27 幸運なクリスと不運な男達
ジョンと訓練した翌日、私は朝早くから馬車越しに起こされた。
声で起きると、私の体にアンナが抱きついてる、どうりで重いと思ったわ。
っと外から二回目の声が聞こえてきた。
「クリスの姉御! ミッケル副隊長が朝食と呼んでます」
「ん。今行くわ」
私は抱きついてるアンナの指を一本一本外すと、アンナの力は強くなっていく。
「…………起きてるわよね?」
「…………寝てます」
「「…………」」
アンナの指を無理やり外して馬車の外にでた。馬車の中からアンナが、クリスお嬢様っせめて身だしなみをしてくださいー! と叫んでいるけど。昔からあまりしないのよね。
そもそも顔を洗うのは馬車の外なのに、どうしろというのだ。
外では調査隊の人達が朝食の用意をしている。
挨拶をしながら歩くと、欠伸をしているミッケルの姿を発見したので近寄った。
「おはよう、悪いわね馬車借りちゃって」
「いいえいいえ」
背後で小さいテントを片付けているジョンにも声をかける。
「悪いわね」
「…………気にするな。俺は敗者だ」
と、いうもの。
私とアンナが何所で寝るか。と軽く問題になった。
軽くってのは、なんでも貴族級を護衛する場合があるので、その時は馬車に寝泊りしてもらって隊員は外で寝るのが普通らしい。
私は別に雑魚寝でもよかったし、アンナもかまいませんよ。と言ったけど、ミッケルが頼むから馬車を使ってくれ勝者の特権ですよ。まで言われたので使った。
勝者の特権まで言われたら、気分はいいものである。
「はっはっは、今までの訓練でもあそこまで戦う人はいませんでしたからね。ジョンなりにショックなのでしょう。いやー上官にいい土産話が出来ました」
「…………ん? 上官ってラインハルト隊長なんでしょう。部下の失敗を喜ぶの?」
「いえいえ、ジョンの父親に報告なのですよ」
何かひっかかるけど、よくわからない。
おはようございます、皆様。と、私の背後からアンナの声が聞こえてきたので考えを打ち切る。
「姉御、こちらに食事が用意されてます」
「あねご! おはようございます!」
「今度俺にも訓練おねがいしますね姉貴」
…………。
私達に声をかけ調査隊の人達が忙しそうに動く。
「…………ミッケル」
「おや、なんでしょう?」
「なんで私が姉御って呼ばれてるのかしらっ!」
「おや、嫌でしたか?」
嫌とかそういう問題じゃない。
私より童顔な人だけならともかく、同じぐらい? もしくは少し年上に見える人たちからも姉御呼ばわりだ。
そんな老け顔の弟はいらない。
と、いうか老けて無くても私の可愛い弟は実家にいるから、これ以上はご遠慮こうむる。
「いやはや、昨日の訓練の成果でしょうな。我々もクリス姉御と呼びましょうか。ねぇジョン」
「………………」
ジョンがにらみ付けるような顔で嫌悪感をだしてる。
「別に呼ばなくていいわよ。ってかジョンに限っては名前で呼ばれた事ないわよね」
「なんと、それはいけません!」
ミッケルが叫ぶと、周りの調査隊もなんだなんだと集まってくる。
姉御、どうした?
姐さん食べれない物でもあるのか?
よろしくお願いします、おねーさん。
まてまてまて、最後にいたっては何をよろしくだ。
「いえ、皆さんたいした事はないんすよ。ジョン君がクリスさんの事を正式に呼んだ事が無い。と思いまして」
「そりゃ隊長だからな」
「ん?」
隊長だから? 誰が?
聞きなおそうと、喋った相手を見る。
私より年上にみえる髭もじゃのマッチョタイプの男性だ。両手オノとかが似合いそう。
「隊長? だれが?」
「…………んな事いってねえぜ姉御。体調が悪い時は口数も減るだろう」
「なるほど?」
「そうですね、クワット。ジョンに回復魔法でもかけてください」
「おう」
筋肉マッチョの髭モジャが、ジョンの前に立つと何かを唱える。
地面に小さい魔法陣が浮かび上がってジョンの体を青白い光で包んだ。
「って、魔法使いなのかーい!」
「はっはっは、クワットは見かけはアレですけど、魔法使いではなくヒールが得意な隊員ですね。ああ見えて虫の一つも殺せないんですよ」
うわー人は見かけに……。
パンッ!
髭もじゃクワットが突然、自身の腕を叩く。
「おっと、蛾か。蚊かとおもったぜ。昨夜も何匹もつぶしたのにしつけえ虫だな。おやクリスの姉御、変な目で見てどうした? オレの回復魔法をかけたほうがいいか?」
「いや、それは要らないんだけど……」
私は首を動かしてミッケルを……いない! どこ行った、あの出任せ男!
何が虫も殺せないだ。
しっかり殺してるじゃないのよ!
「ミッケルさんでしたら、ジョンと一緒に馬車に戻りました。
進路の相談をするとかなんとか」
アンナの説明を聞いてため息をがでる。
「逃げ足の速い……まぁいいわ。それにしても回復魔法なんて――――」
髭モジャの姿もいない!
「先ほどのお髭の方でしたら、他の隊員さんに連れて行かれました。
なんでも具合が悪い人がいるとかなんとか」
「そうなの!?」
なんだろう、どうにも何か誤魔化されたようなきがする。
うーん、問い詰めたほうがいいのかしら。
朝食前から疲れたきがする、遠くにいるミッケルを眺めているとミッケルが振り返った。
その背後に一人の人影が見える。
「クリスさーん、すぐにこっちに!」
ミッケルが私を大声で呼び始める。
逆光でよく見えないけど武器を持っているように見えた。
その剣が鞘から抜かれミッケルに――――。
「っ!」
周りの隊員たちにも緊張が走ったのが伝わった。
私は一気に駆け出し人影に向かって蹴りを入れた。




