35 アンナの告白を聞いて
ダンジョンからでて渓谷を上がる。
他の調査隊の馬車が止まっており、その馬車の前でアンナが立って待っていた。
「お帰りなさい、クリスお嬢様」
「はい、ただいまって言うのも変なきがするけど。ええっと魔石の事なんだけど……」
盗まれた石は王国にあると、伝えた。
しかも、ミッケルやジョンとも話していたけど、恐らくは魔力の大半が残ったまま。
他の人は気づかないだろうけど、アンナの表情が一瞬暗くなった気がした。
「ごめん」
「クリスお嬢様が謝る事ではありません……逆にすみません。クリスお嬢様の心労を増やす形になってしまって。……わかりました。諦めましょう」
「えっ!?」
私が大声をだしたので、他の部下に指示していたミッケルとジョンが私のそばに寄ってきた。アンナが石を諦めた。と、二人に伝えるとミッケルが腕を組む。
「本当によろしいんですか?」
「元々石は奪われた時にわたくしアンナの手を離れています。こちら側、帝国領にあれば石を見つけ出し叩き割りたいのが本音ですけど…………」
やっぱり、アンナの一番の目的ってそうだったのね。
石のせいで家族を殺され一年以上も奴隷として生活していた。それさえなければ、今頃は貴族として別の人生だっただろうし。
「なるほど。いやまぁ、そうですね…………」
アンナもミッケルも歯切れが悪い。
「アンナもしかして私の事を気にしてる?」
「あっいえ……」
「私は別に追放された王国に戻って石を手に入れるぐらい手伝うわよ」
「クリスお嬢様……」
「…………先ほどまで面倒くさがっていた女とは思えんな」
ジョンが余計な事をいうので、裏拳で突っ込む。
案の定、私の突っ込みはジョンの手のひらで受け止められた。
「感動の話はとりあえず置いておいて、村に戻りましょう。
部下には簡単な結界の張りなおしなど色々あるので」
その部下達をみると、箱をもって渓谷へと降りていく。
帰るときに教えてもらった、サーディスさんへの貢物だろう。
ミッケルが部下に、ウマの手配を! と叫ぶと部下の一人がウマ二頭を連れてくる。
その片方にウマにジョンとミッケルが乗った。
私の前にはジョンが前に、ジョンの腰に手を回すミッケルが映し出される。
なんというか、男性二人を見ていると、ちょっと変な気持ち悪さがある。
「…………どうした」
「いや、男の二人乗りって絵にならないなぁって思って」
「では、クリスさんがジョンの後ろに乗ります? 抱きつき放題ですよ」
「ちっ」
ジョンがウマの手綱を引っ張るとウマが行き成り回転した。
ミッケルがジョンの腰を思いっきり抱きついて落ちないように頑張っている。
二周した所でジョンはウマの動きを止めた。
「な、なにをするんですかっ!」
「…………振り落として一人で帰るつもりだった」
「大人しくしてますからっ! し、しってますかっ? 人はウマから落ちると大怪我するんですよ!」
男二人は置いておいて、私もウマに近寄る。
首筋をなで、落ち着かせた所でウマへと乗った。直ぐにアンナに手を差し伸べる。
アンナが腰に手を回して来てぴったりとくっつく。
「ふふん、どうですかジョンさん。クリスお嬢様の匂いはわたくしアンナの独り占めです」
「…………お前の所のツレは」
「最後まで言わなくていいわよ。アンナ、外ではそのあまりね」
変態行為はしないでね。と小さく注意する。
普段、外ではこういう事しないんだけどなー、アンナにしては珍しい。
よく、ジョンにちょっかいかけるのよね。
ジョンを見ていたら、いくぞっ! といってウマをゆっくりと走らせた。
私もその後に続く。
村に着くと、他の隊員や村人達が私達を出迎えてくれた。
ジョンやミッケルは忙しいというので、私とアンナはやる事が無い。
調査団に同行してるだけで、調査団の仕事はしてないしね。
「アンナの希望は石の破壊なのよね」
「クリスお嬢様、その話ですか? 先ほども申したように……」
「ううん。アンナ」
私はアンナに向きなおる。
アンナも途中で言葉を止めた。
「たとえば、私が使っているこの剣。この剣が家宝として、赤の他人がこの剣を使い悪さをしているとわかれば、壊しにいくわよ。家宝だったんでしょ、その魔石」
「…………はい。小さい頃にみたクロイスの石はとても綺麗でした……」
「その思い出の品が悪用されている。いやされているかもしれない。って話よね」
「…………そうですね」
昔、祖父に聞かれた事がある。
クリスはどんな大人になりたい? と。
よくわからず立派な剣士。って答えると、祖父は私の頭をなでててくれた。
では、腐った貴族が嫌であれば、その貴族より偉くなれ。
力が弱いと泣く者がいるなら、それを助けるために強くなれ。
最後に、まぁ最終は自身を守るために強くなれ。と、笑っていたっけ。
「ん? まてよ、祖父が私と帝国の皇子をくっつけようってしたのって、権力を握れって意味だったのかしら」
「クリスお嬢様?」
「あっごめん。脱線したわ、とにかく本音を聞かせてアンナはどうしたいの?」
「私は…………――――」
◇◇◇
アンナの願いはやっぱり石を手元に、それが無理で悪用されているなら壊したい。と、伝えてくれた。
私はそれを手伝うわよ。と伝えるとアンナは突然泣き出した。
暫くして泣き止んだアンナは私を見てくる。
「あの、急がなくても大丈夫ですので。それと……クリスお嬢様のやりたい事はないんでしょうか?」
「…………私の?」
「はい、たとえばわたくしアンナと出会わなければ帝都で何をするつもりだったのでしょう?」
「…………なんだろ」
先ほどまで泣いていたアンナの目が細くなる。
「いや、ちょっとまって」
冒険者ランクを上げたい? いいえ違うわね。
お金を稼ぎたい? これも数日暮らせれば満足してたわね。
パーティーを作りたい? これは無くはないけど、後でいいわよね。
いい男を見つけたい? これは無い。
「あっ!」
「クリスお嬢様、決まりましたか?」
「うん。血、肉、沸き踊る死闘がしたい! こう一瞬で命のやりと…………ごめん」
「いえ、変わってなくて安心しました。以前乙女の湖でユニコーンの頭を切り落としていたのを思い出しました。あの時の死闘は確かに笑ってましたよね」
「あったわねー、アンナに攻撃してきたから私が倒したやつよね」
懐かしい話だ。
気を抜いたらあの一角で心臓を貫かれていただろう。
切り落とした頭を右手に、残った胴体を背負って家に持ち帰ると兄は手を叩いて喜び、弟は引いていたわね。
「さて、ジョン達にアンナの気持ちも伝えたいし、散歩でもいく?」
「そうですね、お供します」




