14 クリス釈放の上ナンパされる
簡易牢の前で皮袋を手渡された。
中身は金貨が入っていて、なんでもハンナさんの孫を改心させた礼として、お爺さんとハンナさんからの謝礼が入っていた。
「人を殴ってお金が貰えるだなんて、冒険者って楽な仕事ね」
「「「………………」」」
「あの、冗談よ? 場を和ませようと思って」
「で、ですよねー。では我々はこれで、ジョンいきましょうか」
「了解した」
二人は私から離れていく。
警備兵の人も、気をつけて帰れよ。と、言ってくれて一人になった。
とぼとぼと歩く。
角をまがって、お腹が減った事に気づいた。だってハンナさんの夕ご飯も食べ損ねてるし。
「帰るか…………帰りに――――」
「酒なんてどうだ?」「アツアツの焼き鳥も美味しいですね」「ワシは卵が食いたいのう」
「うわー美味しそう。そうねそ…………」
うしましょう。
振り返ると、ミラクルジャンの三人ズがいつの間にか現れて私を囲いだした。
「な、なにっ!」
「何はないだろ、金が入ったんだろ?」
「そうじゃそうじゃ、わしらは飲んでただけで呼ばれて」
「牢につかまりましたな」
う、三人に詰め寄られると加齢臭がきそうで嫌だ。
「っても、そんなに貰ってないわよ」
「二十枚はあるじゃろ?」
「なんで、クルが中身の枚数をしっかりと知ってるのよ! はっ!」
相場が決まっておる。と、クルは小さく笑う。
「ねーちゃん知ってるか?」
「なによ」
「冒険者は貯金はしねえ、いつ死ぬかわからんからな、そして助け合う。俺たちは呼ばれた! 魔法もかけた! 弁解もした!」
ジャンが真面目な顔で言うので私は、心底ため息をついた。
「飲みたいだけよね。こっちも生活しないとだめなんだけど……わかったわ、全員で金貨五枚! これ以上は出さないし、借りは返したって事ならっ」
ジャンが私の肩に手を回して胸の部分を触ろうとしたので、手で払う。
「上等上等、いざ逝かん酒の泉へ!」
「「泉へ!!」」
行きたくないんだけどなー……でも、仕方が無い。
◇◇◇
目が覚めたら公園だった。
なぜに。
朝の仕事にでている職人達や散歩の人が私を遠巻きにみては忙しそうに歩いている。
「四件目までは覚えてるのよね……そう、あの三人と別れた後、宿に帰るには遅くなりすぎた。と帰るのが面倒! ってこの椅子に座ったんだっけ……」
どうやらそのまま寝ていたみたいだ。
金貨を入れていた袋を開ける。
十二枚入っていた。
「うう、予定より減ってる……飲みすぎよあいつらは……ともあれ、減った分は稼がないといけないわね。冒険者って忙しいのね」
これが実家であれば、頼み事をしてきた他の貴族を助けて謝礼もらったり、森の中で魔物を倒して領民から物を貰ったり、出入りを許されている商人と交易したり……あれ? 冒険者と何が違うのかしら。
ああ、そうか。
調整は全部執事がやるから暇だったのよね。
じゃぁ冒険者って執事? いや違うわね。
「痛っ!」
突然肩に痛みが走った。実際には痛くは無いけど……誰かにぶつかった。
「どこ見てあるんてるじゃ! このアマ!」
「ご、ごめんなさい、ギルドに行くのにぼーっとしちゃって」
「ああん? 言い訳なんて…………ん? 髪の長い金髪……小さい胸」
「なっ!」
突然胸の話をされてカチンとくる。
こういう男こそ世の中にいらない。
「ぶつかったのは悪いと思ってますけど、とつぜ――」
「冒険者のクリスか?」
「…………そうだけど、あなたは?」
男は突然地面に土下座した。
「ひぃ殺さないでくれっ」
「えっいや別に胸の事言われたぐらいで、イラっとは来たけど殺しは――あっ」
土下座した男は、立ち上がるとすぐに散っていった。
通行人がチラチラと私をみては目を合わせないように逃げていく。
なんなのよもう!
気分が優れないまま冒険者ギルドについた。
昨夜飲みながらジャン達に聞いた所、朝が一番込んでいて、特にF級なら当日の仕事もあるだろう。と教えてもらった。
「うわー込んでるわね……」
「美人なおねーさん、冒険者初心者さんかい?」
突然声を掛けられて振り向くと、白い歯がまぶしい青年が私を見て笑いかけてくる。
自然とこちらも笑顔になる顔だ。
「そう、まだなって二日目」
「二日目…………?」
「何か問題でもあった?」
「い、いやないよ? ただ君みたいな綺麗な人と噂の人が同じなわけないだろうし…………」
なんだろ。
「噂の人って気になる、どんな人?」
あれ。いつのまにか、混んでいたギルドがそうでもなくなっている。
私が不思議だなって考えると青年が話しかけてきた。
「僕はアルベルト。前衛でね、ランクはC。
この若さでC級になるって凄いんだ。あっ自慢じゃないよ?」
「よくわからないけど、凄いんじゃないの?」
年取ったミラクルジャンもC級なんだし。
「ありがとう、綺麗な人にそう言って貰えると嬉しいよ。あっ噂の人物だったよね。
僕も今朝護衛依頼から帰ってきて詳しくは知らないけど、このギルドに無法者がいるらしいんだよ」
「無法者って……冒険者に!?」
「そう、冒険者も一般市民にはよく思われてないけどね……それでもだ!
あっ。あっちの席が空いたね。この時間は席なんて空かないんだけどなー、君といるとラッキーが続くようだ」
アルベルトは私の手をギュっと握って強引にテーブルに連れて行った。