12 豪傑令嬢の微笑み
予想通りの行動をしてくれて助かる。
私は石をわざとギリギリの所でかわしてみせる。
突進してきたクラインの手をひねって小剣を地面へと落とした。そのまま地面へと倒すとクラインの顔を黙って見る。
手首を掴まれたクラインは痛そうにしながらも半笑いである。
こういう男は少しぐらいの痛みじゃ絶対に負けを認めない、むしろ、一回勝ったところで逆恨みをしてくるのが多い。
「わりいな、手元が滑っちまってよ。その拍子にポケットから小剣が落ちたわ」
「そう」
「そう怖い顔するなって、今度はババアの所に飛んでいくかもしれないなぁ」
そういうと、クラインは私から開放されて短剣を拾った。
すぐに私にしか聞こえない声で離れ際で喋りだす。
「さて。三度目のなんちゃらってな。動くなよ? 素直に負けを認めるんだな。
石が変な場所に……ババアの所に飛んだらあぶねえからよ。いやー間違えて剣のほうが飛ぶかもな」
三度スタート地点にたってクラインは投げるぞ。と、上空に石を投げる振りをした。
案の定クラインは私めがけて石を投げる。
知ってた。
同時に私は一直線に走った、顔に……クルミサイズの石なんて当たってもかまわない。
クラインのむなぐらを左手で掴む。
余った右手でクラインの顔面を殴った。
吹き飛ぶ事も出来ないクラインを、今度は裏拳で殴る。よしこれで左右一発、バランスがとれたわね。
あとお腹にえぐるように突きを入れた。
「っほ。げあああ」
「あらやだ汚い」
クラインは口から食べた物を出した。
当然そのままだったら私にかかるので、背中から地面に叩きつけて顔を近づける。
しゃがみこんで確認をする。
頼むから悪党であってね。
「ねぇ。降参する?」
「……るっ! こうっ、こうさんする!」
「もうハンナさんを困らせない?」
「し、しなっい」
私は地面に倒れ、ひざを抱えているクラインを片手で持ち上げる。
「はぁ……もっと抵抗してほしいのに、コイツは……」
ハンナさんに振り向くと、ハンナさんは震えていた。
うーん、ハンナさんに孫を手荒にしないでくれって言われたけど、嫌われたかな……?
「ハンナさんの横の人ー、そうそう名前知らないからお爺さんでごめんね。冒険者ギルドの近くにあるちょっと汚い酒場に、ミラクルジャンっておじさん三人が飲んでるはずだからクリスが呼んでるって伝えて……ええ、そうお願いします。あっこれも渡してきてっ」
私は金貨一枚しかない全財産の入った袋をお爺さんに投げて渡した。
◇◇◇
ミラ、クル、ジャンの三人がハンナさんの家まで来た。
この頃には野次馬も増えた。
あの馬鹿孫が懲らしめられてる。とか、やりすぎだろ。とか、さっきからあの女がクラインを持ち上げたまま動かないぞ。など、聞こえている。
野次馬をかきわけて三人が私に寄ってきた。
「なんだなんだ、ねーちゃん。こんな金貨一枚で人を呼びつけて、それになんだ、この胸ぐらで持ち上げられている坊主は、震えているぞ」
それでも来てくれるのが嬉しい。
「ただの金貨一枚じゃないわよ。私の全財産なんだから価値は高いわよ。いや回復魔法って使える?」
私はミラをみると、小さくうなずく。
「精度は低いですよ。治せない事はないですね」
「治してあげて」
「…………ミラやってやれ。よくわからんが、ねーちゃんが全財産をかけてまで頼み込んだんだ」
ミラも、そうですね。と、いうとクラインの顔に手を当てた。
小さい光がクラインの腫れた顔を治していく。
北じゃめったに見れない回復魔法、すごい。
…………じゃなくて。目的を忘れそうになった。
「クライン、もう一度聞くわ。降参って言いなさい」
回復魔法をかけるのに持ち上げたままじゃ出来ない。との事だったので地面に優しく下ろした。
地面にしりもちをついているクラインを上から見下ろす。
「しつこいな。わ、わかったよ。降参だ」
悪態をつきながらもクラインは二度目も降参と言ったのだ。
「はい、ありがとう」
私はクラインを軽くけって吹き飛ばす。
すぐに吹き飛んだ場所に足早に歩く、芋虫のようになったクラインがお腹を押さえて痛がっている。
頭や髪は危ないので、またむなぐらを掴んで持ち上げた。
「こ、こうさ……言った。言ったよなゲフ」
「ええ。確かに聞いたわ」
「だっ。ひ、卑怯だぞ!」
「ルールは相手が、まいったって言うまでよ。降参じゃないから」
私はクラインが抗議の言葉を喋る前に殴った。
殴った。
殴った。
ミラに回復させた。
回復させたクラインが喋りそうになったので口の中に掴んだ土を押し込む。
殴った。
殴った。
ミラに回復させた。
クラインの歯が何本が飛んで、何を言っているかわからないので殴った。
殴った。
殴った。
ミラに回復させ、四週目に入ろうかと思った所でミラクルジャンの三人と、ハンナさんと、ハンナさんの恋人っぽくみえるお爺さんと、野次馬に止められた。
「だって、まだ勝負ついてないでしょ?」
「ないった、まいっは、ほめんなばいごまんな――さい……いった……ごめん――なさいごめんな――――」
「周りも引いてるし辞めとけ……」
ジャンが私に言うと、野次馬が増えた。
遠くから数人紺色の制服の剣を腰につけた四人組が走って来たのがみえた。
あら珍しい、警備兵かしら?
私がそう思っていると、その四人組の一人が大声で叫ぶ。
「ここに冒険者が一般人に対して暴行を加えていると情報が入った!」
「えっ、そんな悪党がいるの!?」
思わず私が叫ぶと、一瞬にして周りが静寂になった。
そして全員が私を見ている。
なんで?