20 クリスとジョン
綺麗になった部屋のソファーの上で、いまだ息の切れたミッケルが汗を拭いている。
「いやはや、基本は事務系ですからねお見苦しい点を見せて申し訳ない」
「こっちこそアンナが色々無茶いってごめん」
「クリスお嬢様謝ってはだめです、断る事も出来たのに最後には進んで作業をしていたのですから」
「進んではいない……」「そういう事にしておきましょう」
男達の意見が終わると、ケラが元気な声を出す。
「きれいきれいなのー」
「はい良かったわね、さて……」
私はミッケルとジョンを見る。
二人がいるのが想定外で、話を中々切り出せない。
「おや、私達は邪魔なようですね。帰りましょうかジョン」
「そうだな、用はすんだ」
「まつなの!」
ケラが二人を呼び止めるので、私達もケラを見る事になる。
ケラの手にはアンナが持ってきた手紙が握られており、そのままミッケルに手渡された。
「これは一行目から読んでもよろしいので?」
「読むなの!」
「では『ラインハルト殿、まずは貴殿とクリスとの婚約破棄を申し訳なく思う』」
「はっ?」
ドン!
無意識にテーブルを叩いていた。
「あ、ごめんなさい」
「ええっと、続き読みますよ」
「『貴殿がこの手紙を受け取った場合、すでに和平条約はあやふやな物となっているだろう。娘の一人をそちらに送るので、本人の希望があればクロイスの石を手渡してあげて欲しい。友人ザック・コーネリア』」
読み終わった手紙をたたむと、私に手渡してくれた。
私は広げて文字を読む。
確かにお爺さんの字だしコーネリア家の印が押してある。
頭が混乱する。
私と異国の皇子が婚約って話は初めて知ったし、クロイスの石って何!?
「そもそも、そんな大事な手紙を本人がいない場所で読んだらだめでしょ!」
ゴトン。
また無意識にテーブルを叩いていたらしく、硬い石で出来てるはずのテーブルが割れた。
「「「「「………………」」」」」
沈黙の中とりあえず謝る。
「ケラごめん。テーブルが割れた」
「ケラ様、クリスお嬢様に代わり、わたくしアンナが弁償いたします」
「いやはや、どうやら印も同じ、それに噂どおりの本物のクリスさんらしいですね。さてジョンどうしますか?」
「…………時間が合わない、そこはどう説明する?」
「ジョンすごいっ!」
私は驚いてジョンを見る。
周りの人たちも何故か私に注目した。
「どうしたなの?」
「いいえ、ジョンが十文字以上の言葉を喋れるだなんて」
「…………殺すぞ」
「冗談なのに、だったら勝負する?」
殺すぞ。といわれて黙っているのも変だ。
売られた喧嘩は買ったほうが面白い。
「まぁまぁまぁクリスさん、落ち着いてください。ジョンも少し言いすぎですよ」
「クリスお嬢様、無礼な男は私がなんとかしますので」
腕を組んでソファーに背中を預ける。
ケラが可愛い顔をして手を上げる、挙手というやつだ。
「はいはいなの! ケラも気になってなの! クリスちゃんは北の王子と婚約してたはずなの! ひろうえんの時間と合わないなの!」
「…………なのなの煩いな」
「ちょっとジョンっ! それ――うっ!」
は、思っていても言っちゃダメよ! と言おうとして、お腹に衝撃を受けた。
横を見るとアンナが私のお腹に軽い裏拳で突っ込んでいたからだ。
「……なんだ?」
「いや、あの。なのなの可愛いじゃない…………のと…………思うのよ?」
「ありがとうなの!」
ケラが可愛く返事をする。
危ない所だった。
「ええと、私がここにいるのはアーカル王子に婚約破棄されて転移の魔方陣で国外追放されたから」
「「…………」」
一同押し黙る。
先に事情を話したアンナは驚く事はしてなく、残りの三人が眉をひそめたり、腕を組んだりしていた。
その中でもミッケルが、少しよろしいでしょうか? と、私に質問してきた。
「あの……簡潔すぎてわからないのですが、クリスさんは何か不始末をしたのですか?」
「ぜんっぜん。既にお腹に子供がいる女性が婚約者としているから婚約は出来ないって」
「でしたら、普通は側室や莫大な違約金を貰うとか……」
「いやーなんていうの? 国を脅かす豪傑令嬢とは婚約できないって」
…………。
……………………。
「なるほど、それなら仕方がないですね」
「ちょっと! 今の間はなによ、今の間はっ!」
「いえ、少々驚きすぎて考えていただけです。ええっと事情は何となくわかりました」
「で、こっちの事情は話したけど、私の疑問が何一つ解決してないんだけど」
「ええっとですね、我々帝国調査隊。その隊長がラインハルト第三皇子なのですよ。ねぇジョン」
「ジョンなの。ジョンなの。ジョンなの。ジョンなのっ!」
突然ケラがジョンを見ながら、ジョン、ジョン、ジョンと連呼しだした。
「ちょっと壊れた蓄音機みたいにどうしたのよ」
「ちゃんと名前を覚えようと思ってなのっ!」
「………………それは良いと思うんだけど、なんでニマニマしてるの?」
「なんでもないなのっ!」
変な子だ。
「あっ!」
今度は突然アンナが口を開くので私はアンナを見る。
「何?」
「…………いえ、なんでもありません、クリスお嬢様。そうですよねジョンさん」
「……………………」
「ちょっと、アンナが聞いているんだら何か答えたらどうなのよっ!」
「大丈夫です、クリスお嬢様! とっても仲良くなれそうな予感がします」
一応投稿前に読んでますが誤字報告ありしだいしてますっ! あわわ




