25 クリスの練習と書いて本気と読む試合
場所は移動中にあった野営地。
遅めの昼食の後、調査隊は休憩となった。
そのクロイスの魔石を封印していたダンジョンにすぐにでも行きたい所なんだけど、まぁ行った所で魔石が無いのは確実なんだし、追跡する魔力の流れもそう簡単には消えないなのー。と、ケラも言っていた。
ミッケルが手をあげると、制服を羽織った調査隊が四方に歩いていく。
羽織ったといったのは、そのまんまで胸元が開いていたり、お腹をだしていたりと……品にはかける。
その調査隊の人たちが地面に剣を突き刺した。等間隔とでも言うのだろうか。
その剣をさした外側に暇をもてあました調査隊がぞろぞろと集まっては座り始める。
「簡易ですが試合場を造りました、四本の剣の間に線があると思ってください。
そこから出たら負けです」
ふむふむ。
そうね、ジョンがどこまでも逃げると追う方は面倒だ。
「で、本来調査隊同士の模擬戦は禁止されています」
「そうなの!?」
「訓練と称してイジメなどありますからねぇ……」
「じゃぁどうやってお互いの力を確認しあうのよ」
あれ。
真面目な事言ったのにミッケルが黙った。
「ええとですね、ラ……っと、ああ見えても、ジョンは強いのでジョンと訓練をして、ジョンやわたしが適材適所に配置します。
ですから、こういう訓練は多いのですのよ。万が一ジョンに勝てれば一日隊長も許されてますし」
「え、なんでジョンに勝ったら隊長なの!?」
あれ。またミッケルが黙った。
ジョンは無愛想だし、アンナに顔を向けると、アンナは下を向いている。
「ア、アンナ?」
「も、申し訳ありません。ク、クリスお嬢様が可愛くてつい笑いが」
一度医者か神官に見せたほうがいいかもしれない。
外傷は魔法でどうにかなっても、呪いまではどうにもこうにもわからない。
アンナは静かに微笑むと、優雅な顔つきになった。
貴族笑みというやつだ。
これが綺麗なのよね、生まれながらの貴族の風格というか、私には真似できない微笑だ。
それとメイド服が合わさると、世の中の男性人は拝む人まで出てくる。
比喩じゃなくて、実際来訪に来た貴族は何人も拝んでいったし。
「ルール説明の続きよろしいでしょうか?」
「あっごめん。禁止とか他にあるの?」
「はい。まず、首を切り落としてはダメです」
「…………」
「次に、心臓に一突きもだめですね」
「…………」
「魔法や回復は認められています。見た感じクリスさんには使えそうにはありませんけど」
「…………」
「まいった、こうさん、こうふく。など相手が言えばそこで終わりです、審判である私が止めても終わりです。間違えても『俺は幸福だったなぁ』って言っても、降伏と思いますので、言ったほうの負けです」
「…………」
「次に――」
パッッッン!
私は手のひらを思いっきり叩き合わせる。
喋っていたミッケルが押し黙った。
「私が、首切り落としたり心臓ついたり、魔法が使えそうにない馬鹿みたいな顔で、負けを認めた相手に攻撃しかける女性って言いたいわけ!? 酷いでしょ!」
「………………どこぞの不良青年は負けを認めても、トラウマになるほど殴ってましたよね?」
「あっ」
優しいハンナさんの孫の事だ。
名前はええっと…………スライム。いいえクライム。ちがうクラインだ!
「してましたよね?」
「ええっと…………虫が飛んでいたみたい、説明お願いします」
「いやはや、最近は多いですからね。では最初から続けさせていただきます」
最初からとか! と突っ込みを我慢する。
ちらっとジョンをみると、心なしかジョンも飽き飽きした顔をしていた。
うんうん、わかるわよ。
勝負前にチマチマチマ説明されると士気下がるわよね。
「――すか? 聞いてますか? クリスさん」
「あっはい。存じてますわ」
反射的に注意された時の口癖が出た。
なんについて存じてるのかわからないけど、大抵はこれで相手は黙る。
「…………では、練習用の剣を。刃は落とされているとはいえ高速で振り回すと切れますので。いいですか? ルールは絶対ですからね。守れないなら調査隊から外れていただきます」
「「わかった」」わ」
いつの間にか来ていた調査隊の人が剣を二本地面にさして遠ざかっていく。
ジョンは刺さった剣を引き抜く事はせず、私を見た。
「…………二本とも引き抜いて確認しろ。好きなほうを選べ、二刀流であれば三本目をもってこさせる」
「どういう意味よ?」
いちいち喋り方が偉そうなのよね。
「おっと、クリスさん横から失礼しますよ。剣に不正がないかって確認ですね。負けた時の剣に違いがあった。という人間がいたりいなかったりするので」
「そんな馬鹿な奴がいるの!?」
「ええ、そういう人間はいつの間にか調査隊からいなくなってますけど」
ふーん、怖い話もあったものね。
って事は、やっぱりジョンは強い相手なわけよね。
楽しみが増えた。
「こっちでいいわ」
私は剣を一本抜いて少し下がる。
二本とも確かめるほど馬鹿じゃない。
「…………では余った方を使う」
ジョンも一本を引き抜くと少し後ろに下がっていく。
「あのー二人とも、殺気みたいなものだしあってますけど殺し合いじゃないんですからね。回復魔法や道具があるからって、本当に頼みますよ? あの尿道結石ってとても痛いんですからね。
お二人のためと、今後の緊急時に作戦を立てやすいから特例をだしたわけで、聞いてますか?」
「「大丈夫」よ」だ」
「では笛が鳴ったらスタート、次に鳴ったら終わりです」
いつの間にかミッケルの横にいたアンナが、そっくりですね。と、小さく笑いをふきだした。
誰と……?
考える間もなく笛の音が鳴り響いた。




