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10 石を片付けるクリス

 部屋の掃除は終わった。

 割れた陶器製の皿や花瓶をまとめて袋にいれたり、お婆ちゃんの手当てをしたりと、忙しい。



「何から何までごめんなさいねぇ、ええっと可愛いお嬢さん」

「やだ。本当の事を…………って! そう名前言ってなかったハンナさんですよね? クリスといいます。ええとこの紙がギルドの依頼書で」

「はい、あってますよ、そうねお茶にしましょう。秘蔵の葉があるのよ。

 あらやだ、お茶葉も無くなっていたわ、こまったわねぇ」



 ぜんっぜん困ってないように見えるけど、おっとりしてるからよね。

 咳払いをしつつ話を戻す。



「ええっと、庭の手入れの依頼で来たんですけど……」

「そうそう、もうこの年齢でしょ庭のお手入れが出来なくて、息子がねよく冒険者をしていた時に庭の手入れをした。って言っていたのを思い出してね、ダメもとで依頼しておいたの」

「いい話ですね。その息子さんは?」

「冒険者になって行方不明なの、もう死んでるかもしれないわねぇ」



 ニコニコと笑うハンナさんを見てちょっと言葉に詰まる。



「だから、孫のクラインは冒険者さんが嫌いなの、さっきの事許してあげてね」



 見つけたら引きずり回して指の一本でも折ってやりたい。と、思っていたけどお願いされたのならしょうがない。



「では早速庭の手入れしますね」



 気まずくなって庭にでる。

 大きさは小さい畑もかねていて、畑以外の部分が酷い。



「にしても、一日じゃ無理かも」

「そうでしょ、前にも冒険者さんが来たの。でも十日はかかるって行ってね。この量とお給金を見て帰っちゃったわ」

「っ! いつの間に背後に」



 こう殺気を持たない人間が一番困る。

 私だって山の中とか行けば気を張るし何となくわかるけど、街中で毎回気を張ると疲れるし無理。



「だから無理でもいいのよ、せっかく来てくれたもの、年寄りの話に付き合ってくれれば報酬は支払うわ」

「でも、二日もあれば、それに……大丈夫です! これでも『冒険者』なので」



 なんにせよ、私が選んだ最初の仕事だ。

 失敗はしたくない。

 このちょっと大きい石が邪魔ね。



「でも、その岩なんて先日来た冒険者さん三人でも……」



 背後の言葉を聞きつつ、私は邪魔なちょっと大きい石を持ち上げた。



「どの石でしょうか? この石は端に寄せても?」

「…………なんでもないわ。その岩、じゃないわね。石はあっちに置いてくれるかしら」

「はい」



 ちょっと大きい石が無くなったので、今度は雑草が引き抜きやすい。

 数本まとめてつかみ、背後へと体重を掛ける。



「そ、その草は根が凄いでしょ。先日きた冒険者さんも引き抜こうとしたの、でも抜けなくてね腰を悪く……」

「っしょっと! ふうー綺麗に抜けた。すみません雑草引き抜くのに夢中で何その、聞いてなかったというか」

「…………いいのよ。お夕飯一緒にと思ってね」

「いいんですか?」

「ええ」



 やった! ご飯代が浮く。

 これはやる気が出てくる、今日中に八割ほどは終わらせたい。

 いやなんだったら全部終わらせたい。



「がんばります!」

「そ、そう? ほどほどにね」



 ハンナさんの指示の元、雑草を引き抜いては端によせ小石や石もつみなおす。

 夕方には小さな畑から大きな畑に早変わりした。

 と、言っても。ハンナさん一人じゃ管理できないらしいので、知り合いに貸すらしい。

 最後の雑草を処理すると、家の中から声がかかった。



「クリスちゃん、お夕飯できましたよ」



 私は手を洗い、ハンナさんに招かれた食堂へと行く。

 見た目が真っ赤なスープとパンがテーブルに置かれていた。



「ありがとうございます! うわー美味しそう。でもこれって」

「そう珍しいでしょ? トマトじゃなくて赤トウガラシを使ったスープ。これでも昔はお城に勤めていたのよ。お城っても街から見える帝国のお城じゃなくてグラッツ王国。

 わかるかしら、北にある冬が厳しい国でね」



 わかるも何も、そこ出身だ。



「そこにね、シリウス・コーネリア様っていたの、知ってるかしら? その方の大好物でね。よく厨房で作るのを手伝わされたわ。あらどうしたの?」



 思わず、噴出しそうになったのを堪えた。

 私偉い。

 シリウス・コーネリアはお爺ちゃんの名前だ。



「ええっと、おじ……そのシリウスさんって人とハンナさんがもしかして恋人だったとか?」

「うふふ、だったら良かったかもしれないわね。私はただのお城のメイド。それに、シリウス・コーネリア様が結婚し退役してから私もお仕事で失敗しちゃってね。その時に庇ってくれた主人と帝国に来たの」



 ああよかった。

 お爺ちゃんの恋人だったらどうしようかと思った。



 改めてスープを一口飲むと扉が突然開いた。

 体格のいい男性で髪は短く刈っている、私に扉を当てて逃げた男だ。

 入ってくるなり叫ぶ。



「ババア。金だ! もっと金が要る! ああん? 何だお前、お前か庭の雑草を刈った奴は、迷惑なんだよ迷惑。俺が何もしねえ奴と思われるじゃねえか。

 そうだ、冒険者に払う金あるんだろ? 庭の雑草だったな、俺が残りやるからお前は帰れ」



 あー本当によかった。

 こんなクズと親戚にならなくて。

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― 新着の感想 ―
[一言] お婆さんが優し過ぎて孫がクソ野郎になった例……? コレはクリスの全力パンチによる教育的指導が必要ですね!
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