37 クリスは名探偵助手である
好きに使ってください、といわれた家からでて村を散歩する。
確かに平和な村だ。
大人たちは農作物の仕分けをして、子供達はかけっこをして遊んでる。
調査隊の人達と談笑する村人も見えた。
「おっ、姉御とメイドのおじょう暇そうだな」
声のほうを見ると、髭モジャが肩に木箱を背負って歩いている所に出くわした。
「ええっと……髭モジャの人、ジョン達は?」
「こんにちは、クワットさん」
絶対にオノとかもしくは両手根が似合いそうな筋肉ムキムキなのに、ヒーラーなのよね。
とてもヒーラーには見えない髭モジャは制服の前をはだけて暑そうだ。
胸毛がちらちらと見える。
「副隊長達なら村長の所で聞き込みだな。こっちは村はずれの教会にいく所だ。副隊長から調べておいてくれって言われてな。暇なら来るか?」
「ジョン達のほうは邪魔できなさそうね、ヒゲモジャが邪魔じゃなければ、ご一緒していい?」
「おう」
私達はヒゲモジャの後をついていく。
村から離れたちょっとした高台を登っている途中で場違いな大きさの教会を見つけた。
だって屋根に十字のマークあれば、それ以外にはない。
これで宿屋だったら私は建てた人間をぶん殴るかもしれない。
「大きいわね」
「だろ? 教会のお偉いさんが特注で作ったらしいぞ。派閥争いとからしいな」
あー…………納得。
でかいければいいって話じゃないのに、大きくするのよね。
だって礼拝堂だけでも五十人は入れそう、その奥に居住区かな? 建物が見える。
「あっ小さいけどウマ小屋まである。でも、ウマは居ないのね」
「司祭が行方不明だからなー村の人間が別な場所で世話してるらしいぜ」
教会前について、ヒゲモジャが教会の扉を開けた。
案の定、真ん中に通路、その左右に細長い椅子が等間隔に並べられている。
「大きいわね」
わかっていた気持ちなんだけど、つい口から出てしまう。
「そうだな……前々から村には大きすぎるって隊……ジョンが言っていたなー。まっなんにせよ、調べるか」
ヒゲモジャは木箱を置くと、中身を空ける、中身は空っぽだ。
「あら何も入ってないのね」
「そうだな、怪しい物を入れて回収する。実はな……教会の関係者がここに来る前に押さえる。万が一組織単位だったらこまるだろ?」
「おっ! と、いう事は?」
「神父が魔石を手に入れたとして、どうしたかって奴だな、誘ったはいいが、女子供が見ても、あんまり面白いもんでもないぜ」
ヒゲモジャと私達は礼拝堂を抜けて神父が住んでいた建物へと向かう。
中庭には井戸もあって生活するにはばっちりだ。
「掃除大変そう」
「そうですね、礼拝堂も含め毎日綺麗にするのであれば数人は欲しいです」
「村の子が手伝う。と聞いたな、評判はいい司祭だったらしいぜ、だから行方不明も突然すぎて。と困惑していたな」
「へぇ」
左右にある建物を順番に見て回る。
殆どが倉庫で、中には空の部屋まであった。
一番奥の扉を開けるとやっと住居スペースにぶちあたる。
炊事する場所があり、その奥に大きな本棚がみえる。
クローゼットを開くヒゲモジャ。
その中には立派な法衣がかけられていた。
「まっ適当に怪しいものを突っ込むか。姉御、メイドのじょうちゃん文字は読めるよな?」
馬鹿にしないでよっ! と怒りたい所だけど読めない人は読めないからなぁ
「当然」「もちろんです」
「じゃっ本棚のほう頼むわ、こっちは引き出しを調べる」
「りょーかい」
私は教会の教えなど書いた本をめくっていく。
女神アルティナの教えが書かれており頭が痛くなりそうだ。
よし次の本だ。
今度は手書きの本。
「ええっと何々……金がない。こんな小さい村に派遣され――…………」
こんな小さい村に派遣され、四年が経つ。
食うのには困らないが稼ぎも無い、村人はもと冒険者などもいるので怪我をするものも少ない。
孤児もいなく本部からの援助金も毎月少なくなってくる。クソ、貧乏くじを引いた。
何が立派な教会を任せる。だ、俺を騙しやがって……。
本部は交代の奴を寄越すといってからまったくこねえ。
ガルエンの酒場のツケやカードゲームのツケもたまりだした。
前回は村長に立て替えてもらったが…………このままでは俺は強制的に帰らされる。
帰らされるのはいいが、今度は責任問題になるだろう。
「――――金だ、とにかく金がいる」
私が読んでいると、手を止めたアンナとヒゲモジャが近くに寄ってきた。
「クリスお嬢様それは?」
「日記みたいね」
「ほう…………」
私は軽く音読した日記を二人に見せる。
「姉御貸してくれ」
「はい」
ヒゲモジャに日記を渡すとパラパラと中身を確認していく。
私はヒゲモジャの左側に立っていて、アンナはヒゲモジャの左側に立つ。
「あった、これだな」
「どれでしょう?」
「メイドのおじょう、このページだ。金に困った神父が偽の書類を作り石を取りに行っている。闇行商人に売った事まで書いてるな。最後の一文は……」
「ばれない様に神に祈ってますね」
なんともまぁ。
贖罪のための日記というやつね。
アンナはヒゲモジャの横からページをめくった。
そのページを今度は再度私が読む。
「今日は金が入った。この金は呪われた金だろう、神は許してくれないかもしれない。
私は街で知り合った堕女神を家へと招き入れる。
秘密の地下室で私の贖罪を聞いてくれるというのだ。
堕女神であるのに慈悲深い」
アンナは黙って次のページを開いた。
あちこちに液体が濡れ乾いた後がある。
「色からして血じゃないわよね」
「そうだな…………」
ヒゲモジャは濡れて乾いた部分に鼻を近づける。
「匂う?」
「いいや、年月が経っていて何もないな」
「読ませてください、何か手がかりがあるかもしれません。秘密の部屋も気になります」
「そうだな、よし姉御にメイドのじょうちゃん。隠し部屋探し手伝ってくれねえか」
「当然! 楽しそうだし」
「いや、仕事なんだが……」
「クリスお嬢様……」
私だけが悪いみたいな空気の中、探しましょう! と提案した。




