15 ギルマスに歓迎されるクリス
アルベルトは私が座る前に椅子を引いてくれた。
綺麗な人には当たり前のサービスさ。と、言ってくる。
うんうん、女心をわかってるじゃない。恋愛に興味ない…………さほど興味ない私ですら嬉しさが先に来るわよ。
「で、その無法者を倒す相手を探しているわけなの?」
「いいや、懸賞金が掛かっているわけでもなさそうだ。本当は無法者の話なんてどうでもいいんだ。君と話がしたくって」
これってナンパ?
「…………どうも」
でも私としては無法者のほうが気になる、強いのかしら。
最近は剣の訓練もサボってるし体を動かしたい。
「ねぇその無法者の情報教えて欲しいかも」
戦ってみたい。もちろん試合としてだ。
「いいよ。ええっと……名前はなんだっけかなぁ」
あっ名前。
私の名前名乗るの忘れていたわ、礼儀がなってないのを思い出してへこむ。
「あ、私のなま――」
「ええとね。町外れに一軒の家があるんだ」
喋りだしたので、私の名前は言えず仕舞いになった。
だまってアルベルトの話を聞く事にする。
「その家にいるのね! 家の住所教えて」
「ああ、ごめん、ちがうんだ。その家に冒険者である無法者が押し込んでね!」
「えっ強盗!」
「いや普通はそう思うだろ。その無法者は、依頼のついでにお婆さんの家に行って金目の物を奪おうとしてね。帰る時に、そのお婆さんの孫と鉢合わせしたらしいんだ」
「酷い冒険者ね……」
冒険者だからって何してもいいわけないじゃない。
無法者って言うだけで力自慢の馬鹿なのかしら。
「だろう? 普通なら冒険者カード剥奪だよ。しかもだそこを立ち去ろうとした所を、さっきも言ったように家主の孫に見られてね。その孫を半殺し、しかもだ。
警備兵に捕まるも保釈金も払わずにその日に詰め所を出た。って話を聞いてね」
別に正義をかざすわけじゃないけど、酷い。
それじゃお婆さんも、その優しい孫の人もやられぞんじゃないのよ。
「さて、暗い話も済んだところで、僕のパーティーに入らないかい? 先輩である僕が手取り足取り教えれると思うんだ。君みたいな美しい女性が変な奴に絡まれたら危ないだろ」
「肝心の名前は……?」
「クラ……クロ……ええっと」
アルベルトは思い出そうとして腕を組んでいる。
「クリスなのっ!」
「そうそれだ!」
小さい女の子の声で名前を呼ばれて顔をそちらに向ける。
年齢は十歳ぐらいの透き通る銀髪の子がテーブルの横に立っていた。
「え、クリスって私だけど!? ってか子供!?」
私が叫ぶとアルベルトも叫ぶ、ただ私と違い子供を見て驚いている。
「ギルドマスター!?」
ああ、なるほど。
「ギルドマスターの子なのね。綺麗な銀髪、お母さんも綺麗なんでしょうね」
「むふー! 嬉しい事をいうなの!」
銀髪の小さい子が笑顔になると、アルベルトが席から立ちながら喋る。
「ち、ちがう! 外見は子供に見えるかもしれないけど、この方はハーフエルフで特Aクラスの魔術師の称号を持つケレ様だ」
「よく知っていたなの。新人女性ハンターと異名を持つアルベルト君なの」
「へぇ。こんな子供が……あ、耳が確かにとんがっている。
じゃなくてっ! その話題にある無法者って私の名前なんですけど!!」
バンッ! と音が響く。
無意識にテーブルを叩いていた。
木製のテーブルがバコっと音を立てて割れた。それはもう真ん中から綺麗に。
「あっ先月やっとギルドの予算をやりくりして買い換えたばかりなテーブルがなの……」
「…………あらやだ。腐っていたのね」
私とギルドマスターの声が重なるとアルベルトが立ち上がる。
「そうだった……別の女性との約束を思い出した。では、よき旅を。ケラ様失礼します」
「え? ちょっ」
私が何か言う前にアルベルトは出入り口から去っていった。私は困って周りをみると、他の冒険者が一斉に顔を背ける。
最後に私の胸ぐらいしかない身長のギルドマスター? を見下ろす羽目になった。
「むふー。帝都にいて長いが、また面白い冒険者も現れたなの、むふふ」
「えっと……」
「見物は終わりなの、新人凄腕冒険者と仲よくなりたい人は今がチャンスなのっ! 朝の異様な空気もおしまいなのっ!」
ギルドマスター? が手を叩くと、周りの人間がそれぞれ動き出した。
もしかして、私が周りとうまく行くようにしてくれた? それだったら凄いしうれしい。
現にさっきと違い、私の周りに他の冒険者たちが来て、握手を求めてきた。
豪傑なねーちゃんだな。とか、今度時間があるとき踏んでくれ。とドン引きするよう事を言っては去っていく。
名前を伝えてくる人間はまだましで、中には握手だけして帰っていく人もいる。
あの、それじゃ覚えようがないんですけど……ってか何? 私一人だけ話についていけないんですけど。
「うおっと。ええっと、ケラ様」
「服を引っ張っただけなの! 特別にケラでいいなのっ!」
「はぁ……」
「今後はあまり騒ぎを起こさないでなのー」
ケラ様……いやケラは、むふーって笑顔になるとカウンターの奥へと入って行った。
それとともに謎の握手会も終わった。
「さて、どうしようか。まずはクエストよね」
と思っていると、私の背後からそっと肩に手が置かれた。
振り返ると、メイド服に大きなリュックを背負った見知った顔の女性が立ってる。
「クリスお嬢様…………ですよね」
「アンナっ!」
ほんの五日前まで私専属のメイドだったアンナがやつれた顔で立っていた。
私を見ると抱きついてきた。