28 追放されしその後の事情
私は、どこかで見た事あるような、中年男性の上に馬乗りになっている。
中年男性の持っていた剣は吹き飛ばれ、近くにない。
他の隊員が飛んでいった剣を必死に回収しに行っている音が耳に聞こえた。
「「「……………………」」」
私も、私を呼んだミッケルも、私に馬乗りにされ、短剣を突きつけられた中年男性……オジサンも無言。
「あの、クリスさん?」
横に立っているミッケルが疑問の声を上げると、馬乗りにされている下からも声がかかる。
「…………やっぱ、コーネリア家のクリス・コーネリアだよな? 久しいなっても十日ぐらいなはずだが、短剣を向けられる事はしてないはずだが?」
「間違えてなければ、私を捕まえた騎士団のオジサンよね?」
「ああ、剣をどけてくれ」
私がオジサンから離れると、ミッケルが「なんでもないですからー業務に戻ってくださいー」と周りの隊員に叫ぶ。
何かごめん。
「で、でも剣抜いていたじゃない!」
「王国の騎士だっていうので……剣を確認させて貰っていた所ですよ。刻印が入っていたりしますので」
「敵意は無い。そもそも一人倒した所で周りに何人もいるんだ、襲う理由もない」
うん、本当にごめん。
ミッケルのストレスで胃に穴か開きそうです。と、言う愚痴は聞かなかった事にしたほうがいいわよね。
やけに大声で言ってるけど。
私は絶対に聞こえないふりをする。
「ふう……この男性がクリスさんの知り合いらしかったので呼んだんですよ……」
「ごめんってば」
「いきなり殺されるかと思った。改めて自己紹介をしよう。王国グリフォン騎士団隊長っ…………」
オジサンってやっぱ偉い人だったのね。
でも、隊長っと言ってから突然顔が暗くなる。
「いや、元隊長だったフウだ」
「ご丁寧に、こちらは帝国調査隊副隊長ミッケル。こっちの隊長は不在ですので――」
「……ミッケル何の騒ぎだ」
「あっジョン」
ジョンがミッケルの横に来ると、フウオジサンが「まさかっ!」と叫び突然膝を突いて頭を下げた。
まるで王様に謁見するポーズだ。
「おおおおおっとおおおお!」
「今度はっな、なにっ」
今度はミッケルが突然叫んでフウオジサンの前でしゃがみ込んだ。
顔と顔が近く何か小さい声でブツブツ喋っているように聞こえるけど、内容までは聞こえない。
すぐに二人とも立ち上がる。
「…………失礼した。足元に金貨が見えたのでな」
「え。本当っ!?」
フウオジサンの言葉で私もすぐに足元を探す。
私の目には金貨の一かけらも見えない。
「いやぁクリスさん。どうやら見間違いコレだったみたいで」
ミッケルから金属の破片を手渡された。
「鉄バケツかなにかの破片でしょうな。さて立ち話もなんですし、フウさん詳しい事は馬車で聞きましょうか」
「わかった」
ミッケルとジョンが馬車に歩いていく。
その後をフウオジサンが付いていって、私はどうしたらいいんだろう?
「…………早く来い」
立ち止まっているとジョンが振り向き私に命令してくる。
「関係なさそうだし、どうしようかなって思っていただけよ。その言い方は酷くない?」
「まぁまぁまぁクリスさん。同郷の人の話ですし、クリスさんも王国がどうなったとか気になりますよね」
「全然っ!」
気にならないとは言わないけど、追放されてまだ十日前後よ。
そんな短期間でホームシックっていうの? そんなのには成らないわよ。
立ち止まった三人に白い目で見られたので行く事にする。
決して、ジョンが「……薄情な女なんだな」って言ったからではない。
「はいはい、今行きますわよ」
皆の後をついて行き他の隊員から離れた所で簡易式の椅子に座った。
クロスされた木の棒が二本対角にありその上に丈夫な布が張ってある。
木箱の上に布をしいて、こちらもテーブルにした。
途中参加のアンナが優雅に紅茶を四人分入れ、美しく切り分けられたパンやハム、ソーセージ、卵などが入った容器を並べはじめた。
すべてが終わるとそっと私の斜め後ろに立つ。
「ええっと……アンナさんも座られては?」
「ありがとうございます。ですがわたくしアンナはクリスお嬢様の後ろで大丈夫ですので」
「はぁ…………まぁ本人がいいなら。ええっとフウさんでしたよね、朝食です。
好きに食べてください残すのは勿体無いですらかね、お代わりもありますし、お金も取りません。確か近くの町か村をお探しと」
「そうだな……」
少し緊張気味のフウオジサンが、あごに手をあてる。
「詳しく話してくれっていってもなぁ」
「簡単な事でいいんですよ。そもそもグリフォンの団といえば王国の先鋭部隊、通常は王族の護衛などをする部隊ですよね。わたくしやここにいない隊長も王国のパーティーで拝見させてもらってます」
「そこまで行くと凄いわね。でも全然聞いたことないんだけど」
「クリス・コーネリア、その節は悪かったな。凄いといっても王や王子の本来の騎士団と別の枠組みだ。第一部隊や第二部隊のように有名ではない…………」
歯切れが悪い。
「そうだな、現実を見なければならないか。オレは死刑にされた」
「は?」
フウオジサンは紅茶を一気に飲み干した。
ジョンはむすっとして口を閉ざしているし、ミッケルは、ふむふむと頷いてる。
フウオジサンをみるも、足はちゃんとついている。
あ、この卵サンド美味しい。
アンナが私の口元に出してくれた卵サンドを食べた感想だ。
私が一口食べると、残りは背後に消えていった。
モグモグとアンナの食べる音が聞こえてくる。いや、私の食べかけなんだけど…………大声を出せる雰囲気じゃないから黙っておく。
「その、クリス・コーネリアの追放時に武具を渡した。という罪でな。
正式には逃亡させた罪らしい」
「え…………何か、ごめん」
今度はソーセージが挟まれたパンが口元に現れた。
ソーセージもいい焼き具合だ。
もって行かれない様に、高速で食べる。
勢い余ってアンナの指を少し舐めた。手が後ろにもどるとフンフンフンフンと鼻息が聞こえはじめた。
ってか、私含め、他の三人も気づいているはずなのに絶対に触れない。
「気にするな」
「紅茶のお代わりです。ですが、フウ様は足があるようで」
満足顔のアンナがフウオジサンのカップに新しい紅茶を注ぐ。私のカップにも新しいのを入れてくれた。
「聖女といわれるセーラ様が転移の門で逃がしてくれた」
「へえ。いい所あるじゃない、さすが聖女」
「しかし、俺を死刑にと言ったのもまた聖女セーラ様だったな」
ん? 聖女セーラが死刑を宣告して、聖女セーラがフウオジサンを逃がした?
「意味がわからない、お得意の貴族的パフォーマンス? いるのよねー嘘つくために大げさに言う人とか。俺は昔武道会で優勝した! とか相手役にお金渡したりしたり、身分を偽って活躍したのを武勇伝として自慢げに語る人、それから――――」
「クリスさん。そ、その辺で」
「ぷっ!」
「なるほど、あんたは知ってるのか…………」
「……………………」
「え、なに。この変な空気。変な事言った覚えもないんだけど……」
ミッケルがまぁまぁまぁ。と場を仕切りだした。




