30 クリスと安心できる背中
大雨の日からさらに数日たった。
予定よりも数日遅れで小さな村に着いた。なぜ小さいがわかるかって言うと、だって村を囲っている柵がちいさいもの。
これだったらちょっと大型の魔物だったら無いに等しい。
逆に逃げるのに柵がじゃまになりそう。
「おや、変な顔してますね」
「柵をみてたのよ、小さすぎない?」
「この辺は小動物しかでませんからねぇ、それに……実はこの村でダンジョンを管理してるんです。大きな柵があるとしましょう、ダンジョンが危険な物とわかります」
「そりゃダンジョンなんだからそうでしょうに」
「そうなると危険、イコール宝が多く眠っていると勘違いした冒険者が詰め掛けてくるのですよ」
「じゃぁそのダンジョンって危険じゃないの?」
「危険ですよ? ダンジョンですし」
…………この男は!
ジョンが村のほうから戻ってきた。ってか、いつ村に行っていたんだ。
「村長に以前来た時に居た司祭の親子が行方不明だ、ダンジョンに向かったかも。と教えてもらった。ついでに探して欲しいと」
「クロイスの石が盗まれた。と最初に伝えてくれた人ですね」
「そうだ」
「伝えてくれたって自分たちで確認してないの?」
クロイスの石の事である。
私はてっきり現場を見て盗まれたってのを確認したのかと思っていた。
「さてダンジョンに向かいますか」
「…………そうだな」
「うおーいっ!」
私のツッコミを、ジョンが手のひらで受け止める。
あたりに心地よい音が響き、隊員達がこっちをみては、いつもの事か。と作業に戻っていく。
いつもの事ってなんだ、いつものって!
「いやはや、落ち着いてください」
「落ち着いているわよ! でも預かった物を無くして現場も見てないとか」
「そもそも連絡は手紙でしたし」
「…………クリスお嬢様」
「…………で、村で休んでからいくの?」
あ、ごまかしました。と言うミッケルをにらむと、話を進め始めた。
「ジョンに任せますよ」
「そうだな……直ぐに向かおう、封印もきになる」
ジョンは私に一言いうと、直ぐに別な場所に早足で歩いていった。
ミッケルがやれやれ、と呟き私を見る。
「ジョンはあれで村が心配なんでしょう。本来はここの村の柵だってドラゴンが攻めてきてもいいぐらいの設備と兵を配置しろ! って怒鳴り込んでましたからね。もちろん却下されましたけど」
「へぇ……」
アイツ優しい所あるじゃないの。
「それと、我々は別にこの村をないがしろにしているわけじゃなくてですね。
この村に住んでいる者も納得してるのです。納税もなく定期的に冒険者ギルドからも視察にきますし、他の村より安全だったりもします」
「あらやだ。乙女心を読む男性は嫌われるわよ」
「いいえ、そう予想しただけですので。さて……お二人はどうしますか? 村に残るかダンジョンに行くかです。もちろん魔石の追跡は地上に戻ってきてからもできますし」
私はアンナを見る。
なんにせよ魔石に関してはアンナに決定権があると思っているからだ。
「地上で待ってます」
「わかりました」
「なのでクリスお嬢様お願いします」
「えっ!?」
アンナが行かないなら、私も行く用事がない。
ダンジョンは気になるけど、そこは立場をわきまえてるつもり。
それに場所さえ知っていれば後日来るチャンスもあるし……。
「何で私?」
「わたくしアンナでは足手まといになるからです。クリスお嬢様でしたら力もあるので」「わかりました。では、クリスさん直ぐに行きます。そうでないとジョンが何するかわかりませんからね」
ミッケルが走り出すのでその背中に声をかける。
「あのっ! まだ行くって行ってないわよ!」
ミッケルが止まると私を振り返る。
「では、留守番ですね。では急いでますので」
あっという間にミッケルの姿が小さくなっていく。
「クリスお嬢様…………」
「ご、ごめんって、本気で急いでいるわよねあれ。行くから、行くからそんな目を向けないでよ」
仕方がなく急いで二人の後を追う事になってしまった。
あ、ってか二人とも馬なんですけど! 馬の世話をしている隊員に何かを言って走っていってしまった。
馬を二人に貸した隊員の前で止まる。
「わ、私の馬はっ!?」
「……姉御ついて行くきだったのか? …………悪いが、資材運ぶので余分なのはもうない……」
私は振り返りアンナを見る。
遠くにいるアンナは私に微笑むだけで何も言わない。
私の肩に馬を世話していた隊員の手が置かれる。
「姉御、姉御だったら……今なら走ればたぶん追いつく…………んじゃねえかなぁ……」
「本気で言ってる?」
「いやでも、あの姉御のメイドの顔みて帰って来るまで待つって言えるなら」
隊員はクイっと手首動かしてアンナの方向を指差す。
もう一度アンナを見ると、先ほどより近く、口ぱくで何かを言っている。
クリスおじょうさま。
◇◇◇
暫く走ると、振り返ったミッケルが私の姿をみて驚いた顔をする。
すぐに前に走っているジョンも馬の足を止めた。
「普通、馬に追いつきますか?」
呆れ顔のミッケルが私を見下ろしてくる。
「はぁはぁはぁ…………ちょ、話かけないで。まって……」
こっちだって全力疾走だ。
「な、なんども止まってって叫んだわよね……」
「…………オークの遠吠えかと思っていた」
この黒頭はっ! 乗っている馬から蹴飛ばしたい。
私が息を整えていると、目のまえに手が差し出される。
「乗れ」
「はぁはぁ…………こん、げっふ。
今度は私が乗ってジョンが走るの?」
ジョンは手を引っ込めると馬を回転させる。
直ぐに出発しそうになったので呼び止めた。
「まったっ! 可愛い冗談じゃないの、乗ります。乗せてくださいー!」
もう一度馬を回転させると、再度私に手を差し出してきた。
無言で。
私もジョンの手を掴み、後ろへと乗り込む。
誰かの後ろに乗るのは久しぶりなきもする。




