令するな」
「むっじゃぁ命令してきなさいよ!」
「いや、悪かった」
ジョンは私に謝るとさっさと左側の列へと行く。
なんなんだコイツは、と言いたくなるけど、私は大人な女性なので何も言わない。
右側の長椅子をずらしてみる。
綺麗に掃除されていて特に怪しい床もない。
二列目も同じように長椅子を動かして床を叩いたりして確認する。
三列目、四列目と最後の五列目まで調べ終わって、思わず腰を叩く。
「本当にあるのかしら」
「日記を見たんだろ?」
左から声が聞こえ振り返る。
ジョンのほうも特に何も無かったみたいだ。
「あとは……井戸とか?」
「井戸か、無い事もないな」
「あ、ちょっと休憩させて」
好きにしろ。とジョンが言うので演説台へよりかかった。
不意にカチっと音が鳴ったかと思うと演説台が倒れ大きなハシゴと空洞が見えた。
「これって……」
「抜け穴、いや……秘密の部屋か」
「あっちょいっ」
ジョンがさっさとハシゴを降りていく。
「なんだ?」
私の足元まで降りたジョンは下から私を見つめてくる。
「こういう時は他の人を呼ぶべきでしょうかっ!」
「来ないのか?」
「………………行く」
ジョンが先に地下室へと下りていった。
私も次にハシゴを降りていった。
ジョンが床に足を着くと、天井部分がうっすらと光っていく。その光は赤い色だ。
「目に悪そうな光ね」
「…………魔法具の一種だろう」
私は赤い光の中部屋を見回す。
さほど大きな部屋ではなく、まず目に入ったのが、三角になった鉄製の台。
なんに使うのかしら?
次にバツを書くように置かれた拘束台?
「ねぇ、ジョンあれって何? 拷問具? にしては、てかせと足かせの部分が柔らかそう。
儀式に使うのかしら、棚にロウソクも何本もあるわね。
このムチも革が弱くて殺傷能力なさそう、あっ毛がふわふわしてる棒もあるわね」
他にも棚には青白い液体が入ったビンや赤い液体がはいったビンが置いてある。
「…………」
ジョンがさっきから無言だ。
「……この部屋には用はないな。でるぞ」
「え、でもちゃんと調べないと。堕女神を信仰していたらこまるんでしょ」
ジョンがハシゴに手をかけると、上からミッケルが降りてきた。
「おや、二人ともどうしました?」
「どうしましたって……」
私はミッケルにこの部屋を見つけた事を伝える。
「堕女神の信仰するための部屋っぽいし証拠品見つけたほうがいいわよね。ってジョンに言ったんだけどジョンは帰るって言うし」
「ふんふんふん、なるほどなるほど、クリスさん。この三角のアイテム使い方わかりますか?」
鉄製の三角の台の事だろう。
「うーん……柵の前に並べて罠にするとか?」
「くだらん、先にでるぞ」
ジョンはぶっきらぼうにいってハシゴを登っていった。
私とミッケルは謎の小部屋に残される。
「いやはや……クリスさんちょっとお耳をお借りします」
私は怪しい儀式の部屋で、このアイテム達の本当の使い方をミッケルから教わった。
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