33 クリス、魔石の湖に落ちる
壊れそうな小屋から飛び出すと、剣が二本飛んできた。
一本を受け取ると、飛んできたほうを見る、ミッケルだ。
「二人とも頼みますよっ! ほら、わたしは非戦闘員ですのでっ!」
ミッケルは直ぐに私達から離れて草むらへ行く、一人だけ逃げるとかずっる。
「ちっ来るぞ」
もう一本の剣を受け取ったジョンの声がして視線を戻すと、両手が大きなハ虫類の手になったサーディスさんがゆらゆらと動く。
爪がとても長くて痛そうで……お尻から生えた尻尾がベタン! と一鳴きしたかと思うと地面には大穴が開く。
先が割れた舌がペロリと動くと、トカゲ特有の縦になった瞳孔が細くなる。
「えっと、殺していいの?」
ジョンにたずねると、サーディスさんから返事が来る。
「およよ、見くびられたですわ~」
手首から先だけが爬虫類の手になったサーディスさんが目の前にいた。
左手の攻撃を思わず剣で受け止めると、指の隙間で剣が止められた。
私の顔近くに猫の爪みたいな爪がチラチラと伸びている。
「冗談っ」
こんなので刺されたらいくら私でも大穴が開く。
力をこめて左手を跳ね除けると直ぐに右手が飛んでくる。
「ちっ!」
ジョンが小さい悪態とともにその右手を跳ね除けた。
「…………悪かったな。巻き込んで。下がってろ」
ジョンは私に謝ると、一人サーディスさんに突進しいてく。
私と訓練しいた時と同じように力強く攻撃していった。
「落ち着けサーディス」
「およよよ、ウチを嘘つき呼ばわりして落ち着けと?」
サーディスさんも左右の手を使ってジョンを追い込む。
あっ死角から尻尾がっ!
気づけばジョンの背中に回りこんでサーディスさんの尻尾を受け止めた。
「このっ! 尻尾ぐらいっ切れなさいよおおううううっ!!」
こっちだって、サイクロプスの首を切るぐらいの力あるのにビクともしない。
「や~だ~」
「なっ」
尻尾の抵抗がなくなり、私の体が前のめりになる。
転びそうになった所で足を踏ん張ると、腹部に重い衝撃が飛んでた。
「クリスっ!」
ジョンが私を大声で呼んだかとおもうと視界が飛ぶ。
全身に衝撃をうけて湖の上を跳ねた。
ジョンが私に向かって手を伸ばしているのが見えたけど……見えただけで間に合わない。
二度ほど体が水面で跳ねると私の体は湖に沈んでいく。
水が体にまとわり付いて、動きが鈍くなる。
水中から水面が見え、ゆっくりと体が沈んでいくのがわかった。
さっきの攻撃の痛みで両手両足が押さえつけらたぐらいに重い。
あ、だめだこれ。
口からゴボボボと空気がもれ、必死に体をあげようとするも手足が思うように動かない。
湖の底に視線を送ると、綺麗な石が沢山光っていた。
思わず見とれていると、私の肺に大量の水が入ってくるのがわかる。
あっ。
突然に手が引っ張られて水中で顔を動かす。
ジョンだ。
上に上がるぞ! とジェスチャーしているけど、私は首を振る。
最後の空気が体から出ていった所だ。
頭が激しく痛み、心臓も痛い。
視界がぐるぐると回り思考も狂ってくる。
ジョンの顔が近づいてきて……。
◇◇◇
私は飛び起きた。
周りを見ると本棚が置いてある部屋だ。
どうやら寝ていたらしく、横の机に水差しが置いていある。
「夢か……いや、何が夢なのよ」
ベッドから足を出して立つと裸だった。
あらやだ。
着ていた衣服を首を回して探すも無い。
どうしようかと思うと扉が開いた。
「……起きたか。服は洗濯した、ここに置く」
「………………」
ジョンは私の横にあるテーブルに畳まれた衣服を置く。
着替えたら飯が出来てる。と、言い残して部屋を出て行った。
「………………ちょっと!」
私が叫ぶと、扉が再び開いた、ジョンが眉を潜めて私の顔を見てくる。
「なんだ? 違う服でも混ざっていたか?」
「いや、まだ確認してないけど……」
「早くしろ」
バタンと扉が閉まる。
「叫んだほうがいいのかしらね」
私の呟きに誰も答えてはくれず、仕方がなく服を着る。
扉を開けた所で簡素な客間が見えた。
ジョンとミッケルは座っており、鼻歌交じりの女性の声が聞こえてくる。
「およよ~おねぼうさんですね~クーちゃん」
「クーちゃん!?」
「クリスさんだからクーちゃん。親しみ込めたけど問題ある~?」
「無いですけど……」
決定~。と言うとサーディスさんはテーブルにお茶を並べていく。
「ってか何のん気にお茶飲んでるのよ! 試合はっ!? さっきの血も肉も震えるような試合っ! …………なぜか溺れそうになって」
「ウチ感動のあまり濡れちゃった、およよ~」
突然なにぶっこんでくるんだこの女性は、あっ人じゃないのかな?
「では、説明お兄さんが説明します」
ミッケルが胸を張って喋りだした、
あ、もしかしておじさんって言われたの気にしてたのかな。
ちょっと悪いきがしてきた。ごめん。
「まず、クリスさんが落ちた湖は、特殊な湖でして魔石を浄化する効果があります、底のほうに魔石が見えたと思います。なので魔力持ちの人が落ちると溺れたりする事もあるんですよ」
なるほど、私は頷く。
あれが魔石なのね、数百、数千個以上見えたけどどれも綺麗だった。
「次に、それを管理してもらっているのがサーディス様でして」
「は~い、ウチで~す。一応六百年ほど生きてます~ドラゴンさんだぞ~がお~」
「もうろく、ばばぁっ……」
ジョンが要らぬ事しゃべり終わる前に、サーディスさんから生えた尻尾が床板を砕いた。
「ゴホンッ! せ、説明を続けますね。クロリスの石ですけど、なんでも数年前に村の司祭が緊急に要るからと手渡した。とサーディス様の話でわかりました」
「およよ~なのに嘘つき呼ばわりとか酷いわ~。手紙はここにあるわよ~」
「司祭っていうとさっきの」
七層であった中身のない死体を思い出す。
ミッケルの言葉でいうと骨はダンジョンに吸収されたようですね。となっていた。
「ええ、村に帰ってからの調査になりますけど。まぁおそらくは魔石を売ったか。自身で使おうとして事故が起きたとかでしょうね」
「え、じゃぁ石の追跡ってできないの?」
「それは出来ます、最初にいれていた箱があるので」
「およよ~今持ってきますね~」
サーディスさんが立ち上がるとさっきまで私が寝ていた寝室に入っていった。
「あっサーディスさん! ええっと、ベッドとかありがとうございます」
「およよ~いい子ですね~」




