18 クリスとのんべえ達
引き続き酒場にいる。
本当はすぐにギルドに行ったほうが良いのはわかる。
ほら冒険者にとって情報は金の次に大事って教えてもらったし。
ちなみに、昨夜酔ったジャン達によると、一番は金、次に情報、三番目に命らしい。
でも、私達が動かないのは酒や料理を食べているからだ。
ジャンいわく、食える時に食う。これも冒険者にとって当たり前だ! と力説している。
何が正解なのかわからない。
でも、その意見には賛成だし、私もお腹は減っている。
今回の代金はなんとアンナ持ち。
クリスお嬢様のご友人とあれば持て成すのが当たり前。と、言い出して店主に金貨を渡して色々注文したのだ。
「別に、このおじさん達は友人でもなんでもないからねっ!」
「ねーちゃん、俺達は親友と思ってるぜ」「そうですそうです」「ワシは酒が飲めれば誰でも友達じゃ」
「と、申されてます」
「まったく……要領がいいんだから、年下の女性におごられてプライドってのが無いのかしら」
「プライドで腹がふくれるならなー」
「あ、ほら料理来たわよ。残すのはダメやめてよね」
普通の貴族ならこんな事はないが、コーネリア家は実践向きの貴族で、食べ物を残すのはマナーが悪い。と教えられている。
他の貴族のパーティーに連れて行かれたとき、一口食べては捨てる貴族をみて口には出さないが嫌悪したものだ。
「まかせろ、俺の胃袋はドラゴン並みだ!」
ジャンが食べて飲んで食べて飲んでを繰り返すので、私も料理をつつましく頂く。
食べながらジャンにラインハルトの事を聞いてみる。
帝国の皇帝は流石に私でもわかる。
「たしか、皇帝様はファル・フランベル。第一皇子、第二皇子と共に国を治め、第三皇子なんて話聞いた事ないんだけど」
「おや、意外に学がおありで」
そういうのは自称神官崩れのクルだ。
どうやら食の細い彼が説明してくれるらしい、他の二人は食事に夢中で話に入ってこない。
「このラインハルト皇子、実は正式な奥さんの子じゃなくてですね。
他の皇子と仲が悪いのか、辺境を任されてまして。確か最近は帝都に一度帰って来てるはずですがね」
「へえ…………」
あいづちは打ったものの反応に困る。
愛人の子というのは貴族の中ではよくある話で、コーネリア家みたいに一人しか奥さん居ないほうが珍しい。
それでも、どちらかが亡くなれば後妻や親戚から養子をもらったりもしてるはず。
クルが正式な。と言ったのは愛人の中でも貴族以下の事だろう。
だって貴族が側室ならここまで冷遇されない。
「で、その探してる相手が第三皇子として、アンナとどんな関係あるのかしら」
「そこまでは……」
「結婚かもしれないのう」
ミラが酒を飲みながら呟くので、思わずアンナを見た。
「え、嫌です。わたくしアンナはクリスお嬢様と一緒の墓に入るんですから」
「「「…………」」」
それまで和やかな空気だったのに、ミラクルジャンが黙るから微妙な空気が流れる。
「まぁなんだ愛は人それぞれだからな」「なるほどのう」「女性同士ですかアブノーマルですな」
「そこ、アンナの冗談だからね。私はいたって普通だから!」
当のアンナは真顔なのが怖い。
「でも、色々情報ありがとう。それ踏まえて聞いてみるわ」
「おう。俺達はまだ飲み食いするからギルドが空いてるうちに行った方がいいぞ。本当に俺達が言っているラインハルトだったらギルマスクラスじゃないと話し通じないだろうしな」
「ギルマスって、あのハーフエルフの子でしょ?」
「なんだ、知っていたのか……驚かせようと思ったのに。
なのなの言っているが実力は本物だ。噂では若返りの魔法でああなったらしいけどな」
「適度にお腹も満たしたし行きたくないけど行ってみるわ」
「クリスお嬢様、嫌でしたらわたくしアンナの事は気にせず放置で――」
「ここまで聞いたら私も気になる!」
あと、お金になるならちょっとは欲しい。
私は金貨をすばやく五枚取り出すとテーブルに置いた。
アンナが慌ててクリスお嬢様! って言ったけど、アンナに出させるのも悪いと思ったから。
「いよいよ困ったら助けて貰うからその時にね」
「体で支払わせてもらいます!」
「さて、いきましょうか」
「クリスお嬢様無視は流石にどうかと……」
その言葉も無視して私は酒場を出る事にした。
酔ったままじゃ流石にとおもって柑橘系の果物を食べながら歩く事にした。