19 ビュフォーアフター なんということでしょう
結局ギルドに戻ってきた。
なんだかんだと、お昼は過ぎている。
朝の混雑も収まっていて私は、ギルド職員のミィちゃんが座っているカウンター前へと行った。
「こんにちはクリスさん」
「あら名前覚えていてくれたのっギルドカードもまだ出してないのに、朝はいなかったわよね?」
「はい、今日はお昼からで。クリスさんは一晩で有名…………いえ、ミィが担当した人なので」
「何か嬉しいわね。今度ケーキでも買ってくるわ」
「わぁ、ありがとうございます。所で本日は?」
「っと、忘れてた。これ」
私は家紋が入った手紙をそっとカウンターに出す。
この手紙はアンナが預かってきた物で、私が代わりに出した。
「この手紙を見せてギルドマスターに連絡取れるかしら、私の連れがラインハルトという人物に会いたがっていて」
「ギルドマスターにラインハルト様ですが……確認はしてきますが、あの必ずギルドマスター様に会えるとは……」
「その辺は大丈夫。会えなかったら会えなかったでまた考えるから」
では。と、ミィちゃんは席を立つと上の階へと確認しにいった。
すぐに戻ってきて、部屋にいますから、上へどうぞ。と、伝えられた。
アンナと共に冒険者ギルドの三階へと上がる。
ギルドマスター室と書かれたプレートがありノックをする。
「あいてるなのー!」
今朝聞いたばかりの「なのー」が聞こえたので部屋へと入る。
「失礼し…………」
言葉がとまった。
部屋の中は熊のぬいぐるみが沢山あり、子供用のベッド、テーブルにはお菓子の食べ残しや変色したアップルパイだったような物。
中身が空になってこびりついた何かのスープだった皿。
脱ぎ散らかした服が部屋の隅に山になっていたりもする。
さらに、奥のテーブル前で制服を着たミッケルと、隣で黒髪のジョンが眉をひそめて私達を見ているのが見えた。
「あら、ミッケルと、ジョン」
「おや、奇遇ですねクリスさんと……メイドさんですか?」
「はい、クリスお嬢様のメイドをしていますアンナと申します」
「………………」
一人だけ無愛想なジョンは置いておいて挨拶をすます。
「どうぞ入るなの!」
「…………入りたくないんだけど」
「なんでなの!?」
不思議そうな顔をして聞いているが、なんでもなにも汚いからだ。
「クリスお嬢様、少々お時間を。ギルドマスター様お部屋を少し片付けても?」
「…………ケラ片付けはしたくないなの……苦手なの」
「大丈夫です! ケラ様は座っていてくだされば」
「お願いするなの!」
では、と。一言いうとアンナはすばやく動き出した。
食器をまとめると、近くにいたジョンを見る。
「そこの黒髪の人。これを下のウサギ耳の亜人に渡してくださいっ!」
「…………ことわ…………」
「渡してくださいっ!」
「「……………………」」
数秒にらみ合いが続くと、ジョンはため息と共に食器をもって部屋を出て行った。
「すごいですね。あのラ……おっと、ジョンが戦闘以外で命令を聞くとは」
「ミッケル様ですよね、申し訳ありませんがこのぬいぐるみを窓の外で叩いてください。ほこりを飛ばしたいのです」
「ええ、それぐらいお安い御用ですよ」
ミッケルが窓を開けてぬいぐるみを叩く。
ぬいぐるみの場所が空いたのでその間にアンナはテーブルや台をすばやく拭き出した。
「アンナ、私は何をすれば?」
「クリスお嬢様は座っていてください」
「いやでも」
皆が忙しく仕事してるのに、私とケラだけが遊んでいるのも何か悪い。
ギルドマスターのケラもソワソワし始めた。
「ケ、ケラも何か手伝うなの!」
「いえ、最初の約束どおり座っていてください」
下から戻ってきたジョンに対してアンナは洗濯物の山を指差す。
「ジョンですよね。お名前を本人から聞かされてないので呼び捨てで申し訳わけありません。次はアレを下に。先ほどの亜人さんに聞けば何とかなると思いますので」
「………………」
「何かいいたそうですけど?」
「…………わかった」
ジョンは洗濯物の山を樽ごと抱えて部屋から出て行った。
小さな笑いが聞こえるのでそちらを見ると、ミッケルが小さく笑い出す。
「ミッケルさん、それが終わったのであれば棚に綺麗に並べてください」
「了解しました。アンナさん」
「ええっと……アンナ私達も」「なのー」
アンナは私達を見て笑顔を振りまく。
「いいえ、クリスお嬢様に掃除など低俗な事をさせるわけには」
「いや、低俗でもなんでもないと思うわよ」「うう、汚くしてごめんなさいなの……」
「いいえ、ケラ様。ここはケラ様の部屋なのでどう使おうがケラ様の自由です。すぐにおわりますので、ではお二人にはこのゴミ……と思われる物を捨ててきてもらえますか?」
確かに途中まで文字が書かれた紙や丸められた布、インクが乾いたビンなどが散らばっている。
私とケラはそれらを集めて下へと降りていった。
二人でギルドマスターの部屋に戻ると、なんという事でしょう。
あの汚かった部屋が一瞬で綺麗になりました。
不思議と頭の中で言葉が流れた。その言葉どおりピッカピカだ。
「お帰りなさい、クリスお嬢様とケラ様」
「「すごい」なの」
問題があるとすれば、ミッケルが床で大の字になってハァハァしており、ジョンもソファーでぐったりしてるぐらいだ。
「お前の…………所のメイドは……鬼か」
「ジョン、いいすぎ……ハァハァ。ですよ」
うん、小さい問題だったわね。